アンディー
ミズハとアンディーがホノエ村から脱出して一週間、アンディーが木の実を取りミズハが〈精霊魔法〉で子動物を狩る事でホノエ村にいた時よりミズハは少しふっくらしていた。
「調味料が欲しい……」
【南下して街か何か探す?】
「うーん……」
獲物を〈精霊魔法〉で焼いて食べられるとはいえ、獣臭い肉は余り美味しいとは言えなかった。そんなこんなで調味料を欲したミズハに、アンディーは南に人里を探しに行くか聞いた。が、ミズハの反応は鈍い。人里に出てもホノエ村の様にまた虐められるかと思うと足が竦む。
そんな時洞窟の外から人の声が聞こえた。
「――は片付けた。――に帰ろうぜ」
ガハハハと聞こえる笑い声とかすかに聞こえる言葉にミズハは固まった。
まるで盗賊が一仕事終えてこれから塒に帰ろうかと言っている様だ。
「おいおい、俺の引退――」
どうやら今回で足を洗う者がいるようだ。その声は先程の声とは別の人間の物だった。
声は段々と近付いて来た。
「ん? おい、人がいるぞ」
「ひっ」
【大丈夫、隠蔽してあるよ】
声が近付き、その中の一人がミズハの方を向いた。
これに驚いたのはアンディーだった。アンディーは声が聞こえて来た時からミズハを自身の能力で隠蔽していたのだ。
「フム、こんな所に人が居るのかね。動物か魔物ではないのか」
此処に来て新たな声が聞こえる。最低でも三人居るようだ。
「エスターク何処だ」
「あそこだ。あの木の陰、洞窟の所だ。……に居るはずなんだがな……」
「フム、誰も居ない様だがな」
赤毛の髪に白髪が混ざり出した人間の男が、大剣を掲げ洞窟の方に向き直る。体は大きくガッチリとしている。
ミズハの居る場所を言い当てた銀の狼耳の青年は銀の髪を掻きつつ首を傾げた。だが纏う気配は刺々しい。
褐色の髪に褐色の髭を持つガッチリとした背の低いドワーフが、髭を揉みつつ大きなハンマーを持って呟いた。
「ッ……」
【ミズハ、声を出しちゃだめだよ】
(コクリ)
洞窟の陰に隠れ闇の精霊の力を発揮して闇を強め、影を作る事でアンディーはミズハを隠す。
三人の男たちは洞窟を揃って怪訝そうに見つめた。
「……居ないな。俺も焼きが回ったか」
「いいえ、その洞窟には確かに誰か居ます」
鈴を転がす様な新たな声が聞こえた。その女性が持つ色彩はミズハに非常に似ていた。耳が大きく尖りエルフである事が伺える。
これに身を竦ませたのはミズハだ。
「そこにいる精霊さん私の前に姿を現せてはくれませんか? 私は貴方に危害を加えるつもりはありません」
エルフの女性は、はっきりとアンディーを視認し話しかけて来る。
【ミズハは動かないでね。……やあ、君たちは何の用でこんな所に居るんだい】
アンディーはミズハに動かない様に注意すると、四人組の前に姿を現せた。
「闇の上位精霊でしたか。私達は此処から北で魔物の氾濫が起こり、それを鎮静して来ました。上位精霊たる貴方こそこんな所で何をしているのですか?」
精霊には下位精霊、中位精霊、上位精霊と三階級存在しているが、人型になれるのは上位精霊だけだ。
アンディーのこんな所という言葉に合わせ、エルフの女性はこんな所という部分に力を込めた。
北での魔物の氾濫。恐らくミズハとアンディーが逃げて来た魔物の氾濫の事だろう。だが、こんなに早く鎮静するものだろうか。
【ああ、風の精霊達が騒いでいたね。だけどこんなに直ぐに鎮静するものなのかな?】
アンディーはエルフの女性の質問に答えぬまま疑問を投げかける。
「ふふふ。私達はこれでも腕利きの冒険者なのですよ」
アンディーの疑問文に疑問文を投げかける問いにも、エルフの女性は気を悪くする事もなく答えた。そもそも精霊とは気まぐれな者なのだ。〈精霊魔法〉を血系魔法に持つエルフはその事を十二分に理解している。
【へー、君たちは腕利きの冒険者なんだね。僕はここら辺をウロウロしているだけだよ。】
「そうですか。でしたら私達があの洞窟で休んでも良いでしょうか?」
【駄目だよ!】
アンディーはこの周辺をブラブラしている、という風に装って答えるとエルフの女性は洞窟で休んで良いか聞いて来た。それにアンディーは即座に答えた。
【あの洞窟には僕の宝物を隠してあるんだ。だから洞窟に近付いては駄目だ】
必至で洞窟を隠すアンディー、しかしそれに冒険者達は疑問が増すばかりだ。
「闇の上位精霊の宝物か。取らないから一目見せてくれないか?」
【駄目だ!】
赤毛の中年の男性がアンディーの態度に疑問を感じ、目線でエルフの女性にサインを送るとアンディーの宝物を見せてくれといった。
アンディーは叫んで止めるが、既には涙目だった。
精霊は嘘をつく事ができないのだ。その為ここまで精霊が守る者とはいったい何者なのか四人は気になった。狼の獣人が居ると言ったので、人が居る事は分かっているのだ。
「闇の精霊さん、貴方が宝物と言う人物に危害は加えません。どうか私達にその人と会わせてはくれませんか?」
冒険者達の言葉はまるで飴と鞭だった。赤毛の男が鞭ならばエルフの女性は飴といった所だ。
【君達名前は? もし僕の宝物に危害を加えたら呪い殺してやるから】
冒険者達の巧みな言葉にアンディーは折れた。だが、今までにないほどアンディーの周りは闇が蠢いていた。気の弱い者であれば気絶してもおかしくないほどだった。
「私の名前はアリアナ・シュワラーク。赤毛の人間がゲオルク・ダンマルス、銀髪の獣人がエスターク・ミドレイン、そこのドワーフがダグ・ルドリスです」
「儂の紹介がおざなりだな」
【……ミズハ出ておいで】
「スルーか……」
アリアナの紹介でゲオルク、エスターク、ダグがアンディーに頭を下げる。ただダグの紹介だけ少々おざなりだった。
そしてダグの突っ込みはスルーされたのだった。
アンディーぐいぐいくるな。