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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
36/69

秋休み エルフの里〈真実〉


 エスタークとミズハの試合が行われてから三日、ミズハは秋休みの宿題をしながら過ごしていた。

 ナノハのもとへ行く事は試合の後、目を覚ましてから言ってある。

 ミズハはナノハの家に向かう準備をしながら、先日ゲオルクに呼び出されて言われた事を思い出していた。


 それはミズハが魔力切れの気絶から回復した次の日、ゲオルクの書斎に呼ばれていくとゲオルクのみならずアリアナ達養父母が勢ぞろいしていた。

 何事かと少々身構えたミズハだったが、その後に言われた言葉で驚愕に顔を彩った。


『アマノ共和国に行った後にファルセ帝国に向かいグリフォンの突然変異種をどうにかする事。それがお前のSランクへの条件だ』


 ファルセ帝国とは世界の中で最も北に位置する国で、鉱山が多く農耕には向かないが鍛冶の聖地として有名だ。また、ドワーフが治める地としても有名である。

 またグリフォンとは鷲の頭と翼、獅子の身体を持つAランク上位に位置する魔物で、空の覇者とも云われている。そんなグリフォンの突然変異種、能力が全て明らかになっているとは思えない。

 ゲオルクは更に説明を続けファルセ帝国にいるグリフォンについて説明した。


 曰く、姿は通常のグリフォンより一回り大きく全身漆黒の毛で覆われている事。

 曰く、夜目がたいそう効き夜に村や町を襲う事がある。

 曰く、ファルセ帝国の金鉱山の頂上を根城として、鉱山にやって来た者を襲う。

 曰く、ドラゴンの様に口からブレスを吐いた。

 などなど。上がって来るのは一筋縄ではいきそうにない問題ばかり。

 ドラゴンとは竜種といわれる魔物の頂点の一角に位置する魔物で、知性があり意思の疎通が可能だ。そんなドラゴンが得意とする攻撃が口から吐くブレスと云われる魔法の一種で、高温の火炎から絶対零度の氷のものまで様々だ。

 突然変異種のグリフォンはSランク級の魔物であると話した後ゲオルクは口を噤んだ。


 それらを思い出してミズハは長息をもらした。Sランク試験を受けれるとは思っていなかったからだ。

 ミズハが悩んでいても時間は過ぎナノハの家に向かい屋敷を出る時間になった。

 養父母に見送られてミズハは屋敷を出、一路港に向かった。

 港で時計回りに回る商船見つけそれに乗ると、ミズハはターザ国を出発した。


 船に揺られてアマノ共和国に辿り着くとミズハはナノハに教えられたエルフの集落へと向かった。

 アマノ共和国は森林の多い国でそこかしこに木々が生えている。

 そんなアマノ共和国を進み、街を囲む防壁が見えて来た。

 ミズハは街道から一歩外れると木々の陰に隠れ〈人化の術〉を解いた。

 恐る恐る防壁に近付き入口に並んだミズハを見て、幾人かが首を傾げるのが見えた。

 何なのだろうと首を傾げるミズハに防壁の中からナノハの声が聞こえた。


「ミズハー! 待ってたわよ」


 ミズハは門を抜けるとナノハのもとに駆け寄った。


「お招きありがとう。あ、これお土産よ」


「ありがとうミズハ。お土産なんて良かったのに。さ、こっちよ」


 ナノハの先導で道を進んで行くと一建の建物が見えて来た。


「ただいま。父さん母さん友達が来たの」


「初めまして、ミズハ・タマモールと申します。今回はお招きいただきありがとうございます」


「まあまあ、いらっしゃい。貴女がミズハちゃ……」


「やあやあ、いらっしゃい。君がナノハのともだ……」


 ナノハの両親は家の奥から出て来るとミズハを見て固まった。


「父さん? 母さん? どうしたの?」


「い、いや何でもないよ。ミズハちゃんいらっしゃい」


「そうよ、何でもないわ。ようこそミズハちゃん」


 ナノハの戸惑いの声にナノハの両親、父親と母親は誤魔化した様な笑顔を向けミズハを迎え入れた。


「私がエリン・リシュティーユよで……」


「僕がヒサメ・リシュティーユだ」


 ナノハの母がエリン、父がヒサメと名乗った。

 エリンの金髪は色が濃く蜂蜜の様な色で少し癖があり、瞳は綺麗なエメラルドグリーンの大きめな瞳だ。およそ子持ちの母親に見えないが、そこは長寿のエルフクオリティー、若々しい限りだ。

 ヒサメの金髪はどちらかというと月の光の様な淡い色に深緑色の深い色合いの瞳だ。

 その二人を見てミズハはナノハがどちらかというと父親似で、瞳の色が母親に似たのだと分かった。

 同じ金髪碧眼と言っても様々だ。ミズハの金髪は黄金の様なキラキラした金髪で滝の様に癖がない。瞳はアーモンド型でエメラルドの様に宝石に似た光が宿っている。


「改めましてミズハ・タマモールと申します」


「それで、どうしてさっきは途中でどもったの?」


「それはね、ミズハちゃんが(おさ)の若い頃にとても良く似ていたからよ」


「長? そう言えば似てるわね。まさか! 長がミズハ達を捨てた男!?」


 ミズハが改めて自己紹介するとナノハが先程気になった事を問いかけた。それに対してエリンがエルフの里の長に似ていると言う。それに、憤懣やる瀬ないという顔のナノハ。

 エルフの里とは幾つかのエルフの治める街の集合体の事だ。他国では領地、領主という立場似ている。


「長は昔冒険者をしていて結婚したとも聞いていたが、まさか子供が居たとはね。いや、まだ決まったという訳ではないが長にも遣る瀬無い理由があったんだよ」


「理由があったら母子を捨てて良い理由にはならないわ!」


 とりなそうというヒサメの態度に声が刺々しくなるナノハは明らかに怒っている顔をしている。


「先代の長、今の長の父親が急に亡くなってね。今の長を探すか他の者に長を継がせるか里の上層部は割れてね。中でも力を持った老が……ゴホン。老人達が次の長は今の長だと迎えに行かせたんだ。その老人達はエルフ至上主義ともいえる人物達でね、他種族と婚姻していた長を無理やり拉致するように連れ帰ったんだ」


 ヒサメは老害と言おうとして寸前で言い変え説明した。


「じゃあ、ミズハを自ら捨てた訳ではないの?」


「ああ、長は暫く老人達に抗議していたが何かを言われてから大人しくなった。長になってから老人達から権力を奪って誰か探していた様だ」


 ナノハの問いに答えるヒサメは苦々しそうな顔をしている。


「ミズハ、ミズハしっかりして! もしかしたら長がミズハのお父さんかもしれないわ。会ってみる?」


「わ、私のお父さんかもしれないの。うん、会ってみたい」


 呆然としていたミズハを叱咤してナノハは長とミズハを会わせようと画策しだした。そんな事とは知らずミズハは純粋に長と会ってみたくなった。


「そうね、長に会ってもらいましょう。明日にでも家に来てもらえるようにするから待っていてね。そうそう、長旅お疲れ様。お風呂にでも入って疲れを癒してちょうだい」


 そうエリンが締めくくり、ミズハはヒサメ家のお風呂を借りて旅の汚れを落とし、一服入れた。

 お風呂から出てナノハと合流したミズハは秋休みの宿題を取り出して一緒に勉強をした。


 エリン作の豪華な夕食を取りナノハの部屋でミズハ用の布団を引きながら、ミズハとナノハは他愛もない話をした。

 しかし、明日会うエルフの里の長の事が気になりぼんやりしがちのミズハを気遣い、ナノハはリラックスできぐっすり眠れるハーブティーを作った。

 ウトウトし出したミズハが眠ってしまうと、ナノハは空中に向かって話しだした。


「闇の精霊さん。貴方はミズハの父親について知っている事はない?」


【そうだな……。名前は聞いているよ。でも今から言うつもりはないよ、明日になればわかる事だからね】


「そう」


 アンディーは〈姿現し〉を使う事なく声だけ届けた。その言葉にはとても深みがあってナノハは何も問い返す事ができなかった。

 ミズハに親愛の情を抱いているアンディーにとってミズハの本当の父親というのは余り許せるものではなかった。しかし、長い時を生きて来たアンディーはカレンとの話で事情がある事は察していたのだ。


 そして、長いようで短い夜は明けて行った。


 朝から何処かソワソワしていたミズハの元に長がやって来ると告げられたのは、昼食が終わってからだった。

 エレンにリビングに押し込められ、何周かリビングを回った頃来訪を告げる魔道具が鳴った。

 素早くエリンとヒサメが出て行き、来訪者を迎え入れる。ミズハは心臓がバクバクと高鳴り呼吸が荒くなる。

 それを見ていたナノハがミズハを座らせて、ハーブティーを入れだした。入れた数は五人分。ナノハとミズハ、ナノハの両親のヒサメとエリン、そしてエルフの長の分だ。

 コツコツと足音がなり来訪者が近付いて来る。

 そして扉が開きヒサメとエリンに連れられて一人のエルフが姿を露わした。


 エルフとして平均よりやや高い身長に細身ながら鍛えられた身体つきが窺える。髪はミズハと同じ黄金色に輝き長い髪は三つ編みにして結ばれている。切れ長の瞳は涼やかで、色はこれまたミズハと同じエメラルド色。否、ミズハが似ただろう事が窺えた。

 エルフの長はミズハを見ると切れ長の瞳を見開き、口を戦慄かせる。


「……君は、君は我とカレンの子だね」


「はい。カレンの娘でミズハ・タマモールと申します」


 エルフの長はミズハに近付くと、そっと抱きしめた。


「ずっと、ずっと探していた。すまない。……ホノエ村に使者をやったが、魔物の氾濫で壊滅していたと聞いて各地を探しまわらせたんだ。本当は我自身が探しに行くべきだったのだろうが、探しに行けなくて。……本当にすまない」


「貴方がお父さんなのですね」


 エルフの長は長い間探していた娘が見つかりその(まなこ)から次々と涙を溢れさせた。ミズハも一筋二筋と涙を流して行く。

 その様子を背にヒサメとエリンはナノハを連れてリビングから離れた。


「カレンは如何している。カレンなら魔物の氾濫には負けないだろう。お前を連れて逃げるぐらいすると思っていた」


 エルフの長はミズハから少し距離を取るとそう訊いた。その問いにミズハの目からひと際大きな雫が零れた。


「お、お母さんは魔物の氾濫がある前に亡くなってしまったの……」


「まさか……。カレンが……。すまない、苦労させたな」


 ミズハの話にエルフの長は絶句して、数瞬思考を停止してからミズハに謝った。


「大丈夫。凄く良い人達が拾ってくれたの」


「そうか……。ミズハが無事で何よりだ。ああ、そうだ。我はエンジュ・フルフレイ。ミズハの父だ」


 ミズハの話に安心した表情を浮かべたエルフの長、エンジュは改めて名乗った。

 そこにノックの音がして一人のエルフの男性が入って来た。


「長、お帰り下さい。危急の用が……」


「わかった。……ミズハすまないな。これからエルフの街の各地で秋祭りが催される。是非楽しんで行ってくれ。また会おう」


 エンジュはミズハの頭を撫でて去って行った。


 エンジュが迎えに来たエルフと去って行くとヒサメとエリンがナノハを連れてリビングに戻って来た。


「ミズハ! お父さんが見つかって良かったわね!」


 ナノハはそう言ってミズハに抱きついた。それをミズハは抱きとめると嬉しそうに微笑んだ。


「ナノハが此処に呼んでくれたからだよ。ありがとう」






やっとミズハのお父さんを出す事ができました。

設定としては冒険者として活動しているときにミズハの母と出会い結婚。

子供ができて喜んでいるときにエルフの里の老人達(エルフ至上主義)に捕らわれ共和国へ。

妻子のもとに帰ろうと色々手を尽くしますが、老人達に妻子を殺すと脅されて長に就任。

老人達を政治的立場から追い出して、妻子を迎え入れようとしたが魔物の氾濫にあって村壊滅。

ずっと妻子を探していたが見つからず、ナノハの家でミズハと再会←今ここ

という具合になっています。

もしかしたらどこかの章の後ろの方でエンジュ視点を書くかもしれません。

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