冒険者ギルド
ミズハが十二歳になり、ミズハはゲオルク達に付き添われ冒険者ギルドに来ていた。
やって来たゲオルク、アリアナ、エスターク、ダグを見て冒険者達がざわめき出す。
あちらこちらから四人の二つ名が囁かれ、場は騒然とした。
ゲオルク達四人に加えミズハが新規登録者用の窓口にたどり着き、受付嬢は緊張した面持ちで声をかけて来た。
「新規登録の方で宜しいでしょうか?」
「はい」
「ではこちらにお名前、年齢をお書き下さい。代筆は必要でしょうか?」
「いいえ、書けます」
受付嬢は目ざとくミズハを見つけると、ミズハに話しかけて来た。ミズハが一番話しかけやすかったのだろう。
ミズハは用紙を受け取ると素早く記入していった。と言っても名前と年齢を書くだけだ。
「ミズハ様で宜しいですね、ではこちらの水晶に手を翳して下さい。この水晶は犯罪歴がないか確認するのと、使用者の魔力を記憶します」
ミズハが手を翳すと水晶は淡く輝き青色に変色した。これが黄色や赤に変わると犯罪歴がある証拠で、専用の機器でどんな犯罪を犯したのか分かる仕組みだ。
「冒険者用のカードを御作り致しますので少々お待ち下さい。その間に簡単な説明を致します。冒険者には下からF<E<D<C<B<A<Sという順で上がって行きます。これをランクといい、ランクは冒険者ギルドへの貢献度で上がって行きます。また一年間依頼を受注なさいませんと自動的に冒険者カードは白紙に戻ります。依頼は冒険者ランクより一つ上のランクの物までしか受ける事はできません。冒険者カードを紛失なさいますと再発行に千ルト必要になります。他にも細々とした規則はギルドの書庫に纏めた冊子が御座いますのでそちらをご覧ください」
受付嬢が説明中窓口でカードを何か機械に入れ作業している。
説明が終わると同時に機械からカードを取り出しミズハに渡す。
ルトとはお金の単位で世界共通だ。価値としては十ルトでリンゴ一個帰る。
「ミズハ規則の必要な所は後で教えるから何か依頼を受けていらっしゃい。私達は帰るけれど大丈夫よね?」
「はい!」
アリアナ言葉にミズハは元気に頷く。
ミズハは依頼掲示板に向かうとFランクとEランクの依頼を見ている。
Fランクの依頼は全て街中でできる依頼しかない。
門の外に出る依頼はEランク以上だ。
アリアナもそれが分かっているのでミズハを一人にしたのだ。
「街のお手伝いか、力仕事はできないし……。草むしりかゴミ拾いかな」
ミズハは迷った結果草むしりの依頼を受ける事にした。
依頼票を取り受付に持って行った。
依頼を受けたミズハは依頼場所を教えてもらい、依頼人の元に向かった。
依頼人は下町にある家に住んでいた。
ミズハは依頼人に会い冒険者ギルド方来た事を告げた。
その後依頼人に草むしりする場所を聞き、その家の裏手に向かった。
依頼人の家の裏手にある空き地に辿り着いたミズハは全体を見て回った。
〈精霊魔法〉で土の精霊に空き地の表面の土を軟らかくしてもらい、風の精霊に草を浮かせてもらう。ミズハは渡された籠に草を入れて行く。
「あれ? 薬草が混ざっている」
【本当だね、より分けておこう。確か薬草の採集もあったよね】
「うん。常設依頼だから、集めてから依頼受けても大丈夫」
常設依頼とは常に依頼として設置されている物のことをいう。例えば薬草採集などだ。
薬草は門の外に多く群生している為Eランクの依頼に置かれていた。
「薬草の他に毒草か、これも採集依頼にあったな。……これで全部か、後は籠に入れてっと」
ミズハは草を籠に入れると依頼人に会いに行く事にした。
ミズハが依頼を終えたというと依頼人は吃驚して家の裏手まで見に来た。
その結果終わっている事が分かり、依頼達成のサインをしてくれた。
その後ミズハは冒険者ギルドに戻り、草むしりと薬草採集、毒草採集の依頼を完了させた。
「ミズハ様ギルドカードの御呈示ありがとうございます。この薬草と毒草はどちらで採集されたものでしょう?」
門を出ていないミズハが薬草と毒草を持ってきた事に驚いた受付嬢は、ゲオルク達に持たされたものか疑ったのか、ミズハに詳細を聞いて来た。
「草むしりをしていたらそこに生えていたんです。駄目でしたか?」
「そう言う事でしたか、それなら大丈夫です。Fランクの依頼一つで一ポイント、Eランクの依頼三つで九ポイントになります。こちらが達成依頼のお金と薬草、毒草のお金を足したものになります。合計十ポイントでEランクへの昇格試験を受ける事ができます。どうなさいますか?」
Eランクの依頼を三つクリアしているのは、薬草採取依頼の薬草数が二回分あったからだ。
依頼のランクによって依頼達成ポイントが振られており、そのポイントを溜めるとランクが上がる。
しかし、EランクCランクBランクに上がる時試験を受けなければならない。また、Sランクに上がるには個別に審査されて適切な課題を受ける。
「その試験は何時受けられるのですか?」
「試験官の手は空いておりますので直ぐにでも受ける事は出来ます」
「では直ぐにお願いします」
「畏まりました。あちらの席で少々お待ち下さい」
受付嬢はミズハとの会話後直ぐに試験管に受験者が居る事を知らせに行き、ミズハは受付嬢に示された、冒険者ギルドに併設された酒場の席に座った。
ゲオルク達の睨みが利いているせいか、ミズハに絡む者はいなかった。
ミズハが待つ事しばし、受付嬢が試験官を伴いミズハの元までやって来た。
「俺は試験官のレックス宜しく。お前がギルドマスターの秘蔵っ子だろ、会うのを楽しみにしてたぜ」
「初めまして、ミズハと申します。試験宜しくお願いします」
「おう! こんなに丁寧に挨拶されたのは始めてかもしれねーな」
試験官レックスとミズハは互いに自己紹介し、握手を交わした。
レックスは見上げる様な大きな体に鍛え抜かれた四肢が特徴だった。髪は少し褪せた金茶の髪で瞳は茶色。どこにでもいる様な顔立ちではあるが、その体と相まって注目を集める。
「死なない様に手加減するが気をつけろよ、後でマスターに怒られるのは勘弁だ」
「義父さんも死ななければ怒らないと思いますし、私も死ぬ気はありません」
「良く言った!」
レックスはガハハハと笑うとミズハを叩こうとして手を止めた。
レックスと共に冒険者ギルドに併設されている訓練施設に向かうと、数人の冒険者が訓練をしていた。
「おう、お前ら少し場を開けてくれ!」
レックスの言葉に訓練をしていた冒険者は慌てて脇によった。
その冒険者はレックスを尊敬の目で見つめている。
レクスは冒険者時代Bランクまで上り詰め、実力ではAランクに匹敵するほどだと言われていた。
ゲオルクがギルドマスターになった後に現役を退き、尊敬するゲオルクの元で職員をしている。
「さーて、Eランク試験を始める。どこからでもかかってきな!」
「はい。行きます!」
レックスは巨大な戦斧、ラブリュス構えるとミズハに向き直った。
ミズハは様々な武器と戦った事がある為、両刃の戦斧ラブリュスの動きを知っていた。
ミズハ自身が使えるのは徒手空拳と短剣、片手剣や杖、棒と暗器などが精々だ。それでも十分色々な武器を扱えるが、ミズハの価値はそれ以上に様々武器との戦闘経験だった。
ミズハはまず自分の魔力を身体に流す身体強化を行った。
更に風魔法で自分のスピードを底上げする。
「ほう、その年で身体強化が使えるのか!」
レックスは興奮したように声を上げる。
身体強化は魔力の制御が難しい為、中々ものにするのは難しい。
「はっ!」
ミズハは裂帛の気合と共に走り出すとレックスの脇まで詰め寄った。
しかしレックスは重量のあるラブリュスを持っているとは思えぬ速度でミズハから距離を取ると、ミズハに向かってラブリュスを振りかぶった。
風の音を置き去りにして迫るラブリュスをミズハは身体スレスレで避け、レックスの後ろに回る。
レックスは素早くラブリュスを引き戻すと、遠心力を利用して横に薙ぎ払った。
ミズハはまだ低い身長を利用して身体を縮め、姿勢を低くする事でその一撃を避けた。
ここまでの攻防はおよそ二秒。
これを見ていた冒険者は目だけでなく口を開けて見つめている。
攻撃の射程圏内まで近付いたミズハは左足を軸にしてレックスにローキックをくり出した。
そかし、レックスはラブリュスを持っているにも関わらず飛んで避けた。少しバランスを崩したが、ラブリュスを地面に叩きつける事で体勢を整えた。
ミズハは更に追撃する為に前に出る。
これを予期していたのかレックスはラブリュスを斜めに振り下ろした。
ミズハは右斜め前方、レックスの左脇側に抜ける事でかわし、レックスの手の甲、肘、肩、首に猛ラッシュくり出した。
レックスはラブリュスを持ち上げ、面の部分を盾にミズハの猛攻を防いだ。
ミズハが一度引こうとした瞬間、レックスは面を向けたままのラブリュスをミズハに叩きつけた。
ミズハは引こうとしていた為、間一髪で避ける事ができた。
これに攻勢に出たのはレックスだった。
既に試験という事は忘れたと言わんばかりの猛攻だった。
縦、横、斜めと無数に攻撃をくり出して行く。
ミズハは冷や汗を流しつつこれを避ける。
しかし、余りの猛攻に足が縺れバランスを崩す。
レックスはこの隙を逃さずミズハの首にラブリュスの刃を当てた。
戦闘開始からここまでの所要時間は一分三十秒程、しかし戦闘していた本人達はその何倍もの時間戦っていたように感じた。
「……参りました」
「おう! すげえ強いじゃないか! 今の時点でBランク下位はあるぜ!」
ミズハの降参の言葉にレックスは興奮を隠さず続ける。
「マスターの養女だって聞いたぜ! それにあの方達にも鍛えられているだろう」
レックスの興奮は止まず言葉を続けるが、アリアナ、エスターク、ダグの名を告げる事はなかった。
ここで名前を出せば大騒ぎだ。
既に今朝揃って顔を出した時点で大騒ぎだったのだから。
「これでお前もEランクの冒険者だ、頑張れよ。……そう言えば今十二歳だったか? 今破竹の勢いでランクを上げてる奴もお前と同じ十二歳だ。その内会うかもしれん、二つ名は〝不可視の暗殺者〟だ」
「そうですか、会うのを楽しみにしています」
こうしてミズハはEランクの冒険者になった。




