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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
31/69

武芸大会 予選


 八月の猛暑のさなかユグドラシル学園は賑わっていた。

 八月の中旬には生徒達の大半が参加する武芸大会が開かれるのだ。


 武芸大会とは武器部門と魔法部門に分かれた生徒間の戦いである。

 更に個人戦部門とパーティー戦部門に分かれており、ミズハはどれに参加するか悩んでいた。

 悩みながらいつもなら襲来して来るだろうアランを待ったが、アランは机に向かって悩んでいた。

 ミズハが心配してアランの元に行くと項垂れだした。


「ああ、ミズハか。俺も武芸大会に出たかったんだが武芸委員会に入る事になって、ミズハ達と大会に出れないんだ……」


「そっか、残念。でも私達の試合応援してくれるでしょう?」


「ああ、応援する!」


 武芸委員会とは武芸大会を表裏両面で支える生徒達の事である。

 武芸大会は生徒全員が関わりをもつ大会だが、各国の重要人物はイベントの運営を学ぶため武芸委員会に入る事になる。

 重要人物、各王侯貴族の内上位に入る権力者の子供を衆人環視のもと怪我をさせると、本人は気にしなくても回りが騒ぎ出したりするため、運営方法を学ぶとして武芸委員会入りする事になっている。

 勿論武芸委員会に入るのは王侯貴族の子息子女だけではなく生徒の代表、生徒会なども武芸委員会入りする。

 だが、アランは現在一年生。生徒会入りはしていない。

 そんなアランが武芸委員会入りするという事は獣王国レオンの重要人物、すなわち特権階級の出である事を示している。

 その事に考え至るのはミズハに取って至って自然な事だった。

 それに今までのアランの行動を見れば、それなりどころか随分上の地位に居る事は想像に難しくなかった。


(アランは雲の上の存在、これまで通りに接して良いのかしら)


 ミズハはアランと距離を取った方が良いのかと思った。が、直ぐに今まで接して来た貴族階級の人物達を思い出した。

 確かにミズハを下に見る者もいたが、温かく迎えてくれるものも多かった。


(アランが態度を直してくれ、というまで今のままで良いかしら)


 今アランに態度に気をつけろ、などと言われれば悲しい気持ちになるかもしれないと思いつつミズハはアランを見つめる。

 ミズハは知らぬ間にアランへ熱の籠った視線を向けている事に気づきはしなかった。

 アランも気付いていれば喜んだだろうが今は下を向いて悩んでいた。

 それを見ていたナノハとレイニード、およびクラスメイトはアランとミズハの関係が少し進歩した事を悟った。

 それと共にミズハがアランとくっ付いたら、アランが熱そうなので気付いてくれるなと思う者も少なからず存在した。主に男子に。

 勿論ミズハも美少女なので、アランに嫉妬する者も存在している。


 ミズハとアランを観察していたナノハはミズハも元に移動した。


「ミズハ! 私は魔法部門の個人戦に出ようと思うんだけどミズハも魔法部門の個人戦に出ない?」


「うん、良いよ。アランとレイニードは大会に出場は出来ないって」


「レイニードに聞いた。出場先は決まったし、さっさとプリント出しに行こう」


 出場する部門の選択や武芸委員会入りするか希望先を書くプリントを提出しようとナノハは言っているのである。

 こうしてミズハとナノハは武芸大会魔法部門個人戦に出場を決めた。


 武芸大会には予選と本戦があり予選はユグドラシル学園内で開催し、本戦になると各国から観戦者が集まる。

 各国から集まるのは、王侯貴族は勿論各国の軍部の幹部も青田買いする為に来訪する。

 ユグドラシル学園の生徒の就職先の有力候補の一つだ。


 武芸大会の分別は一年生と二、三年の合同の二部門に分かれる。

 一年生はまだ授業が始まったばかりで、戦闘ができるものとできない者の差が激しい。よって一年生の内で上位に食い込むのは、ユグドラシル学園入学前から家庭教師に教わるか、冒険者ギルドに入っているものに分かれる。

 冒険者ギルドに入っている者の場合魔法を扱えない者もいるので、武器部門と魔法部門では武器部門の参加者の方が多い。

 これが二、三年生になると魔法部門の参加者も増えて来る。




 ミズハ達の予選の組み合わせが決まった。

 ミズハとナノハは廊下に張り出された掲示板に視線を移した。


「えーと、一年の魔法部門参加者は百人ちょっとか。後は武器部門と武芸委員会の参加者だね」


「そうね、武器部門の方が人数はどうしても多くなるわね」


 ナノハの言葉にミズハが返しながら自分の組み合わせを探した。

 予選は十人一組のバトルロイヤルで、最後に残った一人が本戦に出場できる。

 魔法部門はA組~K組の十一組に分かれていた。

 A組~J組は十人ぴったりで、K組は六人の組み合わせだ。


「あったわ。ナノハがG組で私がK組みね」


「あ、本当だ。あれ? グランドール君も魔法部門に出場するんだ」


「え? グランドールさんも? グランドールさんなら武器部門に出場すると思ったわ」


 「本当にね」とナノハが返えす。ミズハは視線を移してケニスを探した。

 ケニス・グランドール。一年A組の自己紹介の時ミズハが強いと感じた相手で、競技祭のさいには徒競争や混合リレーにも参加していて、その身体能力からミズハは自分以上の能力を持っていると当たりを付けていた。

 そのケニスが今回魔法部門に参加を表明している。

 ケニスの名前はC組の中に載っていた。


 武芸大会予選。ユグドラシル学園にある広大な武道館で執り行われる。

 武道館には縦横三列ずつ、計九つのリングが設置されている。

 武器部門の予選は右側三列で執り行われ、魔法部門が左側三列で執り行われる。真ん中の参列は緩衝地帯にされており、魔法が武器部門の生徒の方に飛ばない様にされている。


 武芸大会予選が始まり、ミズハ達は九つあるリングの東側に来ていた。

 最初にA組~C組の生徒がリングに上がり戦闘が始まった。

 ミズハとナノハはC組の試合を見つめた。

 ケニスは素早く位置取りをすると風魔法を詠唱破棄して使ってみせ、その風圧で他の生徒は場外に落ちてケニスが本戦に進んだ。

 詠唱破棄。魔法の詠唱を全てなくしたもので、魔法の原理を十二分理解していないと発動しない。他に短縮詠唱という呪文を短縮した物もあり、そちらの方が使い手が多い。

 また魔術媒体、魔力の流れを良くし魔法の制御をしやすくなる物をケニスは持っていなかった。魔法に精通していれば持っていなくともスムーズに扱う事ができる。つまりケニスはそれだけ魔法を理解しているという事だ。

 そんなケニスの詠唱破棄に見ていた生徒のみならず教師も注目した。


(体術だけでなく魔法も達人級、となると話題になるはず。国に属する騎士なら大々的に売り出すはず、ということは冒険者。冒険者で私と同じ年で活躍していると言えばSランク冒険者〝不可視の暗殺者〟の可能性があるわ)


 ミズハはケニスの試合を見てそう結論付けた。

 次にD組~F組の生徒の試合が組まれ、その次にG組~I組の試合が始まりナノハがリングに上がった。


 ナノハは試合が始まったと同時にリングの中央により、土の精霊魔法を放った。

 リングの中央に辿り着くまでに呪文が完成して、リングの石が生徒たちに襲いかかった。

 石は意思を持ったようにうねり、生徒の手足に巻きつくとリングの外へ落として行く。

 あっという間にナノハ以外の生徒はリング外に落ちナノハの本戦出場が決まった。


「ただいま~。リング壊すなって注意されちゃった」


 テヘっと可愛らしく舌を出し苦笑いしているナノハを見ていたミズハは、G組の試合をしていたリングを見た。

 そのリングの石は剥がれた所もあれば盛りあがった場所もある。またナノハが作った石の蔦の残骸はリングにぶちまけられている。


(うん。注意されるよね)


 ミズハは心の中でリングを直している武芸委員会の生徒に同情した。


 そして最後の組み、J組とK組の試合始まろうとしていた。

 K組の生徒の中にミズハの姿もある。

 始まりの合図と共に詠唱破棄で氷魔法を使い、リングを凍らせ突風を吹かせて生徒達をリングの外へ落として行く。

 二人目の詠唱破棄の使い手の出現に教師は瞠目し、生徒は自分もいつか使えるようになろうと気合を入れた。

 こうしてミズハとナノハ、ケニスは武芸大会魔法部門個人戦の本戦に出場を決めた。




「何だって俺は事務仕事なんだよ! リング周辺の仕事ならミズハの雄姿が見れたのに!」


「しょうがないでしょう。アランを使いっぱしりにできなかったんですから」


 ミズハ達の試合している頃、アランはレイニードと共に武芸委員会の一室で事務仕事をしていた。

 武芸員会には上位の王侯貴族が席を置いているとはいえ王族なのは今の所アランだけ。そんな重要人物を使いっぱしりにできず、アランは黙々と事務仕事をしていた訳だが、ついに我慢が限界を迎えていた。


「ミズハ達なら本戦に出場を決めるはずだ。ああ、本戦も見れないかもしれない」


 シュンと耳と尻尾を垂らすアランにレイニードは付き合っていられないと無視する事に決めた。

 既にこのやり取りは五度目なのだ。






体調不良になりました。

もしかしたら更新が遅れるかもしれません。

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