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狐少女の日常  作者: 樹 泉
二章 ユグドラシル学園一年生編
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ユグドラシル学園


 ミズハの十五歳の誕生日まで三カ月を切った年末のある日、ミズハは朝食の席でアリアナの言葉を聞いていた。


「ミズハも来年は十五歳、学校に通う歳ね。通う学校はユグドラシル学園にしてはいかが?」


「え? ユグドラシル学園? 私はグラールの学校で良いと思うけど」


 ユグドラシル学園への入学を進めるアリアナに、近場の学校にする心算だったミズハは驚きの声を上げる。


「ユグドラシル学園は様々なカリキュラムがあるからミズハを安心して託せるわ。


「でもユグドラシル学園だとお金がかかってしまわない? ……それに皆と中々会えなくなってしまうし」


「ふふふ、お金の心配なんてしないの。お金ならいっぱい有しているのをミズハも知っているでしょう? 確かに中々会えなくなるけれど大きな休みには会えるわ」


 ミズハの小声で言った後半部分を確り聞いていたアリアナは微笑ましく思いながらミズハを諭した。

 時に内に引き籠りがちだったミズハを少しずつ外に連れ出し慣らし、信頼関係を築いたアリアナ達であったが、ミズハに友を作らせようと思っていた。

 グラールの地で暮らすにはアリアナ、ゲオルク、エスターク、ダグの名は大きすぎる。もっとよその地で力を試した方がミズハの為になると踏んだのだ。

 この三年でミズハの冒険者ギルドランクはAランクにまで上っている。三年でAランクになるのは、上から数えた方が早い程偉業なのだ。周りから見ても認められているが、本人だけが中々自分の実力を認めない。

 ミズハに取って実力がある! と言えるのはアリアナ達レベルなのだ。

 アリアナ達からしてみれば、自分の実力を認められれば直ぐにでもSランクになれる力をミズハは持っている。それがアリアナ達には歯痒いのだ。

 結果、出した結論は少し距離を置くというものだった。


「金の事が心配なら奨学金を貰えば良い。Aランク冒険者として冒険者ギルドからも推薦しよう」


「そうだな、あそこの奨学金制度は人数制限がない。その代わり奨学金が貰えるかはかなり厳選される」


 ゲオルクが冒険者ギルドから推薦しようと言えば、ダグもユグドラシル学園について考察を述べた。

 ユグドラシル学園は世界各国が合同で運営する学園なので資金は豊富にある。

 しかし奨学金が払われるには幾多の条件をクリアしなければならないのだ。

 学園故の知識は勿論、魔物がいる為武力も必要。貧民階級であればある程度の審査基準で貰えるが、ミズハの場合は養父母だけでなく本人も潤沢な資金がある。審査は厳しいものになるだろう。


「ユグドラシル学園受けてみる。奨学金は貰えるか分からないけど、やるだけやってみる」


 この後ミズハはアリアナからユグドラシル学園を目指した試験勉強をして、見事試験に合格、奨学金も得る事ができた。

 一方ミズハの試験の感想は、アリアナのテストの方が難しかった。だが。


 こうしてミズハは四月、世界樹の花吹雪きが舞う中、世界立ユグドラシル学園に入学を果たした。


 入学前に寮に荷物を置きに向かったミズハを迎えたのは無人の部屋。

 人見知りのきらいのあるミズハの為にアリアナ達が奨学金とは別に部屋を用意したのだ。

 奨学金だけで通うとなれば、複数人部屋になる。

 何だかんだと言いつつアリアナ達は親馬鹿なのだ。


 ユグドラシル学園には制服はなく、支給されるのはタイとリボンのみ。これには訳があり、国や宗教によって着られる服が違うからだ。

 タイとリボンには校章とそれぞれの学年を示す青・黄・赤の三色に染められている。ミズハの学年は青になる。


 荷物を部屋に移したミズハは服を着替え、リボンを襟元で結ぶ。

 筆記用具を鞄に入れ入学式を行う講堂へ急いだ。

 ミズハがギリギリにユグドラシル学園にやって来たのは、アリアナ達と冒険者ギルドの依頼を受けていたからだ。暫く会えないからと、あれもこれもと受けた結果ギリギリになってしまったのだ。


 入学式ギリギリで講堂に潜りこんだミズハは後ろの方の席から入学式を眺めていた。

 新入生宣誓に登場したのは、何処かミズハと似通った見た目のエルフの少女だった。

 ミズハは〈人化の術〉を使って人に見せているので、見た目はエルフの血を引いた人間の少女でしかない。


 入学式も終わりミズハはクラス割表を見に行く事にした。

 ユグドラシル学園一年のクラス分けは、入試上位者をA~Lの十二クラスに順番に振り分けて行く。入試に上位者と言ってもそれは座学の試験のみで判定されるので、下の組の方が強い事もある。

 入学当初は多少の勉学の差があるのでこのような形になった。

 ミズハのクラスはといえばAクラスに入れた様だ。


 ミズハがAクラスに向かっていると二人の男子生徒と出会った。


「おい、お前獣人だろ、何で〈人化の術〉を使っている?」


「っ!?」


 唐突にかけられたその言葉にミズハは動揺した。

 話かけて来たのはネコ科の獣人少年で、着き従うようにイヌ科の少年が立っていた。


「俺はアラン・クルトだ、お前は?」


「私はレイニード・グルブランスと申します」


「……ミズハ・タマモール」


 ミズハに話しかけたアランは金茶の髪に琥珀色の瞳の中々精悍な顔をしている。身長も高くその立ち居振る舞いからは、優雅さと力強さを感じる。

 アランに着き従うレイニードは灰色の髪を首筋で結い、青い瞳でミズハを見つめている。アラン程ではないが背は高く、引き締まった体は優雅ですらあった。

 この二人は獣王国レオンの貴族かもしれないとミズハは当たりを付けた。

 ミズハの返事が硬くなってしまったのは〈人化の術〉を見破られたかもあるが、エスターク以外の獣人に対する恐怖が未だ燻っているからだ。


「何故獣人だと分かったのですか?」


「獣人かどうかは臭いで分かるだろう。お前狐の獣人だな」


 臭いで分かると言ったアランにミズハも納得する。確かに種族ごとに臭いが多少変わるのはミズハも感じていた事だ。

 だが、ミズハの種族を完全に把握するには似た臭い、他の狐の獣人に会った事があるという事だ。


「此処に居るという事はお前もAクラスだろう、宜しくな」


「宜しくお願いします」


「……宜しく」


 アランとレイニードの挨拶に、ミズハは何とか答えた。


 ミズハがAクラスに入ると九割型の席が埋まっていた。

 黒板に座る席が書かれており、ミズハはそれに従い中央の席に座った。

 ザワザワざわめく教室に一人の青年が入って来た。二十代前半といったところか。髪は金髪で瞳は茶色、顔立ちは甘くいかにも夜の仕事をしていそうだ。


「席に着け。俺はお前達の担任アンセイ・ティクチャーだ」


 担任のその挨拶に女子の一部から黄色い悲鳴が上がった。


「廊下側の前の席から自己紹介しろ」


 担任の合図に廊下側の最前列の生徒が自己紹介を始めた。

 ミズハの番になりミズハは立ちあがると、当たり障りのない自己紹介をした。

 自己紹介を聞いていたミズハが気になったのは獣人ペアのアランとレイニード、ナノハ・リシュティーユという新入生宣誓をした少女。動きが周りと明らかに違うケニス・グランドールの四人だ。

 三十人の自己紹介が終わると担任のアンセイ教諭は一年間の行事の書かれたプリントなど、十枚近くに及ぶプリントを配り出した。その後、基本教科の教科書が配られた。

 ミズハはプリントにザッと目を通して行く。

 最初のイベントは五月頭の競技際の様で、明日から説明して行くとアンセイ教諭は締め括った。


 ホームルームが終わりミズハは荷物を鞄に入れ帰路に着こうとした。


「ミズハ、学び舎を出るまで一緒に帰らないか」


 帰ろうとしたミズハを引き止めたのはアランだった。後ろにはレイニードが控えている。

 この時ミズハは何故自分の所に来るのか疑問だった。

 ミズハが固まっているとアランは流れる様な動作でミズハの手を取るとエスコートを開始した。


「ちょ、ちょっと待って」


「うん? どうかしたか?」


「何故私が貴方達と一緒に帰らないといけないの!?」


 ミズハは数歩歩みやっと現状を受け入れると歩みを止めアランに質問をした。


「何故って、一緒に帰りたいからだが」


「一緒にって……」


 ミズハの抵抗にアランの獣耳が少し垂れた様にも見えたが、アランの態度は変わらなかった。

 止まってしまっていたミズハの肘を軽く引き歩き出すアラン。ミズハもアランに引かれて歩き出した。


「教室での自己紹介でも話したが俺はアラン・クルト。獅子の獣人だ」


「私はレイニード・グルブランスと申します。灰狼族の出です」


「ミズハ・タマモールよ。ターザ国から来たわ」


 歩きながら改めて自己紹介する三人。

 ミズハは教室での自己紹介を思い出し、二人が予想通り獣王国レオンの出である事を思い出す。

 いったいアラン達はミズハに何の用なのだろうか。

 ミズハも何故自分に構うのかと疑問に思うが、校門までだと思いアランのエスコートを受けた。

 アランとレイニードは見目が良く、一緒に歩いているミズハの美貌もあり生徒達が三人を見つめて来る。

 校門まで辿り着くとミズハは素早くアランから逃れ女子寮に向かった。といっても確り別れの挨拶はしたのだが。






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