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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
39/69

秋休み 黒翼のグリフォン


 アマノ共和国から内海沿いに北へ二国跨いだ先にあるのがファルセ帝国だ。

 ファルセ帝国はドワーフの治める土地で、鉱山が豊富にある。

 ファルセ帝国に辿り着いたミズハは早速冒険者ギルドに向かった。

 何故被害が出ているのにアマノ共和国に行った後に来たかというと、まだ情報が出そろっていなかったからだ。

 グリフォンの上位種と位置付けられている存在とはいえ、行動パターンを探る事は出来る。

 何と言ってもファルセ帝国はドワーフの国。鍛冶が得意な物が多く、その作品を求めて冒険者の出入りも多い。

 そんな国からゲオルクのいるグラール支部の冒険者ギルドにSOSが届いたかというと、ゲオルクとパーティーを共にしているダグが居るからだ。

 ダグはファルセ帝国出身の冒険者でドワーフの冒険者といえば名の上がる存在だからだ。


「すみません。ルカト金山へはどう行けば良いでしょうか?」


「ただいまルカト金山は閉鎖されています。申し訳ありませんが……、え? この冒険者カードは!? ただいま照会いたしますので少々お待ち下さい!」


 すっかり〈人化の術〉で人化しているミズハは訊ねながら自分の冒険者ギルドカードを差し出した。

 受付をしていた受付嬢は最初断りの文句を告げたが、ミズハの冒険者カードを見て慌てて席を立った。


「照会完了しました。Aランクのミズハ様ですね、ルカト金山への行程を説明します」


 ミズハのギルドカードを魔道具で照会した受付嬢は、ファルセ帝国の地図を広げるとルカト金山の場所を示す。


「ルカト金山はこの港町から北に位置します。現在ルカト金山から半径10キロの地域の避難が進められていて、50キロ圏内の町村で一人での外出や夜の外出を禁じています。……それと、こちらを参考になさってください」


 受付嬢はルカト金山への道筋と現在の状況を説明すると、ミズハにA4サイズの茶封筒を渡した。

 茶封筒に入っていたのは変異種のグリフォンの情報だった。


 ミズハはギルドの図書室を借りると茶封筒を開け、グリフォンについての情報を読んで行く。


 『黒翼(こくよく)のグリフォン

 ファルセ帝国ルカト金山の頂上を根城にしている、推定Sランクの魔物。

 姿は鷹の頭に猛禽の前足、獅子の身体のグリフォン。

 色は全身が黒く瞳だけが金色。通常のグリフォンより一回り以上大きい。

 また、一般的なグリフォンより夜目が効き、夜間に活動する事が多い。

 能力的な特徴として闇魔法と風魔法を扱う事と、火のブレスを吐く。

 未確定だが翼や四肢の毛皮は通常のグリフォン以上の耐久性があると推察されている。』


 グリフォンの情報が書かれた紙の次に、現在の行動パターンなどが書かれている。

 それらを読み終えたミズハは茶封筒を持って受付にやって来た。

 もし、血気盛んな冒険者に先程の書類が渡れば、勇み足に駆られた冒険者が出ないとも限らない。なので、読み終わった書類を返そうと思ったのだ。


 その日ミズハは一泊すると、ルカト金山に向けて足早に移動を開始した。


 ルカト金山付近まで避難ようの馬車が行き来していたので、相乗りさせてもらって辿り着いたミズハはドーム状に作った土の壁に隠れて黒翼のグリフォンの様子を探った。

 所々に穴の空いた壁から金山の頂上を観察していたミズハは、アンディーに黒翼のグリフォンを探れないか訊ねた。


【大丈夫だと思うよ。いくら闇魔法を扱えるからとはいえ闇の精霊を見られるかといえば違うからね】


「そう。じゃあ、黒翼のグリフォンの様子を見て来てくれる?」


【おやすいごようさ】


 そう言ってアンディーはミズハの元から去ると、黒翼のグリフォンの元へ向かった。


 黄昏時の光が穴の間からミズハを照らしだした。

 ミズハは黒翼のグリフォンとの戦い方をシュミレーションしていく。


(夜目が効くって書いてあったから、夜の決戦は避けた方が良い。となると、昼間の戦いになるし……。アンディーが帰って来るまで待ちましょう)


 月が紫色の空を照らし出した頃アンディーがミズハの元に帰って来た。


【山頂は動物や魔物、人間の骨が散らばっていたよ。どうやら今は満腹で寝ている様だ。でも、明日の夜には狩りに出るかもしれない】


 アンディーの言葉を聞いたミズハは「アンデットになる可能性は?」と訊いた。その答えは「アンデットにならない」だった。

 遺体などが葬られずにいると魔物化する場合がある。それをアンデットと呼ぶ。

 今回、黒翼のグリフォンに食べられた者達がアンデットになる可能性は低い。何故かというと、骨まで食べられている部分があるからだ。

 アンデットは別の遺体や骨と合体する事はない。アンデット化するのなら遺体、あるいは骨が丸々残っていなければならない。欠けているとアンデット化には至らないのだ。


 ミズハはドーム状に広げた土の壁の一部を坑道に向けて穴を掘り進め出した。

 坑道に入ったミズハは、なるべく山頂に近い道を選んで進んで行く。

 そして、山頂付近で仮眠を取ると夜明けを待った。



 夜明け、山の麓から太陽が登ろうとしていた。

 ミズハは山頂近くの土の中で少し広めの空間を作り、エスターク戦で出した氷を纏った闇蛇を作り出していた。

 作り出した氷を纏った闇蛇は、今回黒翼のグリフォンとの戦いをイメージして翼を広げている。

 以前の戦いの時より消費する魔力も減り、力強さも増している様に見える。


 寝ていた黒翼のグリフォンは、土の振動と共に自分のものではない強い魔力が蠢いている事に気がついて目を覚ました。

 すると、黒翼のグリフォンが寝ている近くの土が勢いよく飛び跳ねた。

 土の中から出て来たのは闇色の身体に氷の鱗を持つ巨大な蛇だった。

 氷を纏った巨大な闇蛇は鎌首をもたげて黒翼のグリフォンに襲いかかった。


 黒翼のグリフォンと氷を纏った闇蛇の怪獣大決戦が始まり、ミズハは気配を隠して山の中から出て来た。氷を纏った闇蛇に出している指示は一つ「黒翼のグリフォンを地上に落とす事」だ。

 二体が絡み合う様に展開し互いの嘴と顎で噛み付き合う。そして黒翼のグリフォンは前足で攻撃し、氷を纏った闇蛇は尾で叩きつける。更には魔法が飛び交い互いの翼を攻撃し合う頂上決戦が始まった。


 ミズハはというとアンディーに魔力を供給して、氷を纏った闇蛇の合間からグリフォンの翼を攻撃していた。

 氷を纏った闇蛇はミズハとアンディーの力の結晶なので、魔力が似通っていて黒翼のグリフォンには未だ違いはわかっていない様だ。


 そしてついに黒翼のグリフォンの片翼が凍り、そこにアンディーの攻撃が当たって片翼を切り離した。

 黒翼のグリフォンは風魔法で身体のバランスを整えると、怒り狂った目を氷を纏った闇蛇に向け、前足の攻撃で距離を取ると口を大きく開けて大技〝火のブレス〟の体勢を取った。

 しかし、氷を纏った闇蛇の尾の一撃を喉に受け、火のブレスは黒翼のグリフォンの嘴の回りを焼いた。


「ギュエエエエェェェ!」


 黒翼のグリフォンは痛みと怒りで大きく嘶き身体に力を入れると、幾分魔力が目減りして翼が再生した。

 そう、翼が再生したのだ。


(再生能力か、……厄介ね)


 魔力を糧に身体を再生させる能力は一部の魔物に備わっている能力でとても厄介だ。魔力を消費すれば身体を再生する事ができるので、魔力が尽きるまで死ぬ事はない。


 黒翼のグリフォンがギラリと目を光らせ氷を纏った闇蛇に向けた頃、辺りを闇色の粒子が覆い、闇の霧を作って行く。


(アンディー、ナイス!)


 ミズハは一呼吸で魔力による身体強化を施すと、氷を纏った闇蛇に飛び乗り腰に差した双剣を抜き魔力を纏わせ一閃させた。

 二つの剣は黒翼のグリフォンの首に食い込んでいき切断しようとした。

 首を切り離されるのを阻止しようと、黒翼のグリフォンの前足がミズハに迫ると、氷を纏った闇蛇が羽ばたき黒翼のグリフォンに巻きついた。

 ミズハは黒翼のグリフォンの背に乗ると更に双剣で攻撃していく。

 そして、双剣が黒翼のグリフォンの首の骨に達した時の事だった。


【ミズハ、ストップ!】


「アンディー?」


 ミズハが双剣に込めた魔力と力を抜き、腕を引くと黒翼のグリフォンの傷が治っていく。

 これには黒翼のグリフォンも疑問を思ったのか「グルッ」っと鳴いてミズハを見上げた。


【ミズハ、君にならこの子達が見えるだろう】


「ッ!?」


 アンディーが指し示した先には、闇色の毛の獣と黒い光を発する玉が中心となる光の玉が複数浮いていた。






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