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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
43/69

始業式


 ミズハは迷っていた。

 もう直ぐ秋休みが終わるのでユグドラシル学園に戻らなければいけない。

 その時人の姿で戻ろうか、心機一転獣人の姿で戻るか。


「よし! 決めた!」


 ミズハは〈人化の術〉を解くと獣人の姿、三尾の狐の獣人に変わった。


 養父母に挨拶をして屋敷を出たミズハはターザ国の港町からユグドラシル学園へ向かう船に乗った。

 同じく各地でユグドラシル学園行きの船が本数を増やしている。


 ユグドラシル学園に着くと幾人かがミズハを二度見したりする事はあったが、特に問題もなく女子寮へと辿り着いた。

 ミズハは自室に魔道具の鞄を置くと、気配のある隣室へと向かった。


 ノックをして入ったのはナノハの部屋だった。

 ミズハが入るとナノハは驚いて姿を確認したが、その後「決心がついたのね」と笑って招き入れた。

 ナノハから最近のユグドラシル学園について話を訊いたミズハは溜息をついた。

 どうやら前期の内にユグドラシル学園を辞めた人物達の補充の内、一部の人物に問題があるらしい。


「そうなのよ、人間至上主義? 亜人排除? 今更はやらないわよね」


 つまらなそうに言うナノハだったが目は剣呑な光をたたえていた。

 過去、人族の多い南国であった人間至上主義や亜人排除だが、人口の減少に伴う魔物の増殖や、ぴたりと当てはまる魔物の氾濫に消滅した国や復興が大変だった国があるのだ。


「あー、この話しは止め! そうそう私、冒険者ランクをCに上げたの!」


 嬉しそうにナノハは言った。


「近所に元冒険者の人が居て話を訊いたの。そうしたら私にもできるかと思って」


「おめでとう、ナノハ」


「ありがとう、ミズハ!」


 よほど嬉しかったのかナノハはミズハに抱きついた。


「そういえばアラン達も学園に帰って来てるって知ってる? アラン時々女子寮近くまで来るんですって」


「そうなの? 後で外に出てみようかしら」


「それじゃあ、今日は解散ね」


 そう言って解散したミズハは外に出ていた。

 時々寒い風が吹き荒れる。


「風邪を引くぞミズハ」


「久しぶり、アラン」


「ほら、これを着ろ」


 「ありがとう」と言うミズハにアランは上着を差し出した。


「会えて良かった。もう少し遅かったらミズハを冷やす所だった」


「私これでも身体は強いし厚着もしていたわよ」


「それでも心配なんだ」


 ミズハがちょっと拗ねつつ言うと、アランは笑いながら答えた。

 アランの尻尾がリズム良く動き、ご機嫌なのがわかる。


「それにしてもミズハが三尾の狐の獣人だったとはな」


「驚いた?」


 アランの驚愕した顔にミズハは不安が募る。

 また、虐められるのではないか、蔑まれるのではないかと。


「いや、多尾狐は魔力の多い証。獣王国レオンでは勧誘したいくらいだ」


「そう……」


 ミズハは何を怖がっていたのだろうと自らを激励し、そして抑えられない嬉しさが漏れて笑顔になった。

 

「あと数日で始業式だ。何やら問題のありそうな奴も入って来たようだが、今学期も宜しくな」


「私こそ宜しく」


 こうして穏やかな日も過ぎついに始業式が始まった。


 始業式が始まったのは体育館ではなく武道館だった。

 ユグドラシル学園の武道館は校舎に次ぐ広さがあり、全校生徒+関係者を余裕で収容できる。

 そんな始業式も滞りなく進み、生徒は各クラスへと進んで行く。

 1年A組のクラスでは前学期に見た事のない顔の男子生徒が加わっていた。

 ユグドラシル学園のカリキュラムについて行けない者、金銭の問題がある者が脱落し、新たにテストをして転入してきた生徒達もいる。

 その男子生徒はミズハが入って来たのを見て眉をひそめた。


「それにしてもミズハが獣人だったとはな。その姿も可愛いな」


 教室の空気を読んでアランがそういえば、他のクラスメイトも驚いた表情を改めて頷いた。


「ふん。獣人など獣ではないか。それにエルフとの混血だろう、愛玩動物になっていればいいのだ」


 その言葉に室内はシンと静まり返った。


「お前、今何て言った?」


 怒気を押し殺した声が室内を満たす。


「無礼な、平民の犬畜生が俺に話かけるな。獣臭がする」


 男子生徒は嫌そうに赤い瞳を眇めると、整えられた黒髪を払った。


「俺はサーヴィス・フォン・リーディス。リーディス王国の第三王子にして人間による統治を求めるもの。皆の者、俺に続け!」


 転入生の男子生徒、サーヴィスは自分の言葉に酔った様に立ちあがった。

 リーディス王国は南南西にある南の小国の名だ。

 東の隣国がシュティーザ帝国で、シュティーザ帝国が落ち込みだした煽りをもろに食らっている国だ。そんな国から人間至上主義の者が現れるとは歴史を勉強していないのだろうか。


「如何した! 我々人間は今こそ立ちあがるべきではないか!」


 褐色の肌を驚愕に浮かべはやし立てるサーヴィスだったが、1年A組の生徒は遠巻きにするだけだ。いや、一人の獣人が前に出ている。

 焦げ茶の耳と尻尾が怒りのせいか逆立っている。


「俺は狼の獣人のクライ・ファンス。先程の言葉を訂正してもらいたい」


「ふん、犬畜生は頭も悪いとみえる。無礼ゆえ話かけるなと言ったはずだ」


「このっ!」


 サーヴィスを殴ろうとしたクライをミズハとケニスが素早く止める。震える拳を左右から抑えられクライは犬歯を噛みしめて拳を下した。


「すまん。抑えてくれないか?」


 クライに向かって優しく話かけるアラン。

 しかし、サーヴィスを見る目は鋭かった。そして、一拍目を瞑ると確り前を見据えて話しだした。


「オレは獣王国レオンの第一王子のアラン・レオン。サーヴィス・フォン・リーディス殿先刻の言葉を取り消してもらいたい」


「はっ! 獣の国の王子がこの学園に通っているという情報はない。法螺を吹くのもたいがいにするんだな」


 アランのカミングアウトに教室中がざわめいた。

 しかし、サーヴィスはそんなアランを見下した発言をした。


「証明する物ならある。この紋章を見てもらいたい」


「こ、これは……。ふ、ふん。獣の国の王子が居た所で変わらないだろう。そもそも、獣の国など認めた方が可笑しいのだ」


 アランが獣王国レオンの紋章が刻まれたバッチを取り出しサーヴィスに見せたが、一瞬怯んだ様な表情を見せたものの、態度は変わらない。

 そもそも北西の大国である獣王国レオンと南国の小国であるリーディスでは国力が違いすぎるし、歴史も獣王国レオンの方が長い。


「獣王国第一王子のアラン・レオンとしてリーディス王国第三王子のサーヴィス・フォン・リーディス殿に正式に抗議する。別室で話し合いたいが、学園が終わった後ご足労願えるか?」


 大国の王子の抗議を小国の王子が受ける。どう考えても国際問題だ。

 しかし、サーヴィスは尊大な態度のままアランを見やる。


「ゴホン。丁度きりも良い所だしホームルーム始めるぞ」


 これ以上遅れてはならないとアンセイが切り出せば、立ったままだった生徒達が椅子に座り出す。


(アランが王子様……。身分が高いとは思っていたけど。雲の上の存在……。ダメよダメ、それでアランを避けるのは違うわ。確り考えなくちゃ)


 ミズハはボーっと考えたり、首を振ってみたり大忙しだ。

 この調子ではアンセイの話す話も何処まで訊いているかわからない。


「ハー。アラン、サーヴィス。後で会議室を貸してやる、そこで話をつけろ」


 アンセイはホームルームの途中で溜息をつきそう言った。

 教室中が上の空では溜息も吐きたくなる。






アランが正体をばらしました。

といっても生徒の中には勘付いていた者もいますが。


火傷でできた水ぶくれがやっと凹みました。

火傷は今までに何度かした事がありますが、一番痛かったです。

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