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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
21/69

競技祭前日


 競技際の練習が本格化して二週間、月は移り五月になっていた。

 混合リレーの練習ではアランがミズハの後に走る事になり、練習中のテンションも高い。

 それと引き換えナノハのテンションは地を這っていた。


「うう、筋肉痛……」


「ナノハ大丈夫? 明日が本番だよ」


「ああ、明日なんて来なければいいのに!」


 ナノハはこの所の練習ですっかり筋肉痛になっていた。


「大浴場で身体解しなよ」


「そうする」


 学園の授業が終わり学生寮に戻るさなかの会話だ。

 学生寮に辿り着くとミズハとナノハは荷物を置き、お風呂の準備をして女子寮の大浴場に向かった。


「う~。腕と足が痛い」


「体洗って早くお風呂に入りましょう」


 動きの遅いナノハを促しミズハは自分の身体を洗いだした。

 魔道具のシャワーで石鹸の泡を流すと、ミズハは浴槽にゆっくり入って行った。そんなミズハから遅れる事少々、ナノハもボディーソープの泡を流し浴槽に浸かった。


「ふ~、気持い~」


「ふふふ。ナノハお年寄り見たい」


「なにおー」


 お風呂の中に入ったナノハの何処かお年寄りめいた掛け声に、ミズハが笑うとナノハはお湯を掬いミズハにかけた。


「ごめんごめん。周りの人にかかるから止めて」


 なおもお湯をかけて来るナノハにミズハは苦笑しながら言った。


「ハ~、それにしてもミズハはスタイルが良くていいな」


「ナノハだってスレンダーでスタイル良いじゃない」


 ナノハは羨ましげにミズハの身体を見回した。

 女性同士だからいいが、もし男性がしたら騎士に連絡しなければいけない案件だ。


「違うの! 私が言いたいのは。……こう、胸のサイズの事なの」


 ナノハは段々小さくなる声で言った。


「あー、エルフの女性って胸、控え目だもんね」


 ミズハはアリアナや冒険者ギルドで会ったエルフの女性の事を思いだして、そっとナノハから目を反らしながらポツリと言った。

 エルフという種族は身長が高く細身でスラリとしたスレンダーな見た目の者が多い。それは女性にも言え、エルフの女性は胸がとても控え目なのだ。変わりと言ってはなんだが顔は人形の様に整った顔をしている。人によっては冷たく見えると言われるが。


「うわーん。小さいってはっきり言えば良いのよ~!」


 ナノハは言うだけ言うとバシャリと湯船に顔を浸けた。




「分かるわ! その気持ち!」


「「わあ!」」


 突如割って入って来たその声にミズハとナノハは悲鳴を上げた。

 ミズハの方は近付いてきているのは気付いたが、いきなり声をかけられた事に着いて。ナノハは湯船に顔を着けていたため丸っきり気付かず驚いた為だ。


 ミズハとナノハの前に二人の女性がやって来た。

 その二人の女性はナノハの肩に手を置くとウンウンと顔を上下させ、そっナノハの隣に座った。

 見た目からしてエルフの女性の様だ。


「分かるわその気持ち! 私達も故郷から出てきてこの学園に入り、胸の格差に驚愕したのよ!」


「そうよ! エルフの国では気にしなかったけれど、何と言う理不尽! この学園に入ったエルフの女は皆経験したの。貴女だけではないわ、私達も去年先輩に慰められたわ」


「そうだったのですね! 辛い思いをしたのは私だけでは無かったのね!」


 やって来た二人のエルフは交互にナノハを慰めた。その言葉にナノハはハシっと二人のエルフに抱きついた。それを二人のエルフはガシっと抱き返した。


(何、このコント……)


 それを見ていたミズハがそう思っても仕方がなかった。

 その様を見る一年生はミズハと同じ様な顔をしているし、上級生達はまた始まったとばかりに無視を決め込んでいる。


「八月にある武芸大会では魔法も解禁。その時に今までの恨みを返せばいいのよ!」


 先輩エルフは武芸大会、素手、様々な武器、魔法、それらが鬩ぎ合う大会を指し言葉を募らせると、ナノハはホロリと零れた涙を拭いミズハに指を指し示した。


「そうですよね、魔法で水攻めにしてあげます。見てなさいミズハ!」


「ナノハ落ち着いて湯船に浸かりなさい。後、人を指差さない」


「くっ、はい……」


 一瞬何かを言い返そうとしたナノハだったが、ミズハの冷やかな瞳を見て我に帰るとゆっくりと湯船に浸かった。

 上級生のエルフ二人はすっきりしたという顔をして、ナノハから離れて行った。


「ナノハ、此処は共同浴場なのだから周りの事も考えて」


「はい。ごもっともです」


 ミズハの窘める言葉に頭の冷えたナノハはしょんぼりと俯いた。


「……身体揉まなくて良いの?」


 ミズハは小さく溜息を吐くとナノハと最初に話していた話に戻した。


「あ! そうだった。それで浴場に来たんだった」


 ナノハはミズハの話でやりたかった事を思いだすと、腕を伸ばし揉み始めた。


「ナノハ足貸して。揉んであげる」


「え? ありがとう」


 ナノハが足をミズハの方に向けるとミズハは足を軽く持ち上げ、ナノハの足を揉みだした。

 暫く二人の間に無言が続き周りの声が良く聞こえた。


「ミズハ。ありがとう」


 ナノハは少し照れつつもミズハに礼を言い、足をミズハの元からずらすと大きく伸びをした。


「あー! 明日なんか来なければ良いのに」


 ナノハはそう言うと湯船に顔を着けブクブクと泡を吹き出した。


「明日、やるだけやってみようよ」


「ぶー。ミズハは運動できるからそんな事が言えるんだ」


 ミズハは何とかナノハの事を宥めようとしたが、ナノハの機嫌は治らなかった。

 だが、ミズハが何を言おうか悩んでいるとナノハは僅かに笑うと少し吹っ切れた様な顔をした。


「そうだよね。やるだけやってみるよ」


 ミズハはナノハのその言葉に少し目を丸くすると嬉しそうに笑った。


「ええ、明日は頑張りましょう。そろそろ上がりましょうか」


「うん。そうだね」


 ミズハが湯船から立ち上がるとナノハもそれに続いた。






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