生徒会選挙
十二月の上旬に開かれる生徒総会、生徒会選挙の為に募集の張り紙が学園祭の前に張り出されていたが、忙しさのせいか知っていたのは一部の生徒だけだった。
その知っていた生徒の内の二人、アランとレイニードは生徒会選挙に出るために募集用紙に必要事項を記入していた。
「あれ? アラン達は何を書いてるの?」
ナノハの問いにレイニードが「生徒会選挙の用紙ですよ」と答えた。
「アラン達は生徒会に入るつもりなの?」
「おう! そうだ、ミズハも入らないか?」
ミズハの問いにアランが良い事を思い付いたと言えば、ミズハは少し悩んで「考えさせて」と答えた。
「それで、アラン達は生徒会役員の何希望なの?」
「私が書記でアランが会計志望です」
ナノハの質問に返すのはまたしてもレイニード。
ユグドラシル学園の生徒会には生徒会長を頂点に副会長・会計・書記・庶務・魔人・武人の七名で構成されている。
ユグドラシル学園の特徴としては魔人と武人の両名だろうか。
学園で魔法が上手いとされているものを『魔人』、武術が優れているものを『武人』として生徒会入りを推薦されるのだ。
「そうなのね。選挙の時は二人に投票するわね」
ミズハがそう言えばアランの顔はだらしなく緩む。
それを見ていたレイニードが「出馬用紙出してきますね」とそそくさとその場を後にした。
アラン達が出馬用紙を出した日の昼休み放送がかかり、ミズハとナノハ、ケニスは生徒会室に呼ばれた。
アランが着いて行こうとしたが、ナノハにすげなく断られて落ち込みながら教室で待っている。
生徒会室の前に辿り着いたミズハ達三人は、一呼吸してから扉をノックして室内に踏み込んだ。
「態々来てもらってすまないね。君達がケニス君とミズハさん、ナノハさんであっているね。俺は今期の生徒会長、シトラセン・デュワーだ。君達にお願いがあってご足労願った」
赤い短髪にオレンジ色でつり目がかった瞳の美形の男子生徒、生徒会長のシトラセン・デュワーは机の上で手を組みミズハ達を見やった。
傲慢にも見えるその態度はけして不快ではなく、見下す様な雰囲気は一切なかった。
「君達は学園の生徒会役員『魔人』と『武人』を知っているか? ああ、知っているみたいだな。ケニス君かミズハさんに『魔人』として生徒会入りしてもらいたい。ナノハさんには『庶務』として生徒会入りしてくれると助かる」
シトラセンの説明でミズハ達が生徒会室に呼ばれた訳はわかった。
ユグドラシル学園の新入生代表を務め、テストでも学年一位になっているナノハが生徒会に勧誘されるのも当然であるし、武芸大会魔法部門個人戦で優勝と準優勝のうえ詠唱破棄を見せたケニスとミズハが誘致されるのも当然である。
「デュワー先輩一つ良いでしょうか?」
「なんだ、ケニス君」
「僕は武器の方が得意なんです。『武人』になりたいのですが、もうお決まりですか?」
ケニスの言葉に目を瞠り、驚きを露わにするシトラセンにケニスは苦笑する。
ナノハもまた驚いており、素のままなのはミズハだけだった。
「二年から武人を選ぼうと思っていたが……。そうだな、今日の放課後空いているか? 空いているなら模擬戦を頼む」
シトラセンの言葉に頷いたケニスは、本日の放課後二年生の武人候補の生徒と模擬戦をする事になった。
「では放課後、武道館で待っている」
シトラセンの言葉で今回の会合はお開きになった。
放課後も解放されている体育館は自主練習の生徒が居るため、普段使わない武道館を貸し切り、模擬戦をするようだ。
ミズハ達が教室に戻るとアランが真っ先に駆け寄り、無事を確認した。
なぜ生徒会室に呼ばれたか説明したミズハは、今日の放課後ケニスが模擬戦をする話をした。
ミズハの話を聞いたアランとレイニードは、ケニスが武術にも秀でていると聞いても顔色を変えず「そうだろうな」と頷いた。
それなりに武術を修めているアランとレイニードからすれば、ケニスの立ち居振る舞いは武術を修めた者の動きだとわかる。
一人だけ驚いていた事を知ったナノハは少し不貞腐れるが、頃合いを見計らったように午後の授業が始まった。
放課後、ミズハ達五人は武道館へ向かって早足で歩いていた。
後輩として先輩を待たせる訳にはいかないという理由もあるが、今回の模擬戦を楽しみにしているアランがスタスタと歩いて行くからだ。
武道館の前に辿り着いた時、まだ人影は存在せずミズハ達五人は入口で待つ事にした。
待つ事しばし、武道館の鍵を持ったシトラセンと武芸大会入賞のリボンを身に着けた二年生の生徒がやって来た。
「待たせてしまったようで、すまないな」
シトラセンはそう言うとケニスと二年生の生徒を中央のリングへといざなった。
「ルールは木剣による一対一の魔法禁止。先に三撃加えた方の勝ちだ。木剣は学園指定のものなので様々なサイズがある、自由に選んでくれ。」
ルールの説明を終えたシトラセンは脇により、木剣の入った籠を指し示した。
ケニスと二年生の生徒は籠に近寄り、より自身の使い勝手の良い木剣を選んだ。
木剣を選び終えたケニスと二年生の生徒は対峙し、距離を取る。
「開始!」
シトラセンの開始の合図でケニス達二人は距離を縮め、一撃目を放つ。
二年生の生徒の袈裟切りの剣筋をケニスがいなし、更に一歩踏み出し突きを放つ。
最初に一撃を入れたのはケニスで、続いて二撃三撃と攻撃していく。
二年生の生徒も最初の攻撃が当たって以来、何とかケニスの攻撃を避けている。
何とかケニスと距離を取りたい二年生の生徒はバックステップで後退しようとしたところで二撃目を加えられ、たたらを踏んでところで喉元に剣先を突き付けられた。
「そこまで! 勝者ケニス君!」
シトラセンの終わりの合図で木剣を引いたケニスは二年生の生徒に手を貸した。
「まさかケニス君がここまでやるとは……。魔法に武術どちらをとっても一級品ではないか。改めて生徒会はケニス君を武人に押す」
「ありがとうございます」
こうして試合も終わりミズハが魔人に、ナノハが庶務に、ケニスが武人にと生徒会から正式に推薦を受け生徒総会、生徒会選挙が始まった。
まず生徒会長に立候補したのは灰緑色の髪に灰青色の瞳の生徒で、現在生徒会で書記をしている。生徒会長に立候補したのはこの生徒だけで、既に本決まりの様だ。
次に生徒会副会長に立候補した生徒も一人だけで、褐色の肌に黒髪黒目のエキゾチック男性だった。この生徒も現在生徒会の庶務を勤めている。
他に一人の出馬は魔人候補のミズハと武人候補のケニスの二人だ。
その他の会計・書記・庶務には複数の立候補者がおり、現在ふるいにかけられている。
体育館の舞台の上での演説は様になっている者、声が翻っている者様々だ。
その中でもアランの演説は聞きやすく説得力のあるもので、見た目がかっこいい事も合わさり人気を呼んだ。
やがて投票になり、生徒達は名前を書いた紙を投票箱に入れていく。
係りの者が投票用紙をより分け、分類して行く。
その日の放課後には分類も終わり、ユグドラシル学園全体に放送がかかった。
決まった役員は生徒会長がランドルフ・ド・グラニール、副会長にカルメ・ディシー、会計にアラン・クルト改めアラン・レオン、書記にレイニード・グルブランス、庶務にナノハ・リシュティーユ、魔人にミズハ・タマモール、武人にケニス・グランドールとなった。
選ばれた生徒会役員の内五人が一年生という若い生徒会の誕生だった。
生徒会役員の引き継ぎの間は、前生徒会の者も同席する。
そのため、新役員と旧役員は生徒会室や会議室を使って業務の引き継ぎを開始した。
若い生徒会といえども、新会長と新副会長は旧生徒会から引き続きの生徒会だ。そこまでの混乱もなく進んで行く。
生徒会業務の少ない魔人と武人のミズハとケニスは早々に引き継ぎを終え、他の者のフォローに当たった。
アランやレイニード、ナノハは毎日下校時刻ギリギリまで粘って仕事を覚えていく。
それだけではなく後期の中間テストも迫って来ていた。
ミズハやケニスも時間が許すまで三人につきあい、ひと段落した頃には生徒全員が試験勉強を開始していた。
この章も大分終わりが見えてきました。
多分、全章の中で一番長いはずです。
いずれ章を前後で分けるかもしれません。




