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狐少女の日常  作者: 樹 泉
一章 幼少期編
3/69

ミズハ


 一方洞窟の陰に隠れていたミズハはというとエスタークを見て震えていた。

 ミズハに取って獣人とは自分を虐げる存在である。狐と狼という違いはあっても怖いものは怖いのだ。更に人間やエルフ、ドワーフに会った事はない。


【ミズハ出ておいで。僕が絶対何もさせないから】


 アンディーの呼び声にミズハはオズオズと洞窟から出て来た。


「狐の獣人の子供か」


 エスタークがミズハを見てミズハの種族を言い当てる。

 ミズハはエスタークの声を聞くとビクリと肩を揺らす。


「初めまして、私はアリアナよ。貴女のお名前と年齢は?」


 アリアナはミズハの身長に合わせて身を屈めると自己紹介をした。


「は、初めまして。ミズハ・タマモールと言います。歳は九歳です」


「タマモール?」


 ミズハはアリアナ達に自己紹介したが、エスタークの言葉に再度ビクリと肩を揺らす。


「エスターク貴方は少し黙っていて。……ミズハちゃん貴方は何故こんな所に居るの?」


 アリアナはミズハのエスタークへの怯えを悟り、エスタークを黙らせるとミズハに質問した。


「魔物の氾濫があって逃げて来たの」


「被害にあった村か街の子供なのね、住んでいた場所は分かる?」


「うん。ホノエ村よ」


「そう……」


 村の名前を聞きだしたアリアナは溜息を吐く、ホノエ村は壊滅していたのだ。生存者は絶望的だ。村人はミズハ以外生きてはいないだろう。


「おお、思いだした。タマモールってカレンの姓だったはずだ」


「母さんを知っているの!?」


【カレンを知っているのかい!?】


 黙っている様に言われていたエスタークが急に大きな声を上げ、ミズハはビクリと跳ねるが、予想外の言葉にミズハとアンディーはエスタークに歩み寄る。


「なるほどな、カレンの娘か。髪の色も目の色も違うから気付かなかったぜ」


「エスターク独りで納得しないで説明してちょうだい」


 ポンと手を叩き納得するエスタークにアリアナが説明を促した。


「説明って言ってもな。昔少し世話を焼いた事があっただけだ」


「それでは分かりませんよ……」


 アリアナはハァと溜息を吐くとこめかみを揉んだ。そもそもアリアナはミズハを怖がらせない様にエスタークを黙らせたのだ。


「そのカレンさんという方とは何時頃会ったのですか?」


 アリアナはエスタークが分かりやすく話せるよう話を振った。


「おう、十五年位前に新人冒険者として都市に出て来たカレンが、ならず者に絡まれてるのを助けたんだ」


「そうですか、それは良い事をしましたね。その後は如何したのです?」


「一月程冒険者のイロハを教えたぜ。分かれる頃には逞しくなってたな」


「そう、ですか。貴方のイロハを……。それでその後連絡は取ったのですか?」


 ドヤ顔で報告するエスタークが冒険者のイロハを教えた、という所でアリアナはカレンを不憫に思った。この何事も直感を大事にする脳筋からイロハを教わるとは。


「いや、連絡は取らなかった。ただ風の噂でエルフとパーティーを組んだって聞いたな。その後噂は聞かなくなった」


「そうですね、ミズハちゃんの年齢を考えると十年ほど前には冒険者を引退しているでしょう。……さて、ミズハちゃんこの通りこの小父さんは怖くありませんよ」


【ミズハ大丈夫。この人達に悪い感情はないよ】


 ミズハは母から、冒険者時代パーティーを組んでいたエルフの男性の子供であると聞いていた。その事を考えるとエスタークの知っているカレンは、ミズハの母親であっているだろう。

 アリアナは話を締めくくると、冗談めかしてミズハの緊張を解こうとする。

 そこに合いの手を入れたのは意外な事にアンディーであった。闇の精霊であるアンディーは悪意に敏感だが、四人から悪意は感じなかった。


「ミズハちゃんお父さんやお母さんとは一緒ではないのですか?」


 ことさら優しく話しながらアリアナは聞いた。


「……父さんは会った事がないから知らない。母さんは一カ月前に、うう、し、死んじゃった……ウックヒック」


「ごめんなさい。ミズハちゃんどうか泣かないで」


 アリアナの質問にミズハの(まなこ)から涙が溢れだす。

 アリアナはしまったと思いながら急いでミズハを慰める。


「だ、大丈夫。アンディーが居てくれるから」


【当然!】


 ミズハは袖で涙を拭くと顔を上げた。

 それを見て笑顔になるアンディー。

 沈んでいた空気も浮上した。


「では、此処へは二人で来たのですか?」


「うん。アンディーが隠蔽かけてくれたから、此処まで逃げて来れたの」


「そうですか、頑張りましたね」


 ホノエ村からこの山まで子供の足ではかなり距離がある。なんといっても国の南端にあったとはいえ、南にある国の国境を越えたのだ。街道でもそれなりに距離があり、森や山を通ったのであれば道も悪い。


「そうか苦労したんだな。よし、俺と一緒に来い。俺の養女になってくれ!」


『はあ!?』


 今の今まで黙っていたゲオルクの唐突な宣言にその場に居た全員が固まった。


「ゲオルク貴方、中々結婚しないと思ったらロリコンだったのね」


【このロリコン野郎! ミズハは僕が守る】


 氷結から解けたアリアナが侮蔑を含んだ目で見つめ、アンディーは闇魔法の準備を開始した。


「ちょ、違うぞ。お袋が孫の顔見せろって五月蠅いから、養女になってくれって言ったんだ。俺も今回で冒険者も引退、一所に落ち着くんだ子供の一人位」


「何を言っているのです。子供ですよ、犬猫とは違うのです。貴方の様な大雑把な人間が育てられる訳がありません。養女にするなら私も育てます!」


「おう、なら俺も格闘術を仕込んでやる」


「フム、一所に落ち着いて武器を鍛えるのも一興か」


 ゲオルクは慌てて魔法を回避しアリアナの間違えを正す。しかしゲオルクの性格を知っているアリアナは、猛反対した後折衷(せっちゅう)(あん)を出し、自己完結した。エスタークはというとミズハを鍛える気であるし、ダグは冒険者兼鍛冶師として武器を鍛えると言う。まるでミズハの養女の件は決まったというかのようだ。


【ちょっと、何で話が纏まっているの? ミズハの意見は!?】


「そうだった。嬢ちゃん俺の養女になってくれ」


「え? え?」


 アンディーのもっともな意見にゲオルクはミズハに向き直った。しかしミズハは混乱から立ち直れない。

 ミズハに取って今まで身近な人間は母親しか居なかったのだ。人外であればアンディーも居たが、此処までグイグイ来るのは初めてだ。


「行く場所ないんだろう。だったら俺と一緒に来てくれ」


「でも」


 ゲオルクは大剣を置くと膝を付き、ミズハと目線を合わせるとミズハの頭を撫でる。


「でも私色違うし、尻尾三本あるよ」


「お前の髪や目の色は父親似、エルフにそっくりだ。狐獣人の尾が多いのは魔力が多い証、良い魔法使いになれるぞ」


「皆と違うし迷惑になるかもしれないよ」


「周りと違うのは個性だ、迷惑なんか子供の内から気にするな。さあ行くぞ」


 ミズハは懸命に不安を言い募るが、ゲオルクは一つ一つその不安を解消して行く。最後には泣き出しそうなミズハを抱くと軽く揺する。


「うう、いっじょにいぐ」


 ミズハの「一緒に行く」は涙声になって聞きとり難いが四人には確かに聞こえていた。



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