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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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避暑へ


 七月下旬、猛暑に喘ぐ生徒達はユグドラシル学園のカリキュラムで避暑に行く事になっている。

 行き先は世界樹の回りに広がる湖だ。

 一年生がユグドラシル学園から最も近い湖の南側で、二年生が西側、三年生が東側だ。


 ミズハ達一年生が集まり長大な列を作って移動して行く。ミズハ達一年A組は一年生の先頭を歩いている。


「うー、暑い。死ぬ」


「アマノ共和国は中央()()より北側だものね。ナノハ、湖が見えて来たよ」


「本当!?」


 世界樹のある中央島は世界の中心にあるので、中央島を挟んで北側は寒く南側は暑い。というのが通説だ。

 ミズハの暮らしていたターザ国は中央島の真西で、ナノハの暮らしていたアマノ共和国は長央島から見て北東に位置している。

 アマノ共和国とは反対側の中央島より北西に位置する国が獣王国レオンでアラン達の故郷だ。

 今は別々に移動しているアラン達も今頃暑さにやられているかもしれない。


 そうこうしている内に湖に辿り着いたミズハ達一年生はA組から順番に野営の準備を始めた。

 女子は竈の準備をしだし、男子は教師から渡されるテントを組み立てて行く。


「ック、何故俺はミズハと離れ離れなんだ……」


 男子チームでアランはブツブツ文句を言いながらテントを立てていた。

 その様を見ていた同じ班の男子、茶色狼の獣人クライは普段教室で見るより明らかに重症なアランの様子にただただ引いていた。


「俺も番を見つけたらああなるのか。なんだか怖いな」


「安心して下さい、あそこまでになるアランが例外です。私も確認してみたのですが、番を見つけたからといってあそこまで回りを見れなくなる例は少ないそうです。まあ、獣性が強いとなりやすいそうですが」


「そうか。安心した」


 クライの疑問に答えたレイニードは様変わりしたアランを最初に見た時の事を思い出した。

 元々アランは獣王国レオンの世継ぎの王子として育てられ、申し分ない能力を身に着けていた。

 少々上から目線な所はあるが、そこは威厳があるといえなくもない。

 そんなアランが一人の少女に入れ込む様はレイニードに取って衝撃だった。

 引き離した方が良いのではないかと思った事もあるが、〝ミズハ〟が絡む事以外は至って普通。否、やる気に満ち満ちていた。

 獣王国レオンから届けられる政務も以前以上に取り組み、勉学にも励んでいる。それに……。


『俺はミズハといれる空間を良いものにしたい。だからミズハが獣王国レオンに訊ねて来た時に誇れる国にしたいんだ。勿論今でも十分誇れるけどな』


 そうレイニードの目をはっきり見つめたアランの姿には王者の貫録があった。

 そんな目を見てしまえばレイニードは臣下でしかないと思い知らされる。確かに(アラン)が間違った時に諫めるのはレイニードの役目だろう。しかし、獣人にとって番と離されるというのは死より辛い事。それを主にしいる事はレイニードには出来なかった。


「アラン、レイニード。テントは出来上がった? 湖に行きたいから早く水着に着替えたいのだけど」


「何!? ミズハの水着だと! 女子のテントはこっちだ!」


「アラン落ち着いて下さい」


 ナノハの掛け声に興奮したアランが答え、レイニードが宥めた。

 ミズハ達四人にとっては何時も通りの展開だが、いくら耐性が付いているとはいえクラスメイト達は引いていた。


「さあ、ミズハ着替えましょう」


 ナノハはミズハを引きずる様にテントに入ると着替え出した。


「ちょっとミズハ! それはないわよ」


 ミズハは水色のタンキニの水着に長袖のパーカーを被っている。

 対してナノハは若草色のトップと深緑色のスカートのホルターネックの水着だ。

 ミズハの体型は出る所は出て締まる所は締まったスタイルの良い体型だ。それを隠してしまうパーカーをナノハは奪い取った。


「ちょっとナノハ! 返して!」


「駄目よ! ミズハはスタイルも姿勢も良いのだからもっと肌を見せるべきよ。水着もタンキニではなくてせめてパレオにして欲しかった」


「ちょ、ナノハ返して!」


 ナノハはミズハのパーカーを持ったままテントを出るとズンズン歩いて行く。

 ミズハはナノハを追って湖へと歩き出した。


「アラーン、レイニード着替え終わったわよ。さ、ミズハこっちに来て」


「何!? おお、ミズハの水着姿! 生きてて良かった」


「ふっふん、私を褒めなさい。ミズハが着ていたパーカーを剥ぎ取ってやったわ」


「何だと!? ナノハよくやった!」


 ナノハはアランとレイニードに手を振りながら駆けよるとミズハを指示した。

 ナノハの声でミズハを見たアランはだらしなく顔を緩めたが、ミズハと視線かあった瞬間顔を引き締めた。


「さあ、泳ごうぜ」


「「賛成です!」」


 アランの掛け声で準備運動を始めるナノハとアラン。ミズハは少し憂鬱気に準備体操を始めた。

 ドボンと音を立てて飛び込むナノハ、アラン、レイニードと湖畔に座り足だけ湖に浸けるミズハ。

 アランはミズハを振り返り遊泳に誘うが、答えは芳しくない。


 ミズハは泳ぎまわる三人を見て溜息を吐いた。

 ミズハがホノエ村に居た頃、ホノエ村には川が流れていてその川に突き落とされた事があった。

 川幅も水深もさほど大きくも深くもない川だったが、まだ子供だったミズハは驚いて溺れてしまったのだ。

 それ以来〝泳ぐ〟という行為ができないのだ。

 

「ミズハ!」


「きゃっ」


 回想に耽るミズハにアランが唐突に話かけ、ミズハは驚いて悲鳴を上げた。


「これやるよ、湖の底で咲いていたんだ。ミズハににあうぞ」


 そう言ってアランが差し出したのは、今ミズハに着ている水着と同系色の小さなレース状の小花の咲いた水草だった。


「泳げなくても同じものは見れるだろう」


 そう言うとアランは片膝をついてミズハの手に水草の花束を乗せる。


「ありがとうアラン」


「ミズハにそう言って貰えるのが一番の報酬だな」


 ミズハは水草の花束を見て少し赤くなった後フワリと微笑んだ。

 そんなミズハを見てアランは幸せそうである。


「ねえレイニード。あれでミズハ、アランの気持ちに気付いていないのよね」


「そのはずですが……」


「ミズハったらデートでプレゼント貰った様な顔しちゃってるわよ」


 ナノハとレイニードが湖の端でこそこそと会話をしている。

 ナノハ達が何を言いたいかというと、ミズハとアランの様子を見てあの二人は本当に付き合っていないのか、という事だった。

 アランは勿論の事ミズハも甘い雰囲気を醸し出しているのだ。


 ユグドラシル学園の避暑はアランとミズハの状況を一歩前進させた。

 それに気付いたのはナノハとレイニード、そしてアランだけであった。






アラン一歩前進!

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