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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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秋休み グリフォンと精霊

明けましておめでとうございます。


 ミズハ達が黒翼のグリフォンの元に行くと、魔物の子供達は黒翼のグリフォンのお腹をクッションに昼寝をしていた。

 ミズハ達が来た事に気付いた黒翼のグリフォンに突き起こされ、三体は眠そうに欠伸をした。


「それにしても氷狼の子と銀霊亀の子は何処に返せばいいのかしら?」


 そもそも氷狼は北方に住む狼型の魔物で、このファルセ帝国は行動範囲内だ。

 対して銀霊亀は鉱山などにまれに住む魔物で、温和な性格をしている。また、鉱物を食べた後に体内で銀に精製して糞として排出することから、太古の昔では神聖視されていた魔物でもある。それが一時期討伐対象になり数をグッと減らした。今では絶滅危惧種として保護対象になっている。


【本人達に訊いてみよう。それでだめなら私達の森で育てる】


 ミズハの疑問にノワールが答えるとグリフォンの子が他の二体に何かを尋ねていた。

 その様はとても愛らしく可愛らしい。何とも微笑ましい風景だった。

 そして、グリフォンの子は黒翼のグリフォンとノワールに何かを話した。


【やはりこの子らは、何処が故郷かわからないらしい】


「そう……。ならグリフォン達の住む地に行くのね」


 ノワールとミズハがどこか痛ましげな顔で話していると銀霊亀の子がミズハに頭突きをかました。

 ミズハが屈みどうしたのか訊ねようとすると、甲羅の突起を噛み千切りミズハの手に乗せた。

 ミズハはどういう事かわからず首を傾げると、銀霊亀の子はグリフォンの子とノワールを介して話しをした。


【お礼だそうだ。もらってやれ】


「そうなの? ありがとう」


 ノワールの言葉に銀霊亀の頭を撫でてお礼を言うミズハ。

 銀霊亀の特性として銀の甲羅は年を経るほど魔力を宿し、魔力の通りの良いミスリルという魔力を帯びた銀に変わる。それが、密漁にまで発展する理由だ。

 ミズハに渡った銀霊亀の甲羅の銀は、まだ子供でミスリルになってはいないが、通常の銀よりはるかに魔力の通りが良いだろう。


「グル、グルルル!」


【グリフォンの代表が乙女に話しがあるらしい】


 黒翼のグリフォンはノワールに何かを話した後に自分の羽根を一枚むしるとミズハに突き出した。

 「グルル」と鳴く黒翼のグリフォンの話しをノワールが聞いている。


【グリフォンの代表の名は〝黒曜(こくよう)〟という。乙女が呼べば何時でも召喚に答えると言っている。その証に羽根を渡すそうだ】


「え? 私と召喚の契約をしてくれるの?」


「グルル!」


 ノワールの話にミズハが吃驚して訊けば、黒翼のグリフォンは胸を張って頷いた。

 召喚の契約。魔物を別空間から呼び寄せる契約で、魔物の名前と魔物の身体の一部が必要になる。

 召喚の契約に契約できるのは高位の魔物だけで、一般的な魔物は魔力が足りずに契約できない。例で例えると魔物の頂点といわれているドラゴンや龍などと契約した者も過去には存在する。逆に下位の魔物。動物に近い知能と魔力しか持たない魔物とは、名前と肉体の一部を貰っても召喚する事はできない。

 召喚の契約は魔物側が召喚主と契約に縛られる形になるので、中々結べるものではない。


「黒曜というのね。宜しくね」


「グルル!」


 ミズハと黒翼のグリフォンの黒曜が友誼を結び終わると、ノワールが話しだした。


【グリフォンの代表よ、申し訳ないのだが私は乙女と行動を共にするので帰りが遅くなる。先に帰っていてはもらえないか?】


 ノワールの話を聞いた黒曜は頷くと、グリフォンの子と氷狼、銀霊亀を嘴で持ち上げると背に乗せた。

 「グルル。ルルル、グル!」と、まるで落ちない様に捕まっていなさいと言うように言うと、ノワールの方を向いてもう一鳴きしてから二、三歩駆けた後に力強く飛び立った。


【では私達も行こうか】


【ちょっと待ってもらって良い】


 ノワールの言葉にアンディーが待ったをかける。


【ミズハ、この子に名前を付けてあげて欲しいんだ】


 そう言ってアンディーが差し出した手の上には小さな氷を纏った闇蛇が居た。


「え!? この子もしかして私とアンディーが魔法で作った子?」


【そうだよ。それの核だね】


 アンディーの言葉を聞いて氷を纏った闇蛇は【シューシュー】と期待に目を輝かせていた。


「そうね。エルフ語で(あん)(しょう)という名はどうかしら? 闇の水晶の様な鱗から取ったのよ」


 みずはが名を決めると氷を纏った闇蛇闇晶は嬉しそうに【シュー】と鳴いた。

 名付けが終わると幾分か闇晶の魔力が増えた様な気がした。ミズハはクエスチョンマークを浮かべて首をひねったが、結果は変わらない。

 魔物に名前をつけても魔力が上がるという事はないはずだ。なら何なのだろう? とミズハは考えたがアンディーの声で思考を打ち切った。


【名付けは終わったみたいだね。じゃあ、帰ろうか】


【乙女よ、何処まで行くのだ?】


「ターザ国の王都グラールまでよ。少し遠いけど大丈夫かしら?」


 ノワールの疑問にミズハが答えた。一般的に定住している精霊はその地を離れる事をしない。なので、ミズハは確認をした。


【ターザ国? 人間の地名は解らぬな。乙女よ私の背に載って方向を示してはくれぬか?】


「背に乗せてくれるの?」


【その方が早かろう】


 ノワールの言葉にミズハは嬉しそうにノワールの毛皮を撫でた後に背を跨いで乗った。


「此処からだと一端西に出て、それから大陸の内海沿いに南下して行くとターザ国よ。あー、でも人里に出て大丈夫?」


【なるほど西だな。別に人里に出ても私はかまわぬよ】


 精霊の中には人に見られる事をよしとしない者もいるのでミズハは訊いた。アンディーなどその気がある。

 ノワールは宙に浮くと空を蹴り疾走して行くと、アンディーも空中に上がり追って行く。宙に浮いたアンディーの姿は消えておりミズハでも薄らとしか見えない。


「ぷっ、風が凄いわね」


【おお、すまぬな。魔法で何とかしてくれ】


 ノワールの疾走により風の抵抗で風圧を感じるミズハは風魔法で膜を作り、風を遮った。

 膜の形は立体的な菱型に近く、風の抵抗を受けにくい設計がされていた。


 ノワールの回りに作った膜の中にアンディーが入っている事を確認したミズハは、菱形の頂上部分に対になる翼を作り更にスピードを加速させた。


 途中休憩をはさみつつ、その日の夕暮時にはファルセ帝国の南西部の国境付近に辿り着いていた。

 夜は野営をして次の日の朝日が登る頃、ノワールの背に乗ったミズハは風魔法で膜を作って復路を進んだ。

 その日の内にファルセ帝国南西の中堅国を抜け獣王国レオンに入国したミズハだったが、食料を買い込んだだけで野宿する事にした。

 宿に泊まっては早朝に出発する事ができないからだ。冒険者が多い獣王国レオンといえど早朝の朝日が昇るか登らないかの時間から営業してはいない。

 朝日が登る頃から出発すれば午前中にターザ国に入り、昼過ぎには王都のグラールに到着できるだろうと計算したからだ。

 翌日計算通り昼過ぎに王都グラールに辿り着いたミズハはノワールから降り、騒ぎにならない様にノワールに姿を隠してもらいグラールの中を足早に移動していた。


 冒険者ギルドに辿り着いたミズハ達は受付でゲオルクのいる執務室に呼ばれて向かった。

 ギルドマスターの執務室の扉をノックしてミズハが入室するとゲオルクは読んでいた書類から目を上げ、嬉しそうに笑った。


「良く帰って来た。ファルセ帝国のギルドからフリフォンの変異種のグリフォン、黒翼のグリフォンだったな。見事退治したそうじゃないか!」


 ゲオルクはミズハが無事に帰って来た事と見事Sランクの試練を突破した事に喜びを露わにした。


「退治、というより帰ってもらっただけなのですが……。ノワール出て来てもらえる?」


 ミズハが少し言い淀んだ後にノワールを呼ぶとギルドマスターの執務室に黒い毛並みのたいそう立派な狼が〈姿現し〉で顕現した。


「闇の中位精霊だな。随分な時を生きた立派な精霊だ」


【黒き森と死の山にすむ闇の精霊だ。今回乙女達に私達の問題を解決してもらった。その事を人の子に説明する為馳せ参じた】


 ノワールが顕現するとゲオルクは往年の経験からかノワールの実力を正しく理解した。


「何か問題があったようだな。ミズハ、詳しく説明してくれ」


 ゲオルクの言葉にミズハは「実は――」とルカト金山の頂上であった事からメイグの街であった事までを話した。


「なるほどな。ファルセ帝国に密猟組織があるという事か……、俺の方から連絡しておく。黒翼のグリフォンの退治の件はもう来ないか暫く様子見だ。ミズハの休みが終わるまでにはかたをつける。精霊殿申し訳ないがこれから俺と一緒に来てくれないか?」


【わかった。一緒に行こう】


 ゲオルクの言葉にノワールが頷く。

 ゲオルクは椅子から立ち上がるとミズハのいる方に行き、軽くミズハの頭を撫でるとノワールを伴い部屋を出て行こうとした。


「ミズハ、今日はもう家に帰れ」


 そう言って執務室を出ていった。


 屋敷に帰ったミズハが部屋で休んでいると扉をノックする音が聞こえた。

 ミズハは直ぐに「どうぞ」と入室の許可を出した。


「帰ったぞ。精霊殿どうぞ」


 どうやらノックしていたのはゲオルクで、ノワールを案内して来たようだ。


【もう乙女の用事というものはないか? ないのならばお暇するが】


「ありがとうノワール、先に帰ってしまってごめんなさいね。今回の証人になって欲しかっただけなの。アンディーだと騒ぎになり過ぎるもの」


 ノワールの質問にミズハが答えた。

 上位精霊の存在はまれで人目に出る事は殆どない。そんな存在が証人として現れたらてんやわんやの大騒ぎになりかねない。寧ろ密猟事件より大きな騒ぎになる。


【では私は帰るとしよう。乙女よさらばだ】


 ノワールはそういうと足元に影の様な闇を集め、そこに潜って行った。

 ノワールの姿が消えた後に影は消え、ノワールの気配は完全に消えた。

 これは闇の精霊魔法の一種で転移の精霊魔法だ。精霊が通るのを専門に作られている為、物質という身体を持つ人間などは通過する事ができない。その為ノワールはグラールまで駆けて来たのだ。


「さあ夕食だ!」


「はい!」







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