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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
33/69

武芸大会 終了後


 ミズハはナノハとの試合が終わった後、選手の控室で休んでいた。

 ミズハの姿は〈人化の術〉が解けて獣人の姿になっている。


【ミズハお疲れ様】


「うん、疲れたな。ふふふ、ナノハがいきなり詠唱破棄を使って来た時は吃驚したわ」


【そうだね。でも今は樹魔法だけみたいだけどね】


「そうね。エルフは魔法の中でも樹魔法を得意としているからかな?」


【そうだろうね】


 ミズハがアンディーと会話しているバンッ! と控室の扉が開いた。


「ミズハ! 三位決定戦見ていて……じゅうじん? ミズハ獣人だったの!?」


 唐突に扉を開いたナノハはミズハの本当の姿を見て瞠目し、驚いた声を上げた。

 驚いたのはミズハも同じで、耳がピンと立っている。急いで〈人化の術〉を使い普段の姿になる。

 控室は防音効果がありミズハはナノハの接近を知る事ができなかったのだ。


「あ、あのナノハ。これには訳があって……」


「――、理由があるのはわかるわ。此処では話しにくいでしょうし、寮に帰ったら確り話してね」


「う、うん」


 ワタワタと何とナノハに話して良いのかわからないミズハが慌てていると、ナノハが救いの手を差し伸べた。しかし、その救いの手は問題を先送りにしたとはいえ確り訊く気満々のものだった。


「それでミズハ、私の三位決定戦見ていてね。その後、観客席に一緒に向かいましょう」


「わかったわ。一緒にリングに行きましょう」


 ナノハと連れ立ってリングに歩いて行くと、丁度ナノハの三位決定戦が始まった。

 ナノハがあっさり三位を勝ち取ると、武芸大会一年生の部魔法部門の順位が宙に表示された。

 一位ケニス、二位ミズハ、三位ナノハという順にだ。

 表彰式は全ての戦いが終わった後なので、ミズハ達は選手に宛がわれる観客席に向かった。


 一年生魔法部門の行われていた左中央のリングでは、武芸委員会の生徒達が慌ただしく武器部門の生徒を呼んでいた。

 午前中に一年生団体戦まで消化しないといけないからだ。


 ミズハとナノハが観客席に辿り着くと他の本戦出場者達が迎え入れた。

 二人が席に着きリングを見ると、武器部門も大詰めを迎えていた。それに合わせて団体戦出場者達が観客席からリングへと移って行く。


 団体戦の試合はどんでん返しらしいどんでん返しも無く順調に進んで行く。

 そして二、三年生合同の試合のある午後の部へと進んで行った。

 二、三年合同の試合は一年生の試合と違って迫力がケタ違いだった。

 武器部門の武器の熟練度、魔法部門で詠唱される魔法の種類や短縮詠唱など。見ている者に様々な夢を与えて行く。

 学生の授業の一環の為賭けなどは行われないが、誰それが優勝する、否、誰それだ。様々な名前が挙がって行く。


 二、三年生合同の団体戦が華々しく終了し、今までの試合で入賞した一位から三位までの生徒が中央のリングに呼ばれる。

 ミズハとナノハはリングへと向かい、そうそうに表彰された。

 ミズハは銀色のリボンにユグドラシル学園の紋章である六枚花弁の世界樹の花が意匠された物を、ナノハは銅色のリボンに同じ意匠の施された物を授与された。

 これは、学園指定のリボンで入学の際買ったリボンの代わりに使えるものだ。


 受賞式が終わりナノハは早速リボンを変えた。

 そして、未だリボンをどうするか悩んでいるミズハに向かいリボンを取り上げるとミズハの首元にリボンを結んだ。


「せっかく貰えたんだから着ければ良いじゃない、にあっているわよ。さあ、寮に帰りましょう」


 選手である生徒や観戦していた生徒は、もう武道館に用事はなく寮へと引き揚げ始めている。用事があるのは武芸員会の生徒と教師のみ。


 寮に帰ったミズハとナノハは手早く入浴すると、一緒に夕食を取り部屋へと引き上げて行く。

 その間、ミズハは段々緊張して行くのを止められなかった。


「これからミズハの部屋に行くね」


「うん。待っているわ」


 ナノハはミズハの部屋に入ると二脚ある椅子を引きそこに座った。


「で、何で獣人である事を隠してるの?」


「え、えーと――」


 ナノハの質問にミズハは立ったまま何とか言葉を帰すが、中々ちゃんと言葉が紡げない。


「ミズハも座って」


「え、ええ、そうね。……獣人の姿の私を見たナノハなら気付いたかもしれないけど、私は多尾狐なの」


「多尾狐って狐の魔物の中で魔力が高い狐の事よね? というとミズハは狐の獣人なの?」


 ナノハの合図でミズハが椅子に座って説明を開始した。


「そう、私は狐の獣人よ。猫の魔物や獣人にも猫又っていう尾が多い種族が居るみたいだけど、狐の獣人は魔力が高ければ高いだけ尾の数が増えるのよ」


「なるほどね、ミズハの尾は三本だったわよね。……って事は普通の狐の獣人よりかなり魔力が多いのね」


 ナノハはミズハに尾の数を確認すると感心したようにミズハを見つめた。


「単純に三倍とかなのかはわからないけれど普通の狐の獣人より大分魔力が多いみたいね」


「それが隠している理由ではないでしょう」


「ええ。単純に見た目上狙われかねないという理由もあるけど。……本当の所は獣人が、いえ、狐の獣人が怖いのよ」


「狐の獣人が怖い?」


 ナノハはミズハの言葉に疑惑気に疑問部分を言葉に出した。


「昔、私がまだ小さかった時、狐の獣人の村で過ごしていたの。狐の獣人は茶髪茶眼、血系魔法も〈狐火〉なのよ。でも私はこの通り見た目が違うし血系魔法も〈精霊魔法〉だったの。小さな村ではとても異端だったのでしょうね、尾の数も多かったし。それにその村にはちょっとした言い伝えがあったの。クズノハ・タマモールという私のご先祖様のね」


 ミズハはそこまで喋ると二つコップを出して水を注ぎ一口飲み込んだ。

そして語り出す。

 クズノハ・タマモールが多尾狐最多の九尾の狐の獣人であった事。その人が〝魔女〟と呼ばれ恐れられていたことなどを語る。

 そんなこんなが重なりミズハはその村で村八分にあっていた事を語った。


「何でミズハのご両親はミズハが虐められているのを知って一人にしていたの?」


 ミズハが語った事の中には独りになると行為が増した、というものもあったからだ。


「母は必死にかばってくれたわ。父は私が産まれる前に失踪してしまったそうなの」


「ちょっと待って、ミズハのお母さんって狐の獣人よね? まさかその失踪したお父さんってエルフだったわけ?」


 ミズハの言葉にナノハはこれでもかと据わった目を向けた。

 ナノハにとってミズハがエルフのダブルというのは知っていた。ミズハの母が暮らす場所に選ぶとしたら故郷や同族の村。ならばミズハの母は狐の獣人のはずだ。


「え? うん。母が狐の獣人で父がエルフよ」


「ふ、ふざけるんじゃないわよ! 同じエルフとして嘆かわしい! 自分の奥さんと子供を置いて失踪するだなんて!」


 ナノハの怒鳴り声にミズハはどう宥めようか悩んだ。


「落ち着いて、父にも何か訳があったかもしれないし……」


「訳? 訳があったって許されないわよ! 自分の子供の面倒はちゃんとみるものよ!」


 ナノハ達エルフは長寿という訳もあり子供ができ辛い。

 その為、子供はご近所で纏まって面倒をみる。一人二人ではなく複数で。そう育って来ていたのだ。


「はー。獣人っていうのは学園にも黙っているの?」


 ナノハは息を大きく吐いて気持ちを落ち着かせると、ミズハが何処まで秘密にしているか聞いて来た。


「学園には話してあるわ。その上で〈人化の術〉使う事は許可貰っているわ」


「そっか、それなら大丈夫だね。ミズハが平気になるまで〈人化の術〉使っていて良いと思うわ」


 ミズハの答えにホッと息を吐くナノハ。

 それから二人は眠くなるまで他愛もない話をして時間を過ごした。


 その日の夜人々の寝静まった深夜、アンディーは〈姿現し〉を使うとミズハの髪を梳いた。


【ミズハ、君の力は年々力を増しているよ。カレンとの約束もそろそろ守れそうにない】






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