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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
40/69

秋休み 闇の精霊ノワール

いつもより少し長めです。


 黒い毛並みに黒い瞳の狼型の精霊が一歩前に出て、アンディーの前で頭を垂れた。


【黒き森と死の山に住みます精霊、ノワールと申します。古く尊き貴方様にお願いがございます】


 黒い毛並みの狼型をした姿から闇の中位精霊だと知れた。

 精霊が住みかを言うのはどの地を守っているかを言う為で、人間風には○○の街に住んでいる。という感じだろうか。

 『黒き森と死の山』などという名の地名は人間国家にも他種族国家ににもない精霊風の言い回しだ。

 狼型の闇の精霊ノワール。名があることからそれなりに古い精霊だと知れた。

 そんな精霊が更に古いという精霊アンディーは幾ら生きているのだろうか。


【僕はアンディー。ノワールは何が言いたくて出て来たんだい? そこのグリフォンを助けたいみたいだけど】


 アンディーはミズハを止める前に聞いた精霊の悲痛な声を思い出していた。


【実は……】


 ノワールは言い難そうにそこで言葉を切ると逡巡した後に言葉を続けた。


【黒き森に住む土の精霊と死の山に住むグリフォンとの間に合いの子ができたのです。精霊に子ができるなどこれまでなかった事、我ら精霊やグリフォンは奇跡の子として産まれるのを今か今かと待っていたのです。しかし、産まれて直ぐに何者かに攫われてしまいました。痕跡からこの山周辺にいる事が解り、グリフォンの代表者と我ら精霊の代表である私がやって来たのですが……】


 ノワールは長々と説明した後歯切れが悪く言葉を噤んだ。


【そこに僕たちが来てそこのグリフォン、グリフォンの代表者と戦っていたと。うーん、それにしても精霊に子がねー。僕も長く生きて来たけど初めて聞いたよ】


 そう、精霊は自然発生か世界樹の巫女姫にしか生み出す事は出来ない。そんな精霊とグリフォンとの合いの子。ノワールが言った通り奇跡の子だ。


【この山の周辺という事は人が攫ったという事かな?】


【はい。どの種族かは分かりませんが人間種で間違えないかと】


 アンディーとノワールが話している間、ミズハは静かに話を聞いていた。そして、思う事があって言葉を発した。


「話している最中にごめんなさいね。私がこちらに来た時にここら周辺の人は避難勧告が出て避難しているはずなのだけど、まだ痕跡はこの付近なの?」


 ミズハの疑問なもっともで、人間達の情報を知らないノワールは目を瞠った後に少し考え込むと【まだこの付近にいるかと】と答えた。


「貴方達が追跡できる〝痕跡〟は子供のもの? それとも連れ去った人間?」


【ああ、なるほどね。君たちが辿れる痕跡が子供のものなら、避難勧告が出ているから、もしかしたら子供を置いて逃げているかもしれない】


 ノワールはミズハとアンディーの言葉を聞いてハッとしたように言葉を発した。


【私達が辿れる痕跡は奇跡の子の痕跡です。精霊との合いの子といってもグリフォンの血の方が濃いのか食事が必要なのです。もし放置されていたら……】


「ねえノワール、私達も協力するわ。その子供の痕跡ってあそこの街にあるの? それとも別の所?」


【ミズハ!? 協力して大丈夫なの? 確かに僕個人としては協力したいけど、君の依頼はどうするの!?】


 ミズハの宣言にアンディーが驚き心配しながら確認をする。

 そんなアンディーを見てミズハは悪戯っ子の様な表情を向けるとにっこりと笑った。


「ふふふ。ゲオルクお父さんは〝どうにかしてこい〟って言っただけで討伐してこいとは言わなかったわ。つまり、ここで協力して穏便にここから退いてもらっても依頼は成功よ」


【……ミズハ。それを屁理屈っていうんだけどね。……うん、ユグドラシル学園に通いだしてミズハの性格が悪くなった】


 良い笑顔のミズハに対してアンディーは疲れた様な顔をして後半をボソボソと小声で呟いた。

 だがアンディーは【ミズハが良いなら良いか】と考えを改めた。アンディーにしてみればミズハが屁理屈をこねたので何ともいえない気分になっただけで、自分がこねる分には別に気にしない性分だ。


【乙女よ感謝する。奇跡の子の痕跡はあそこの街から感じる。あえていうのなら、この山から離れた街の外れの方といった所か。これ以上はわからぬのだ】


「この山より離れた街の外れというと、スラム街の付近かな」


【そうだろうね。貴族の屋敷ではないというと裏組織の人間が関わっているのかな】


 ノワールの言葉にミズハはだいたいの場所を特定する。それにアンディーが考察を加えて行く。この三名の様子を黒翼のグリフォンは興味深そうに眺めていた。


「メイグの街は避難が終わっているはずよ、街に入ってみましょう。最初は私とノワールとアンディーで入ってみて人が居るかどうか確認して来るね」


「グル! グルル」


 ミズハの提案に真っ先に反応したのは黒翼のグリフォンで、ノワールが通訳してくれた。


【乙女よ、グリフォンが背に乗る様に言っている】


 ミズハは黒翼のグリフォンに「良いの?」と確認すると、黒翼のグリフォンは雄々しく頷いた。

 ルカト金山を黒翼のグリフォンに乗り下山したミズハは、ルカト金山の麓の街メイグへと入った。


 門の閉ざされたメイグの街を上空から偵察する。


「ノワール、どこら辺から痕跡を感じる?」


【左側の壁付近からだ】


 ミズハを乗せた黒翼のグリフォンはスラム街にある空き地の上に降り立った。

 ミズハ達が降り立った場所はスラム街でも端に位置するだろう所で、ボロボロの長屋が連なっていた。

 そんな長屋の一角に見た目は今にも崩れそうな長屋だが内装はしっかりしている家に辿り着いた。


「埃がそんなに溜まっていないわね、最近まで人がいた証拠ね。隠し部屋はなさそうだから地下かな?」


 ミズハとアンディー、ノワールと下位の精霊たちは手分けをして地下に進める隠し扉を探した。黒翼のグリフォンは巨体のため空き地で待機だ。


【ギリギリまで使っていたんだろうから埃の特にない場所だと思うんだよね。……あった! 隠し扉だ! これがスイッチかな】


 アンディーが見つけた隠し扉がパカリと口を開けた。


 地下へと入って行ったミズハ達一行は重厚そうな扉を発見した。その扉には鍵がかかっており開く事ができない。


「鍵は持って行っているわよね……」


【だろうね。まあ、魔法的な封印とかは無いし壊して入るしかないんじゃないかな】


 避難しただろう構成員達は鍵を持って行っただろう。

 そんな事を思ってアンディーはミズハから魔力を貰って精霊魔法を執行した。

 ガキン! と音を立てて取っ手の部分を壊したアンディーは、穴に手を入れると鍵を外した。

 精霊は一部のアンデットと違って姿は消せるが物を通過する事は出来ない。部屋に入るには扉や窓を使うしかないのだ。

 ギギギと不快な音を立てて扉開くと獣臭い臭いと生臭い臭い、そして腐臭がミズハ達を襲う。


 ミズハが風魔法で換気して光魔法で明かりをつけると、室内の惨状が露わになった。

 そこかしこに置かれたゲージの中には鎖に繋がれた魔物達が横たわっている。

 必死に水や食べ物を求める声や既に事切れて虫がたかっているものまで様々だ。


【奇跡の子よ、何処だ!?】


「キュー……」


 ノワールが我慢できないと声をかけると一際大きな檻に一匹だけ入れられている子供のグリフォンが居た。

 弱々しい声に目を向けたミズハが見た物は地に伏せた子供のグリフォンだった。艶の失った金茶の体毛や翼は元気だった時は綺麗に輝いていただろう。瞳にも元気がなく薄らとしか開かれていない。


【ミズハ! 白湯を作ってあげて!】


「わかってる!」


 アンディーの声がかかる以前からミズハは木の食器を取り出し、水を沸騰させてから熱を奪い人肌程に冷ましていた。

 ミズハは更に清潔な布を取り出すと白湯をしみ込ませて子グリフォンの嘴に当てた。


「クゥ、ク」


 必至で布から水分を飲み込む子グリフォンにミズハ達は安心して大きく息を吐いた。


 子グリフォンに水をやったミズハ達は、手分けして生きている魔物達を探した。

 違法に捕えられた魔物達は最初警戒したが、警戒し続ける体力は無く直ぐに力なく横たわった。

 ミズハ達が違法に捕えられたと判断したのは貴重な魔物であったり、保護対象に当たる魔物が捕えられていたからだ。


 ミズハ達が生きている魔物に水をやり終えると敵意は落ち着き、魔物達は様子を窺いだした。

 今回この地下に集められていた魔物は貴重な魔物が多く、全てが幼生、子供だった。

 そして、まだ子供の魔物は身体が弱く大半が既に事切れていた。

 生き残った魔物は皆生命力の高い種族だった。グリフォンと精霊の合いの子の子供を筆頭に(ひょう)(ろう)という白銀の毛皮に青い瞳の狼の魔物の子、(ぎん)(れい)()という銀の甲羅を背負った魔物の子が生き残っていた。

 この三体以外の魔物は既に息絶えており、虫がたかっているものまでいた。


 三体の魔物を檻から連れ出したミズハ達は魔物の子供達ようの食事を作る事にした。


「氷狼の子はお肉食べられるようだし、グリフォンの子はお肉食べられる? 後、銀霊亀の子って何食べるのかしら?」


【この者達は牙も確り生えているし、食事も成体のようにできよう。奇跡の子は肉もちゃんと食べられるぞ。銀霊亀は雑食だ、好物が銀というだけでな】


 ミズハの質問に答えるノワール。ノワールの言葉に「了解」と答えてミズハは肉を取り出して細かく叩いてから小鍋で煮始めた。

 小鍋の中には薬草が入っており身体にも優しい。

 塩を入れずに作られた小鍋の中身を魔法で人肌まで冷却し、ミズハは木の容器に三等分にした。


「はい、召し上がれ」


 ミズハの合図を聞くか聞かないかで三体の魔物は木の椀から食べ物を食べ出した。


「それにしても、まにあって良かったわ」


【乙女には感謝しきれぬ】


【まさか精霊の子供に会えるなんて思ってもいなかったよ】


 そんなミズハ達気付かず魔物の子達はご飯を食べ終わり、おかわりをせっつき始めた。


「だめよ。ずっとご飯食べていなかったからお腹が吃驚するわよ」


【子達よ、今は我慢の時だ】


 ミズハとノワールに窘められてグリフォンの子が頷くと、氷狼の子と銀霊亀の子も神妙に頷く。どうやらこちらが話している事を理解しているようだ。


「可愛いわね。……他の子達は埋めてやるべきよね」


【報告する時に遺骸はあった方が良いとは思うけど、あそこまでになっているとね】


【報告するというのは何者かに話すのか?】


 ミズハとアンディーの話しを聞いていたノワールがミズハに訊ねる。


「うん。今回は依頼で来たから詳細を話さないと」


【ならば私が同行して話そう】


【それなら安心だ。僕も話すけど精霊の話しを嘘とはいえないからね】


 精霊は嘘をつけない、それを武器に話そうというのだ。

 話しが纏まった所でミズハ達は黒翼のグリフォンがいる空き地に魔物の子供達を連れて行った。そして、黒翼のグリフォンに子守りを任せ魔物達が囚われていた地下へと舞い戻って来た。

 死臭と腐臭が籠った地下の臭いは既に風魔法を使って換気してあるが、臭いの元があるせいかまた漂い出していた。


 全ての檻を切り壊し、中から遺骸を運び出す。

 全ての魔物の遺骸を太陽の当たる長屋の外に運び出したミズハ達は、ミズハの魔法で遺骸を焼いていく。

 子供の魔物が多かったせいか骨は小ぶりなものが多く、人のいなくなった街に寂しく横たわっている。

 魔物達の骨を集めたミズハは土魔法で壺を作ると中に遺骨を詰めていった。


「どこか景色の良い場所に埋めてあげましょう」


【そうだね。それが良いと思うよ】


【乙女は優しいな】


 ミズハの言葉にアンディーとノワールが優しく笑って答えた。

 魔物の子供の密猟の全体図はつかめないが、此処に一つの区切りがついた。






いよいよ年越しですね。

来年の一月の一週目はお休みさせていただきます。

では、良いお年を。

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