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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
25/69

選択授業



「アンディー、いる」


【なんだい、ミズハ】


 ミズハに呼ばれてアンディーが姿を現す。


「ナノハ達にアンディーの事を話したいのだけど良いかしら?」


【ナノハとアラン、レイニードにって事かな? ミズハに任せるよ】


「ありがとう」




 今日から三日間選択授業の試用期間が始まる。

 新一年生は自分の気になる選択授業を選び、その授業をお試しで受ける事ができるのだ。

 十教科が受けられる数だ。少なくても多くても行けない。一年の基本となる必修科目は七教科、その為選べるのは三教科になる。

 必修科目は世界史、地理、現代社会、数学、体育〈保健〉、共通文学、魔法学の七教科だ。そして、選択授業は学生共通でエルフ語、ドワーフ語、獣人語、古代語、古典、音楽、美術、工芸、家庭科、国別史、武器学、動物学、植物学、精霊学、魔物学、古代地理、魔法陣、薬学、錬金術の十九科目になる。

 必修科目の世界史はその名の通りこの世界の歴史を習い、地理は各地の地形を学ぶ。

 現代社会は現代の社会の法や規則、社会情勢を学び、数学は名の通り数式に関する事を学ぶ。

 体育〈保健〉は実技と講習に分かれ、身体の動かし方や身体に着いて学び、共通文学は世界に散る文学を学ぶ。

 そして魔法学は魔法についての知識と実技を学ぶ学科だ。

 選択授業のエルフ語、ドワーフ語、獣人語はそれぞれの語意を学び、古代語は太古の昔にあった語意を学ぶ。

 古典は昔の文学を学ぶ科目で、音楽は楽器を鳴らしたり、音楽に関する歴史など音楽全般を学ぶ。

 美術、工芸はそれぞれの芸術作品を作りつつ、音楽と同じでそれぞれの歴史を学んだりする。

 家庭科は料理や裁縫など家庭で必要な技術を習う科目で、国別史は国別の歴史を掘り起こして深く学ぶ科目だ。

 武器学は選択授業唯一の身体を動かす科目だ。武器の扱いや武器の歴史使用方法なども学び騎士や兵士を目指す生徒の多くが選ぶ科目になっている。

 動物学、植物学、精霊学、魔物学はそれぞれの生き物や生態系、弱点などを学ぶ科目で古代地理は太古の昔から現代までの地形の移り変わりを学ぶ。

 魔法陣は魔法を発動できる幾何学模様について学び薬学は薬の知識や調薬を学ぶ。

 最後に錬金術。錬金術は石を金属に変える物ではなく魔力の籠った道具の作り方を学ぶ科目だ。所謂魔道具の知識と作り方を学ぶ科目になる。

 基本的に何年も習熟が必要な必修科目以外一年で終わる様にプログラムされている。


 ミズハはナノハと共に選択授業のお試し授業を受けていた。

 アランは一緒に過ごそうとしていたが、選択しようとしている教科が違ったため別行動になったのだ。


「今ので動物学、植物学、精霊学、魔物学を周り終わったけど、次は如何する?」


 ナノハの言葉にミズハはうーんと考え込んだ。


「そうね、魔法陣、薬学、錬金術を回りたいわ」


「あ、私もその三つは気になってたんだ」


 ミズハが提案するとナノハも気になっていたのかすぐさま賛同し、その教科の授業をしている教室に向かった。

 そうして二人は近くにある魔法陣の授業に出た後、薬学、錬金術の授業に出席した。

 その日は錬金術の授業が終わった所で学園は閉園時間を迎え、ミズハとナノハは女子寮へと向かって歩き出した。


「明日は語学系を回りたいんだけど良いかな?」


「良いわよ」


 語学系の教科を回りたいと言うナノハに、ナノハが語学を学びたいのを知っているミズハは頷いた。


 その翌日はナノハの宣言通り語学系の学科、ドワーフ語、獣人語、古代語を回った所でアランとレイニードに出会った。

 アランはミズハを見つけると尻尾が嬉しそうに動いている。


「ミズハも語学を見に来たのか? 良かったら一緒に回らないか」


「ごめんなさい、語学系は今回り終わった所なの」


「そ、そうか……」


 ショボーンと落ち込むアランにミズハは申し訳なさそうに見つめた。

 語学系の区画に入ろうとしていたアランとそこから出ようとしていたミズハ、少し考えれば行き違いに気付きそうなものであるが、アランはこの時気付く事ができなかった。


「また、後で会えば良いじゃない」


「はっ、そ、そうだな」


 ナノハの意見に項垂れていたアランは即座に復活した。


「ミズハ、また後で会おう」


「え、ええ。そうね」


 アランの押しにミズハは躊躇いがちに答えた。

 それもそのはずで、アランはミズハの手を握りしめているのだ。ミズハは少し引き気味に答えるしかなかった。


 再度二手に分かれた四人はそれぞれの選びたい選択授業を受け、再び集合した。


「俺とレイニードは武器学、魔物学、国別史を取る事に決めた。ミズハ達はどうする?」


「アランがミズハ(・・・)()って言った。ミズハだけじゃなくミズハ達……」


「ナノハ何が言いたい?」


 アランの問いにナノハは驚いて声を上げた。それはナノハからしてみれば驚く事だった。

 アランはミズハが居ればミズハの事しか見ていないし、ミズハが居なくてもミズハの事を常に考えているような状況なのだ。

 それが、ミズハと居てナノハの事を匂わせる発言をした事はアランに取って大いに進歩と言えた。

 そんなナノハにアランは黒い笑みを浮かべ、異様に威圧していた。


「アランいい加減にして下さい。それでミズハとナノハは選択授業の内何を選ぶのですか?」


 レイニードが窘めるとアランは溜息を吐きミズハを見つめる。

 ナノハはというとミズハの服を握りしめていた。


「私達は植物学、精霊学、魔法陣を選んだわ。最初は知り合いと一緒に居たいもの」


「そうか……。一つも被らないのか」


 ミズハの答えにアランは耳や尻尾をシュンと垂らし落ち込んだ。

 この様を見たナノハとレイニードは何故ミズハがアランの好意に気付かないのか不思議に思った。


「皆に話したい事があるのだけど、今から時間空いている?」


「ミズハが俺に話したい事? 何だ? 時間なら大丈夫だぞ」


「私もだいじょーぶよ」


「私も大丈夫ですよ」


 ミズハの問いにアランが真っ先に答え、ナノハとレイニードが続いた。


「余り周りに知られたくないから教室を一室借りるね」


 ミズハはそう言うと三人を連れて職員室に向かった。

 ユグドラシル学園では、生徒の自主性を尊重しているので手続きさえ踏めば部屋を借りる事ができる。

 ミズハは小さな会議室を借りると、そこに三人を案内した。


「私と契約している精霊を紹介しようと思って。皆には内緒ね。アンディー出て来てくれる?」


【やあ、皆。初めまして、闇の上位精霊だよ】


「「「!? 闇の上位精霊!?」」」


 ミズハの呼び声にアンディーが現れ挨拶すると、ナノハ達三人は驚きの声を露わにする。


「上位精霊……。私、上位精霊なんて始めて見た! 知っているかもしれないけどナノハ・リシュティーユよ」


「俺はアラン・クルトだ。宜しくな闇の精霊」


「私はレイニード・グルブランスです。宜しくお願いします」


 精霊を神聖視するエルフのナノハは感動したと言わんばかりにアンディーを見つめ、アランとレイニードは驚きつつも自己紹介を終了させた。

 しかし、アンディーはアランを少し不機嫌そうに見つめた。


【ふーんクルト(・・・)家ねー。僕は世界を色々回ったから獣王国レオンに行った事があるのだけど、クルト家は猫の獣人の家系じゃなかったかな】


 この言葉にアランとレイニードはビクリと耳と尻尾を動かした。


「ああ、今のクルト家に獅子の獣人は俺だけだ。クルト家は王家の血も引いている、おかしくないだろう」


【まぁ、良いけど。……ミズハに害を与えたら呪い殺すよ】


 硬くなりながら答えたアランにアンディーはどうでも良い様な答え方をしたが、アランに近付くとアランにだけ聞こえるドスの効いた声で脅しかけた。

 獣王国レオンの王族は獅子の獣人だ。勿論、貴族や平民にも獅子の獣人は居る。

 しかし、クルト家が猫の獣人の家系だと知るアンディーは自己紹介の時のアランの嘘を確かに感じ取っていた。

 そこから来る牽制だ。けしてミズハにアピールする事に対しての牽制ではない。アンディーとミズハの間に恋愛感情はないのだ。あるとすれば親子の親愛だろう。


「あら? アンディーが私意外とそこまで話をするのは珍しいわね。友達ができて良かったわね」


 ミズハの的外れな感想にアンディーは嬉しそうに、しかし笑っていない目で、アランは引きつった笑みで返した。


「えー、アランずるい。闇の精霊さん私とも話しましょうよ」


 アンディーと話すアランにナノハがブーイングを上げれば、アンディーは神秘的な笑みを浮かべた。


【ごめんね。疲れてしまったから、また今度ね】


「あら、ごめんなさい。また今度お話しましょうね!」


【うん。じゃあね】


 精霊が肉体的に疲れるという事はない。しかし、精神的疲労はあるのでまったくの嘘という訳でもない。

 嘘と真の間をゆうゆう泳ぐアンディーは流石精霊王の補佐を務めただけはあったが、この場でその事を知るのはミズハを含めて存在しなかった。


 アンディーが姿を消すとナノハは感無量といった感じに息を吐き、アランは長息を漏らした。

 それを見ていたレイニードはそっとアランを伺ったのだった。






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