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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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冬休み 獣王国レオンへ


 後期の中間考査が終わり、十二月も中ごろから末に向かい始めた頃、ユグドラシル学園では新年を祝うための休暇が与えられる。

 秋の長期休暇と比べると二週間と短く、帰省しない生徒もいる。


 そんな中アランはミズハ達と話しをしていた。


「冬休みに獣王国レオンに来ないか?」


「突然おじゃましちゃって良いの?」


 アランの言葉に疑問をぶつけたのはミズハだった。


「ああ、大丈夫だ。秋休み前から申請していたからな」


「秋休み前からって……。ハァ、アランそういうのは事前に言っておいて貰わないと困るから」


 胸を張るアランに溜息を吐いてナノハが答えた。


「申し訳ありません。こちらにも事情が御座いまして」


「まあ、いいんじゃない。僕は獣王国レオンに行かせてもらうよ」


 アランを弁護するように話しだしたレイニードに便乗してケニスが参加を表明した。


「別に、私もいかないとは言っていないし。ただ、此方の都合も考えて、って思っただけ」


「いったん国に戻ってからでいいのなら行かせてもらうわ」


 ナノハの遠まわしな「行く」発言にミズハは口角を緩めると賛同した。


「本当か! ミズハ達は何処の港を使う? 使う港まで迎えを送るぞ!」


 アランは嬉しいのか獅子の耳はピンと立ち、尾は嬉しそうにユラユラ揺れている。


「え!? 迎えを出してくれるの? 私はアマノ共和国のこの港を使うよ」


「僕はシュティーザ帝国のこの港です」


「私は自力で行けるから大丈夫よ」


 ナノハとケニスは即座に最寄りの港を教えたが、ミズハは辞退した。


「遠慮はしなくていいんだぞ。今回は本当に許可が降りたんだ」


「遠慮している訳じゃなくて……。実は秋の休みの時にグリフォンと契約を結べたのよ。その子にお願いしようと思っただけだから」


 アランの言葉にミズハが返すと、ナノハが興奮したように言葉を発した。


「え!? ミズハいつの間にグリフォンと契約結んだの?」


「ナノハの家から帰る時にね」


 ナノハが興奮するのも頷ける。グリフォンはAランクの魔物だからだ。その中でもミズハが契約を結んだのはグリフォンの変異種にしてSランク指定の魔物だった。

 もし、ナノハがその事を知っていれば、興奮どころの騒ぎではなかっただろう。


「なるほど。では、ナノハとケニスの迎えを出せば良いのですね」


 レイニードが納得気に頷いた。

 こうしてミズハとナノハ、ケニスはアランとレイニードが暮らす獣王国レオンに向かう事になった。


 冬休みに入るとそれぞれいったん故国へ向けて帰省して行った。

 ターザ国の王都にあるゲオルク邸に着いたミズハは養父母に獣王国レオンに行く事を告げると、エスタークが久しぶりに獣王国レオンに里帰りする事になり、一緒に向かう事になった。


「【契約者よ 我は願う 今ここに顕現せよ 黒曜】」


 契約しているグリフォンを呼ぶために詠唱したミズハの後ろには、エスタークを始めゲオルク、アリアナ、ダグが控えている。


「クルルル!」


 黒翼のグリフォンと呼ばれていた黒曜は久しぶりに会ったミズハに、音符がつくのではないかいうほど嬉しげな声を上げた。

 ミズハは何故これほど懐かれているのか疑問に思ったが、挨拶する事にした。


「久しぶりね、黒曜。来てくれて嬉しいわ。あの子達は元気にしている?」


 ミズハの質問に黒曜は頷く。

 ミズハの言った「あの子達」とはグリフォンと精霊の合いの子のグリフォンと氷狼の子、銀霊亀の子の三体だ。

 黒曜と契約した時にあっている。


「戻ったら銀霊亀の子にお礼を言っておいてもらえる? 貰った甲羅で立派な短剣ができました、って。それで、今日呼んだのは私と父さん、あそこの銀髪の人ね。を乗せて欲しいのだけど良いかしら?」


「グル、グルルル」


 ミズハの話しを聞いてエスタークをチラリと見ると、しっかりと頷いた。


「それにしても立派なグリフォンだな! 俺が今までに見て来た中で一番だ!」


 ミズハとグリフォンの話しが終わったとみて、今まで黙っていたエスタークが前に進み出た。

 エスタークの目は輝いており、興奮度合いが解る。しかし、倒してグリフォンの素材をどうの、というのではなく純粋に立派だと思っているのだろう事が解る。


「流石、黒翼のグリフォンといったところか」


 ゲオルクも近場に寄って来て黒曜を観察する。

 エスタークとゲオルクも黒曜に戦闘の意思がない事を感じ取ってのやり取りだ。


「エスターク父さん乗りましょう」


「おお、そうだな。滑らかな毛皮だな!」


 ミズハがまず黒曜に乗り、エスタークが後からミズハの後ろに乗り込んだ。


「じゃあ、行ってきます」


「行って来るぞ」


 ミズハとエスタークが出立の挨拶をすると、ゲオルクとアリアナ、ダグが一言ずつ言葉を発し、黒曜は二三歩助走をつけると大空に飛び立った。


 ターザ国の王都近くの草原から飛び立ったミズハ一行は、進路を北に取り、一路獣王国レオンの王都を目指した。

 遥か上空から見る景色はすばらしく、ミズハよりエスタークが興奮する事になった。

 国境を超え獣王国レオンの王都を目指す。

 見えて来た獣王国レオンの王都の近くの森に黒曜が着陸すると、ミズハとエスタークは黒曜の背から身軽に飛び降りた。

 獣王国レオンの王都はフランツェといい、獣王国レオンの南北の中心、内海沿いに建てられている。

 港を一望できる王城からは船と王都が遠望できる。

 そんな王都フランツェに黒曜で乗りこむ事はできず、近場の森に着陸したのだ。


「ここまで乗せてくれてありがとう。これだけの事で呼び出してしまってごめんなさいね」


「グルルル! クルル」


 黒曜はそんな事はないとミズハの身体にすり寄って甘えた声を出す。


「ふふふ、くすぐったい。黒曜、本当にありがとう。また、呼んでも良いかしら」


「クルルルゥ」


 ミズハの言葉に黒曜は嬉しそうに頷いた。

 そして、ミズハが送還の呪文を唱えると魔法陣が黒曜の足元に現れ、魔法陣に吸い込まれるように黒曜は消えていった。


 ミズハとエスタークは獣王国レオンが王都フランツェに向かって走り出した。

 黒曜の背から見えた王都フランツェだが、人の足だと暫くかかる。

 森に現れる魔物を無視して駆け抜ける二人の後ろには、呆気に取られた魔物と動物達が居た。

 無駄に気配のない動きで走って行く二人に、モンスターも動物もギリギリまで気付けないのだ。

 二人のスピードも速く、砂煙が上がらないのが不思議なくらいの速さで駆け抜けていく。

 そんな二人だからこそものの三十分で森を抜け、王都フランツェに向かう街道に出た。


「よし、ミズハ。街道のわきを駆けていくぞ!」


 エスタークはそう言うと街道から少し出て、更にスピードを上げて駆けだした。

 ミズハも街道から降りるとエスタークのスピードに合わせて足を速める。


 そしてついに王都フランツェの外壁と大きな門が見えて来た。

 門に並ぶ人々の最後列に並び、検問の順番を待つ。

 そして獣王国レオンの王都フランツェの中に入った。


「王城に行くにしても旅装束じゃ、まずいしな。俺の実家に行くぞ」


 そう言ってエスタークがミズハを案内したのは王都フランツェの一等地。つまり貴族街だった。

 ゲオルク邸も広大な敷地を要しているが、エスタークはどんどん奥へ、王城の近くへと歩いて行く。

 流石のミズハも貴族街の最奥を進むにつれ緊張し出した。


「エスターク父さん。本当にこっちなの?」


「おう、こっちだ。……ここが俺の実家だ」


 ミズハはゴクリと生唾を飲んでエスタークに訊ねるが、エスタークは直も歩を進め、貴族の屋敷にしても特に広大な屋敷の門に着いて親指を向けた。






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