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狐少女の日常  作者: 樹 泉
プロローグ
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プロローグ


 コツンコツンドス。


「やーいやーい、千切れ尾。さっさとこの村から出て行け!」


 茶色の(きつね)(みみ)(きつね)()の少年達が、金色の狐耳狐尾の少女に小石を投げ付ける。少年達は楽しげに少女を追い立てていた。

 痩せ細った十歳にも満たない金色の狐耳狐尾の少女は俯き、村の南端にある自分の家に向かい走り出した。

 少女の尾は根元から三本に分かれて揺れている。それが辺境にある狐の獣人の村『ホノエ』では大層目立っていた。

 ホノエ村の住人の尾は一本で、色も茶色。それに引き換え少女の色は金色で、尾も三本あった。

 ホノエ村は獣王国レオンの南の辺境に位置し、古くから狐の獣人達が自治して来た。その歴史の中で、尾が三本も生えた子供は産まれた事がなかった。

 更に少女は狐の獣人の(けっ)(けい)魔法(まほう)〈狐火〉を扱う事ができないのだ。

 それが古風で閉鎖的な村の中で少女に牙を剥いていた。




「……グスングスン。母さん何でミズハを置いて行ったの。私も連れて行ってくれれば良かったのに」


 緑色の目から次々と涙が溢れる。

 少女ミズハの母は一月ほど前に過労が祟ってこの世を去っている。

 ホノエ村はミズハの母の故郷で、ミズハの母は冒険者としてホノエ村を去ったが、ミズハを身ごもり、夫を連れずにホノエ村に舞い戻って来たのだ。

 村を出て行った者に居場所は与えられず、子供の色や見た目も全然違った為肩身の狭い思いをして来た。

 しかし、ミズハの母はミズハの事を可愛がり、愛情たっぷりに育てて来た。

 だが悲劇は唐突にやって来た。

 冒険者として多く持っていた体力も、日ごろの過労が祟りミズハの母は病に倒れてしまったのだ。

 その後はあっさりしたものだった。

 倒れてから一週間、ミズハの母カレンはこの世を去ってしまったのだ。

 その後はお墓も立ててもらえず、ミズハ独りで穴を掘りカレンを埋葬した。


【ミズハそんな事言わないでよ、僕が居るだろう】


「……アンディー、でも――」


【そんな気弱な事を言うのはこの口かな。カレンはミズハに生きて欲しいって言っていただろう】


「……うー。いひゃいいひゃい」


 家にたどり着き、泣いていたミズハの前に現れたのはショートカットの黒髪に黒目の10歳程の子供、闇の精霊アンディーだった。

 アンディーは泣き崩れるミズハの口を摘まみ左右に引っ張った。

 「痛い痛い」と涙目になったミズハを見て、アンディーは手を離す。

 何故精霊がミズハの目の前に居るかというと、ミズハには血系魔法の〈精霊魔法〉を扱う事ができるからだった。

 ミズハの父親はエルフで、ダブルのミズハは狐の獣人という事以外全体的に父親似であった。


【ミズハ精霊達が騒いでいる。外に出るんだ!】


「うん。分かった」


 アンディーは突如風の精霊が騒ぎ出したのを聞き、ミズハを外に促した。


【ミズハ、大変だ! 魔物の氾濫だ!】


 魔物の氾濫とは普段群れない魔物が群れたり、普段以上の群れの数に膨れ上がった魔物の群れを指す。


「え」


【兎に角逃げるんだ。僕が隠蔽するから! 逃げる先は南だ!】


 アンディーはミズハの先に立ち、ミズハを先導する。

 一瞬ポカンとしたミズハだったが、アンディーの必死さに歩を進める。

 ミズハは一歩二歩と歩み、三歩目で走り出した。アンディーの背を追い家の直ぐ側まで迫った森に入って行った。

 木の根を跨ぎ獣道を進むミズハの息が少し荒れだした頃、ミズハの背後、村があった辺りから悲鳴が上がった。

 その悲鳴にミズハの足が竦む。


【ミズハ急いで!】


 日頃、闇の精霊にしては快活なアンディーの真剣な声にミズハは止まった足を動かしだした。


「ハァハァ、……ンク」


 どれくらい走ったか、ミズハの息が荒くなり疲れで足を縺れさせた。

 ドテッと倒れ込んだミズハにアンディーは心配そうな視線を向けた。


【大丈夫? 大分離れた様だよ、もう少し南に洞窟があるようだ。そこまで頑張って】


「ハァハァ、……分かった」


 広大な森の中、一路南に南下していたミズハの耳に何時からか悲鳴は届かなくなっていた。

 ホノエ村では朝食が終わったばかりだったのに、既に日は斜めになりオレンジ色になっていた。

 アンディーに連れられミズハは歩いた。南に向かって。

 辺りが更に薄暗くなり、夜闇に移り変わる頃ミズハはアンディーの言っていた洞窟にたどり着いた。

 そこは森から山に切り替わった土地から、更に進んだ山腹に位置した所にある洞窟だった。


【ミズハは此処で休んでいなよ。僕が果物か何か取って来るから】


 ミズハは息も絶え絶えに進み、洞窟に入るとパタリと倒れこんでしまった。

 アンディーはそんなミズハを見ると急いで外に飛び出して行った。

 ミズハはというと今までの疲れが出たのか既に寝息を立てていた。

 丁度良い事に今は秋で果物も多い。

 三十分もするとアンディーは両手いっぱいに果物を持ち、洞窟に戻って来ていた。


【ミズハって寝ちゃってるし。果物は明日でも大丈夫か。……お休みミズハ】


 アンディーはそう言ってミズハの寝顔を見つめた。




「んあ……」


【おはようミズハ、良く寝れたかい】


「おはようアンディー、痛っ」


【あははは、筋肉痛だね。昨日は一日中走ったもんね】


「うー」


 朝日が昇り始め、光が目に入ったのかミズハが起きると、アンディーがミズハに挨拶をした。

 ミズハも挨拶し返したが、体を起こしたとたん痛みを感じて、寝転んでしまう。


【ミズハ朝ご飯だよ、木の実がいっぱい取れたんだ】


「わー、ほんとだ。いっぱいある」


 ミズハはアンディーの言葉に視線だけ横にずらし、果物を見つけ声を上げる。

 ミズハはゆっくり起き上がり果物の置いてある場所まで動いた。ペタリと座ると手を合わせ食前の祈りをささげる。


【ミズハはそうやって笑っている方が可愛いよ】


「う、にゃにするの」


 笑顔になり一生懸命果実に齧り付く様を見て、アンディーも笑うとミズハの頭を撫でた。ミズハは照れたのか齧っていた木の実を飲み込んだものの、言葉を噛んでしまった。




あれ可笑しいな、アンディーの出番が凄くある。

プロットの段階ではプロフィールに出てくるだけだったのに。

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