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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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学園祭


 その日の放課後、アランとサーヴィスはユグドラシル学園にある会議室の一室を使って話し合いをしていた。

 その会議室の外にはミズハが一人立っていた。


 どれくらいの時間が経っただろうか。太陽が真上に来た頃、最初にサーヴィスが出てきてミズハを睨みつけた。

 後から出て来たアランとレイニードはミズハの顔を見ると少し顔を強張らせた。


「ミズハ。黙っていて悪かった!」


 今まで黙っていた事を真摯に謝るアランに、ミズハは悩んでいた答えを導き出した。


「アラン。誰にだって言えない事の一つや二つはあるわ。……これからも宜しく」


 ミズハはアランの事を敬称をつけて呼ぼうかとも悩んだが、アランの態度をみて吹っ切れた。


(学生時代だけだとしても、アランと一緒に居たい)


「ミズハ……。オレの事を今まで通りに呼んでくれるのか?」


 ミズハの言葉にアランは嬉しそうに笑った。


「無礼なのはわかっているの。でも、学園に居る時だけで良いかそう呼ばせてね」


「そんな事はない。ミズハにはずっとアランと呼んでいて欲しい!」


 ミズハの決意に満ちた、しかし儚い笑顔を見てアランはミズハの手を握って力説した。


「俺はミズハに。いや、ミズハ達にありのままの俺を見て欲しい。王子であるのも確かに俺だが、それでもミズハ達に〝アラン〟と呼んで欲しいんだ」


「アラン……。これからもアランって呼んでいいの?」


「勿論だ!」


 そうして見つめ合う二人。


(これでつき合っていないんですかね)


 レイニードはそう思ったが、一言「ゴホンっ」と咳払いすると二人を現実に戻した。


「サーヴィス殿下の話をしなくて良いのですか?」


「ああ、そうだったな。サーヴィス殿は近々国に帰る事になった」


 レイニードに軌道修正され、アランは会議室で決まった事を話した。

 転入早々に自主退学とは世間体に余り宜しくないが、他種族の集まるユグドラシル学園に一種族贔屓の者が居る方が不味いだろう。


「南方諸国出身とはいえ、一国の王族が人間至上主義になるというのはおかしい。リーディス王も穏やかな方だと訊いているしな。なにはともあれもう大丈夫だ」


「ありがとう、アラン」


 多種族代表として、今まで隠していた自分の身分を打ち明け、抗議を行ってくれたアランにミズハはお礼を言った。


「このくらいなんて事ない」


 ミズハのお礼に柔らかく笑うアラン。

 始業式早々にあった騒動はこうして幕を閉じた。


 会議室での話し合い以降サーヴィスが多種族を見下す発言をする事はなくなったが、不満をありありと含んだ目で見ていた。

 そして、一週間ほどで本国、リーディス王国に帰国した。


 そんな騒動があって直ぐ。否、騒動の間もユグドラシル学園では学園祭の準備が始まっていた。

 始業式が十一月の上旬なら、学園祭は十一月の下旬に行われる。

 慌ただしい準備が始まり、最初に決めるのは学園祭役員と出し物だ。

 ミズハ達のクラス、一年A組の出し物は魔法を使ったプラネタリウムだった。

 暗幕で窓を遮り、闇魔法で更に夜を演出する。土魔法と工芸で作った星の配置に穴の空いた容器を照らすのは光魔法の光だ。

 星の光る色に合わせて穴にはカラーセロハンが貼られ、星の等星に合わせて穴の大きさが違う本格使用だ。

 また、その星の容器を何個も作り季節の移り変わりも再現した。

 穴の開ける部分は土魔法で作ってあるので、失敗してもまた作りなおせば良い。

 結果、一年A組で使用した材料の大部分は暗幕だった。


 学園祭の準備は慌ただしく進み、三日間にわたる文化祭が幕を開けた。

 今年の一般公開は二日目だけで、一日目と三日目はユグドラシル学園関係者だけで楽しむ。


 プラネタリウムは三十分に一本の公演で、一本が十五分かかる。

 教室に椅子を並べ、客を誘導する。

 教室の外にはA型の看板と宣伝役の生徒を置き、公演時間を周知させていた。


 ミズハとナノハ、ケニスは魔法担当と暇な時は宣伝をする係りになり、アランとレイニードは裏方だ。

 ミズハとナノハ、ケニスの魔法の腕は使わずにおられない凄腕であるし、アランとレイニードは獣王国レオンの王族と重鎮の息子とわかったばかりである。客寄せにするのには気が引けたのだ。

 アラン本人はミズハと同じ係りに立候補したが、クラス一致で却下された。

 そして、項垂れるアランを慰めたのはいつもの如くレイニードだった。

 これを見ていたクラスメイトは、アランはアランだなと納得した。


 担当の係りは別々になったものの、休憩時間を同じにしたミズハ、ナノハ、アラン、レイニード、ケニスの五人は学園祭の出し物を見物していた。

 最初は校舎内の出し物、次はグラウンド、最後に体育館へと向かうつもりだ。

 体育館では有志主催の劇が催され毎年大人気だ。


 今年の劇は古代の恋愛劇の様だ。

 学園祭のパンフレットに劇の開催時間も書かれていたので、余裕をもって見に来られた。

 公演が始まり古代の衣装に身を包んだ人達が演技をする。

 毎回好評なだけあり、衣装・小物・背景・演奏・演技、どれをとっても一級品である。

 閉幕すると観客席から盛大な拍手が上がった。


「良いもの見れたな!」


 アランのその言葉に他の四人は頷いた。


「それにしてもエルフの人が居たのには驚いたな」


 ナノハの言葉にミズハは頷きかけて苦笑した。

 エルフは公衆の面前に立つ事が苦手な者が多い。『自然と共に生きる』という者が多く籠りがちな種族なのだ。


「そろそろ、教室に戻りましょう。休憩時間もあと少しよ」


 ミズハの言葉に五人が教室に戻ると、後ろに幾人もの人垣ができていた。

 ミズハ達は見目が良いし話題に乗りやすい。そんな五人がゾロゾロと教室向かって行く。あわよくばお近付きになりたいという生徒はそれなりにいるのだ。

 その後の一年A組の教室が満員になったのはいうまでもない。


 一般公開が行われる二日目の学園祭、各地から来賓が訪れていた。

 開始前の最終確認をしていたのはミズハとナノハ、ケニスの三人だった。

 暗幕を張った薄暗い室内に闇魔法を使って真っ暗闇にする。星を映し出す小道具に光魔法を使って光を灯す。

 幻想的な空間ができあがり、裏でそれを見ていたアランが歯噛みをした。


 二日目のスタートはミズハとナノハ、アランやレイニード、ケニスの休憩時間という名の客寄せから始まった。

 見目の良い五人を客に見せ興味を持たせようという作戦だ。

 五人は昨日回れなかった所を重点的に見て回り、帰路に着く時は昨日以上の人を連れ教室に戻った。


 一年A組の午前の公演は満員が続き、忙しいが嬉しい悲鳴が上がった。

 公演の合間に獣王国レオンからやって来ただろう獣人の来賓がアランに話かけ何かを話していく様や、サーヴィス王子の母国リーディス王国からの使者がやってきたりもした。

 リーディス王国からの謝罪文は獣王国レオンとユグドラシル学園に届いているが、個人的に謝罪する意味もあり訪れたそうだ。

 ユグドラシル学園の学園祭に世界各国の貴族は来訪するが王族が来る事は殆どない。

 流石に学園祭という人込みでは警護が難しいからという事もあるし、騒動が起きやすいという事もあり暗黙の了解として王族の来訪は控えられている。


 ミズハの養父母であるゲオルク、エスターク、アリアナ、ダグからは事前に騒動になるので来訪は控えるという手紙が届いていた。

 Sランク冒険者だけで構成された冒険者パーティーがやって来るとなったら、大騒ぎなんてものではないだろう。

 ゲオルクは既に冒険者を引退して一支部の支部長ギルドマスターをしているが、それでも名声は天井知らずだ。

 特にアリアナはエルフという長命種だけあり、昔から名が通っていて、エルフだけではなく魔法を扱う者から女神の様に崇められている。


 そんな二日目をクタクタになりつつ乗り越えた一年A組の生徒は、ラストの三日目も疲れた体に鞭打って、無事やり遂げた。

 三日目は午後三時には終了して各種MVPの発表と後夜祭の支度がグラウンドで催される。


 MVPの発表が放送され、生徒達が一喜一憂して行く。

 今年のMVPは演劇で、全生徒が納得する出来だった。

 三位まで発表され、それにギリギリ乗っていた一年A組のクラスメイトは喜びに沸いた。

 一部クラスメイトがミズハ達五人を「客寄せありがとう」と拝んでいたとかいなかったとか。


 後夜祭が始まり、光魔法の光と篝火が焚かれた。傾きだした日の光に生徒達の笑顔が輝く。

 瀟洒な体育館では音楽が流れダンスが催されている。

 社交界に関わった事のない平民出身の一年生は慣れない為に一歩引くか、目を輝かせて参加する者に分かれていた。

 ミズハ達はというと、アランとレイニードは慣れた風体で参加し、アランに以外に思われながらもミズハとケニスは優雅に歩いていた。しかし、ナノハは慣れていない為、おっかなびっくり参加している。


「うう……。皆何で慣れてるの? アランとレイニードはわかるけどさ」


 ナノハの疑問にケニスが答える。


「僕の家は一応下級貴族だから、舞踏会には行った事があるんだ。……といっても慣れていないけどね」


『え!?』


 ケニスの意外な言葉にミズハ達の驚きの声が重なる。


「ええ!? ケニスって貴族だったの!?」


「確かに歩き方は綺麗でしたが、ケニスが貴族だったとは……」


「まあ、末端も末端だからね。たいして貴族らしくないよ」


 ナノハとレイニードの言葉にケニスが答えれば、ミズハは思考に耽っていた頭を切り替えた。


(ケニスは不可視の暗殺者だとすれば、貴族だったら王族が発表しているわよね。それがないという事は違うのかしら?)


 先程までミズハが考えていたのはSランク冒険者『不可視の暗殺者』の事だ。最年少のSランク冒険者でミズハはケニスが不可視の暗殺者でないかと疑っていた。

 もし、貴族出身の冒険者、あるいは貴族にとり立てられた冒険者なら、国の威信を誇る為に発表してもおかしくはない。それがないという事は、考えが違ったのだろうかと考えていたのだ。


 そんな話をしつつもアランとミズハは二曲程踊り、後夜祭は終わっていった。







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