アンディーの邂逅
僕は闇の上位精霊アンディー、以前は闇の精霊王様の側に仕えていた最古の精霊の一人だ。
闇の精霊王様は余り自分の宮からは出ず、世界の管理をしていらっしゃる。
世界を旅していた僕は良く精霊王様と話をした。立ち上る炎、渡る風、流れる水、支える大地、温かい光、安らぎの闇、降り積もる雪、踊る雷、恵みの緑、多くを話それが精霊王様の宮に溢れた。
持ち回りで変わる精霊王様達の会議が闇の宮になる度他の精霊王様達が目を見張った。闇の精霊王様の宮は小さな世界そのものだったから。
何度も他の精霊王様の宮に遊びに行ったり、仕事で訪れる事があった僕から見た他の精霊王様の宮は、司る力の象徴で他の属性の力は余り持ち込まれていない。
人間達の領地が隣り合い領地を巡って争い出した。何故人間達はそんな無駄な事をするのだろう?
人間に法がある様に精霊にも法がある。寧ろ精霊の法の方が先にできたと言える。精霊にも法を犯し同族を殺める者もいるが、人間はその比ではない。
大規模な戦争を犯し多くの同族を殺す。いったい何を考えそんな事をしているのだろうか?
そう思った僕は少し人間達の歴史を学ぶようになった。
戦争の歴史は食糧の奪い合いが始まりに来ていたようだ。一生懸命働いても実りには住む地により差が生じる。少しでも多くの食料を! と略奪に走った様だ。それは精霊にはないものだった。精霊は食べ物を食べたりするがそれは全て娯楽と言って良い。食べなくても生きていけるからだ。けれど人間は食べて行かなければ生きていけない。
始めて人間の争いに納得した瞬間だった。
だが、歴史が重なるにつれ人間達は領土をめぐって争う事に変わって行った。僕が人間達の歴史に興味持った出来事だ。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人、少し見た目が違うだけで争い出す。
とある人間の国では人間以外の種族は下等な生き物として奴隷に落とし差別をしていた。その余りの行いに精霊王様達の会議でその国の首都近くに魔物の反乱を起こした。精霊王様達は魔物の進化を促進する事ができ、促進され進化した魔物たちは自分達の繁栄を求め、人間の国の首都に群がった。
その魔物の反乱を鎮圧したのは人間ではなく獣人の一人の男だった。
何故あそこまで人間以外を差別する国を助けたのか気になりその人間に話かけた。
「一番に被害を被るのは力の無い平民なんだよ。俺が助けたのは頭の悪い貴族たちじゃねえ、頑張って生きている民衆だ」
この言葉に僕はいたく感動した。
人間全体を見て国を動かしている王侯貴族はたった数%程だ。それ以外の民衆の方が多いのは精霊で考えても同じだ。まったく目からうろこが落ちるとはこの事だ。
僕は暫くその獣人に着いて行く事にした。
その獣人は銀狼族の出で、綺麗な銀の髪に青い瞳をした美丈夫だった。少し粗野な所はあるが気立ては真っ直ぐで器の大きな獣人だった。
冒険者ギルドという所で仕事を請け負いお金を稼ぐ。稼いだお金は孤児院に寄付したり同じ冒険者とお酒を飲んだりしながら消費していた。
同じ冒険者がその獣人を尊敬しているのは見ていて直ぐに分かった。
そんなある時、その獣人を囲う様に獣人達が押し寄せて来た。すわ襲撃かと身構えると獣人達は僕の見守っている獣人の前にひざまづき頭を垂れ、直ぐに戻って来て下さいと願った。
僕が呆気に取られていると見守っていた獣人は「俺は帰らねえ、お前達も諦めろ!」と言って獣人達の囲いを突破して行った。
その後見守っている獣人に話を聞くと、獣人は獣王国レオンの貴族の長男だと教えてくれた。下に弟が居て弟が家を継げば良いと思って家を出たが、その弟が是が非でも獣人に家を継いで欲しいと追手を差し向けているそうだ。
そんなやり取りが何度か続き、獣人は番を見つけた。その番はただの村娘で獣人とは何もかもが違った。ただ一途に獣人の事を思い、獣人の事を信じていた。
そんな獣人の番が獣人の子を孕むまでたいして時間はかからなかった。仲が良く何時も一緒の二人だ、神も子を授けるだろう。
獣人の番が安定期に入ると噂を聞きつけた獣人の弟が態々二人の暮らす村にまでやって来た。
追い返そうとした獣人だったが番の村娘に説得され一度家に帰る事にした。
番を連れて帰って来た獣人に獣人の両親は泣いて喜んだ。番である村娘は流行病で両親を亡くしており、会える内に両親に会ってあげて。と説得したのだ。
獣人の子が産まれると、獣人は祖国に定住する事を決めた。
移動の多い冒険者より定住して働く事にしたのだ。
獣人は一生遊んで暮らせる程のお金を持っていたが、働けるうちは働くと今まで寄りつかなかった王城で働き出した。
獣人の冒険者としての実力は高く、強い者に憧れる者が多い獣王国レオンでは直ぐに職が見つかった。
獣人の子がすくすく大きくなるにつれ、獣人は老いて行った。
最終的に獣人の家は僕が見守っていた獣人が継いだ。弟の粘り勝ちと言えよう。
獣人はどんどん老いて、孫が産まれ育って行く。
ついに床に伏した獣人が僕に話かけて来た。
「なあ闇の精霊。最後に俺に名前を教えてくれねえか? お前に俺を覚えていて欲しいんだ」
【なんだ、君は僕の名前を知らないままで良いのかと思ったよ。僕の名前はアンディーさ】
「アンディーか、良い名前だ。お前は俺の良い親友だったぜ」
そう言って獣人は静かに息を引き取って行った。僕の頬を伝う雫は見ずに。
僕は獣人が息を引き取った後も人間界をフラフラしていた。
ある時何かに引かれて狐の獣人の村に辿り着いた。
その狐の村をフラフラしていると一人の子供が僕を見上げて手を伸ばした。
僕は目を見張った。だって今は姿を消しているのだから。精霊を見る事に優れたエルフにだって今の僕を見つけるのは至難の業だ。
その狐の獣人は内側からキラキラ輝いていて精霊が好きな安らぎを与える魔力を湛えていた。
改めて見つめると髪も金色で内も外も輝いているようだ。
【君は僕が見えているの?】
「わあー、おにいちゃんだあれ?」
まだまだ舌っ足らずな喋り方で少女は話した。
【僕はアンディー君の名前は何だい?】
「わたしは、みずはっていうの」
【ミズハか良い名前だね。将来僕と契約してくれるかい?】
ミズハという名の狐の獣人に僕は名前を教えた。
ミズハの放つ波動は心地よく、何処か人寂しかった僕は直ぐに名前を教えてしまったのだ。
ミズハの隣にいた大人の狐の獣人は、突如空と話だした子供を見ても驚くだけで怯えはしなかった。他に人が居ないので僕は〈姿現し〉を使い二人の前に姿を現した。
【やあ、君はミズハのお母さんかな?】
「闇の精霊? それも上位の。……ええ、私はミズハの母よ」
突然現れた僕にミズハの母親は驚き警戒を露わにするが、僕の正体をある程度見破り警戒を解いた。
【君の名前は何て言うんだい?】
「私の名前はカレン。カレン・タマモールよ。闇の精霊は何故こんな所に?」
ミズハの母親はカレンと言った。ミズハと違い髪も瞳もありふれた茶色で狐耳も茶色、尾の数も一本だった。
【僕はたまたま此処を通りかかっただけだよ。そうしたらミズハが僕の事を見えるみたいだから確認を取ったんだよ】
「そう。確かにこの子はエルフの血を引いているから精霊が見えるのかもしれないわね」
【多分それだけじゃないよ。僕は直ぐにこの子に好意を持ったしもしかしたら――】
エルフの血をひく事を教えてくれたカレンに僕は思った事を告げた。
「……それは直ぐにばれてしまう事なの? できればこの子には普通に過ごして、何時か夫とも会って欲しいの。秘密にする事は出来ないかしら」
【良いよ、僕が隠蔽の魔法をかけてあげる。でも、大きくなれば力も増すよ。何時かはばれてしまう】
「それでも良いわ。それまでミズハをお願い」
カレンはミズハを世界から守る事を僕に依頼して来た。別に世界がミズハの敵に回る様な話ではない。寧ろミズハの味方になってくれる。その代わりミズハが鳥籠の中の鳥になるだけだ。
カレンからの依頼に僕は頷いた。子供はのびのび育った方が良いと思ったからだ。
「あんでぃー、わたしとあそぼう」
【いいよ】
そうしてその日はミズハと一緒に遊んだ。
だがミズハの置かれている状況を理解する度、この村の連中を呪い殺したくなった。
何故髪や目の色が違うだけでミズハを鬼子の様に扱うのか、何故尾の数が多い事でミズハに石を投げるのか分からなかった。
狐の獣人にとって尾の数が多いという事は魔力が多いという事だ。魔法職に着く事の多い狐の獣人にとって良い事ではないのか。そんな事をカレンに話したが、カレンはミズハがもう少し大きくなったら旅に出たい、それまでは村人に手出ししないでくれと僕に願った。
だがカレンの願いは適う事は無かったのだ。ミズハが十歳になったら旅に出ると言っていたカレンはミズハが九歳になって少しして病で亡くなってしまったからだ。
よし! こうなったらミズハが十歳になったら僕がミズハを旅に連れ出そう!




