競技祭に向けて
更新が遅れてすみません
翌日からミズハはユグドラシル学園に行くたびアランに接触されていた。
何度も接触されている内にミズハもアランが悪い人間ではない事に気づいていた。しかし、余りにグイグイ来るためミズハは距離を取りかねていた。
来月の初めには競技際があり、1年A組でもどの競技に誰を出すか決めていた。
種目は徒競争100m、200m、500mの三種。落穂拾い、借り物競争、障害物走100m、200mの二種。二人三脚、リレー1000m、混合リレー1000m、玉入れ、綱引き、大玉転がしの十三種目。
赤・白・黄・青の四組が競技際の組み分けで、1年A組の組は赤組だ。一学年十二クラスある為A・F・L組が赤組になる。二年、三年はクラスが○○科毎に分かれるため、一年とは違った分け方がされている。
「一人二競技には絶対に出場してもらうからな」
教員であるアンセイの言葉に何人からブーイングが上がった。当然ながら運動が苦手な者達だ。そのブーイングの中にナノハの声が混ざっていた。
「そう騒ぐな。大玉転がしは全員参加の団体競技で一種目は決まっている。後の一種目を決めればいい。後、綱引きは男子競技、玉入れは女子競技だ。徒競争は男女別になっている」
「ハイハーイ、何で綱引きと玉入れは男女別になってるんですか?」
一人の男子生徒が手を上げアンセイに疑問を投げかけた。
「ああ、それはな。何年か前に綱引きに出た女子生徒が相手綱を引く勢いで掌の皮を剥いちまったからだ。玉入れは男子競技作るなら女子競技も必要だろうと作られた」
(うわー、痛そう)
アンセイの言葉を聞きミズハはそう思ったが、クラスの何人かは同じ感想を思ったのか顔を顰めていた。
「先生、一人が最大出られる競技は何種目ですか?」
アランの言葉に何人かの生徒が興奮気にアンセイを見つめた。先程ブーイングを上げた生徒と違い運動が好きな生徒たちだ。
「特に制限は無いぞ。ただし、一種目に出られる生徒数は決まっているからな」
「ミズハ一緒に混合リレーに出ないか?」
「ゴホッ」
アンセイの答えを聞いてアランは、別に席の近い訳でもないミズハに声をかけて来た。
それに息を飲み込み損ねむせるミズハ。それをニヤニヤしながる見守る生徒たち。
「ゴホン、アランそう言うのは後にしろ。まあ、直ぐに決まるものじゃないからな。今日の最後のホームルームで決めるからそれまでに話し合っておけよ」
アンセイはそう言うと教室を出て行った。
それと入れ替わる様にこの日の一限目の教師が教室に入って来る。
その日の昼休憩の時間ミズハはナノハと一緒に学食でご飯を食べていた。
「はー、憂鬱。私、運動苦手なのよね。ミズハは?」
「私は得意かな」
「えー、良いな」
二人がご飯を食べつつ喋っていると後ろから二人の男子生徒がやって来た。
「ミズハ! とナノハ此処座るぞ」
「失礼します」
ミズハとナノハの座っている席の隣に座ったのはアランとレイニードの二人だ。
「アラン、私はついでなの?」
「悪い悪い、ミズハばかり目が行ってしまってな」
ナノハの不貞腐れた様なからかいたそうな微妙な表情にアランはカラカラと笑って答えた。レイニードはアランを見て微笑を浮かべているままだ。
「ナノハすみませんね」
「レイニードが謝ってもね」
レイニードの謝罪にナノハは肩を竦めて答えた。
四人になった食卓は途端に騒がしくなり、四人は食事を開始した。
「なあミズハ、混合リレーに一緒に出ないか?」
「う、良いよ」
ミズハが気を抜いた所にすかさずアランは話かけた。
内容は朝のホームルームの時に話した内容だ。
ミズハは少し空気を飲んでしまい声が詰まる。
「ミズハは他に何の種目に出るつもりなんだ?」
「ちょっとアラン、私には聞かないの?」
「ナノハは玉入れだろ」
「な、何で分かったのよ」
「お前、運動苦手そうだったからな」
「むー」
キラキラした目でミズハに訪ねるアランにナノハはニヤニヤしながら訪ねた。それにアランはニヤリと人の悪い笑みを浮かべると、笑いながらナノハに答えた。
「で、ミズハは何の競技に出るんだ?」
「徒競争の100m走に出ようかと思っている」
「へー、俺も100m走に出ようと思っていたんだ。一緒だな」
アランのミズハしか眼中にないという行動は、少しでもアランとミズハの会話を見ていた者は理解する。それ程アランはミズハ以外眼中にないのだ。ただしミズハだけが気付いていない。
「ミズハとなら二人三脚も出たいと思ってるぞ」
「二人三脚はちょっと」
ミズハが断るとアランは獣耳をペタリと頭に着けた。
「ミズハ他に出たい競技はないか?」
アランは直ぐに立て直すとそう聞いた。
「うーん。特にないかな」
「そうか……」
アランはまた耳をへたらせた。
「それにしても貴方達は良いわよね。運動できて」
「ナノハも練習すれば良いだろう」
「練習しても上手くならないんですー」
ナノハとアランの言い合いにミズハはクスリと笑った。その姿にアランは直ぐにミズハを見つめ直した。
「ミズハは苦手な事はないのか?」
「特に苦手って物は……、あ!」
「何々、ミズハも苦手な事あるの?」
考えた後に自分の苦手な物を思いだしたミズハは直ぐに取り繕おうとしたが、ナノハが勢いついて聞いて来たため少し顔を赤くした。
「……。水泳が苦手なの」
「え、運動へいきそうなのに?」
「うん……」
「いやいや、誰にでも苦手なものはあるさ。その方が人間味があって良いだろう」
「そ、そうかな」
「そうだぜ。な、レイニード」
水泳が苦手というミズハに驚くナノハ。アランは苦手な物があって人間味があると言った後に最後の落ちをレイニードに任せた。
「ちょ、アラン。……ゴホン、確かに苦手なものがあった方が人間味がありますよ」
無難な返答をしたレイニードにミズハはホッと息を吐いた。
ミズハが息を吐きだした時予鈴が鳴り、四人は急いで教室に戻った。
「よし、出たい競技は決めたか? じゃあ、競技名を言うから手を上げろ」
アンセイ教諭の合図で生徒達が手を上げて行く。
「よしこれで良いな。各自自分の出る競技を覚えておくように。では解散」
アンセイのその言葉に生徒達は帰り支度を開始した。その中でアランは手早く帰り支度を整えるとミズハの元にやって来た。
「ミズハ! とナノハも一緒に帰ろうぜ」
ミズハもナノハも何時もの事なのでアランとレイニードがやって来ると連れ立って歩き出した。
「明日から競技際の練習だな。ミズハ頑張ろうな!」
「ええ、頑張りましょうね」
アランが押してもミズハは暖簾の様に効かない。
ミズハからしてみれば獣人が自分を恋愛対象にする事があるとは思っていないのだ。ミズハに取って自分は獣人の中の異端であるし、エルフの血が濃く獣人同士の番を感じる力がないためだ。
獣人であれば番の事は一目見れば分かるが、ミズハには分からない。
獣人に取って番とは一生に一人しかいない最良の伴侶の事だ。出会えれば番の事を一番に優先する。まさに今のアランの様に番しか見えなくなる事もある。これを獣性と呼ぶ。
エルフは寿命が長い分子孫を残すという概念が少ない。そのエルフの血を濃く受け継いだミズハは余り恋愛という物に興味がなかった。




