表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
29/69

ダンジョン授業に向けて


 夏日が始まった七月、ユグドラシル学園ではダンジョンという空間が歪んでできた所に潜る授業が一年生の間で始まる。

 ダンジョンとは所謂異界と呼ばれるもので、形は様々ある。

 地下にあるもの、森にあるもの、山にあるもの、塔の様な姿のもの、海にもある。

 世界の中央にある島に存在するダンジョンは、世界に散らばるダンジョンの内最古と呼ばれるほどの歴史を持つ。

 ダンジョンの入り口からは異界に繋がっており、地下にあるダンジョンなのに空があったり、塔の形のダンジョンなのに洞窟の中のようだったりして現実の常識が通じない。

 また、各ダンジョン毎に独特な植動物や魔物が存在しており、各地で特別な資源として使われている。

 ダンジョン内で魔物が氾濫を起こす場合はあるが外には一切出て来ない。

 そのため安心してダンジョンの近くに街を築く事ができる。

 ユグドラシル学園もダンジョンの回りに作られており、授業に使っている。

 そのダンジョンは初心者から熟練者まで需要のあるダンジョンで、各地からユグドラシル学園に探索しに冒険者がやって来る。

 なので、ユグドラシル学園には冒険者ギルド支部があり、ダンジョン内授業の前に登録が義務付けられている。


「私は冒険者ギルドに登録してなかったからFランクからなのよね。ミズハ達は冒険者ギルドに登録しているの?」


 ナノハの問いにミズハはちょっと目線を彷徨わせて考えた。


(お父さんとお母さんはランクの事は黙っていた方が良いって言っていたけどナノハ達なら良いわよね)


「私はAランクよ」


「Aランク!? 凄いじゃない」


「動けるのは知っていたが、流石だな」


「凄いですね」


 アラン達三者の賛辞にミズハは照れながら、しかしとても嬉しかった。

 アラン達三人には驚きはあるものの、ほぼ純粋な称賛だった。そこに妬みや嫉みはなかった。


「アラン達は?」


「俺達はCランクだ」


 ナノハの問いに答えたアランの口調はどこか歯切れが悪かった。

 アランは勿論、レイニードも良い所の出で、護衛が着くのがデフォルトだ。

 獣王国レオンで勉強の合間に冒険者登録したが、護衛が着いたパーティーでの活動。どうしても自分の力だ! と誇示する事は出来なかった。


「はー、三人共ランクが高いわね。これじゃあパーティーでの活動になったら足を引っぱっちゃうわ。ランク上げようにも、まだ授業以外でダンジョン立ち入り禁止だし」


 ユグドラシル学園卒業時の平均ランクはE~Cランク。

 既に卒業生レベルに達しているアランとレイニードやずば抜けているミズハ。

 パーティーを組む時の基本ランクは参加者のランクの合計マイナス1ランク。Cランク同士で組んだらDランクからの開始になる。

 それを考えてナノハは憂鬱になった。未だFランクのナノハではどうしても足を引っ張ってしまうからだ。

 ミズハ達はパーティーでダンジョンに潜れるようになったら一緒に潜ろうと約束していた。


「確かにダンジョンには潜れないけど依頼ならできるんじゃない」


「え?」


 ミズハの言葉に顔を俯けていたナノハは、ミズハの方を振り返った。


「世界樹が近くにあるせいか薬草が良く育っているわ。その薬草を納品すれば良いのではない?」


「それよ! 盲点だったわ。薬草の納品は常に出ている常設依頼。それならいけるわ!」


 ミズハの案にナノハは興奮したように席を発ち冒険者ギルド支部に向かって駆けて行った。そして、そんなナノハに続いて幾人もの生徒が席を発った。

 現在は午前の授業が終わった昼休み。そして場所は食堂。

 つまり、ナノハ以外にもFランクだった者やその関係者が駆けて行ったのだ。


 その日最後のホームルームでアンセイは注意事項を述べた。


「ギルドのランク上げの方法に気付いた様だな。だが、学園で育てている花壇には踏み込むなよ。踏み込めば当然罰が待っているからな」


 アンセイはそう言うと教室を出て行く。

 帰りの支度を終えたミズハ達は、昼の間に昇級試験の申し込みをしたナノハと共に冒険者ギルド支部に向かった。

 ユグドラシル学園の冒険者ギルド支部はそれなりに大きな建物で、中も賑わっている。

 ユグドラシル学園の関係者や外から来た冒険者達。

 ナノハは試験用の番号札を受付で渡すと試験室へ向かって行った。


 ナノハが試験を受けている間、ミズハは冒険者ギルドにあるダンジョンの情報を集めた。

 ユグドラシル学園にあるダンジョンは最初初心者様の簡単な地形で、それ程注意点はない。しかし、ない訳でもない。

 そんな記録を読んでいると嬉しそうな笑顔を見せるナノハが試験室から出て来た。


「ミズハ! 合格したわよ!」


「おめでとう」


 嬉しそうにミズハに抱きついたナノハは実に嬉しそうだ。


「おい! ナノハ離れろ!」


 ナノハがミズハに抱きついたのを見てアランは急いで割って入った。


「ちょっとアラン私に言う第一声がそれ!?」


「他に何を言えって言うんだ! ミズハから離・れ・ろ!」


 フーと威嚇しつつナノハをミズハから剥がそうとするアランにナノハはフフンと鼻で笑った。


「私とミズハの仲だもの別に良いわよね。ね、ミズハ」


「え、うん。別に良いけど」


「ぐぬぬぬ」


 ナノハの態度に歯ぎしりするアラン。完全に遊ばれていた。


「ナノハおめでとうございます。ほらアランも」


「む、ナノハおめでとう。いいからミズハから離れろ」


 レイニードに促されて祝福するアランだったが、褒めている様には見えなかった。

 それを見てレイニードは溜息を吐いた。


「しょうがないわね、離れてあげる。あ、ランクだけどなるべく上げておくから。Cランク以上の試験は厳しいっていうから助言してね」


「ええ、私で良ければ幾らでも助言するわ」


 やっとミズハから離れたナノハはミズハに話かけた。

 そんな様子を見てアランはホッとしたり嫉妬したりしていた。


「ナノハの昇級祝いに食堂で何か飲んでいきませんか?」


「良いわね! 行きましょう」


 レイニードの案に真っ先に乗ったナノハにつられてミズハとアランも食堂に向かい出す。

 食堂に着いたミズハ達は冷たい飲み物を頼み、喉を潤した。


 その頃。

 生徒指導教室では複数の一年生が花壇に無断で侵入したとして反省文を書かされていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ