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MERSHE  作者: たなかなた。
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21/21

墓師:2

最終回です!

あれ…ここは…

目を開けるとメルシェは不思議な場所にいた。

一面がぼんやりと明るく、暖かい。

どこか、春の木漏れ日の中に立っているような感覚だ。


さっきまで、自分は棺桶の中にいたはずなのに…どうして…?


あたりを見渡すと、少し先にヤタが立っていた。


『師匠!』

笑顔でそう叫びながらメルシェは駆け出す。

ヤタもメルシェに気がつくと顔を綻ばせ、踵を返す。

『よかった!無事だったんですね!』

メルシェの質問には答えず

ヤタは無言で彼女の頭を撫でる。

『師匠…?』

『メル、お前に伝えてなかったことが幾つかある。それを伝えよう。』

『伝えてなかったこと…?それって…』

『お前の出生と、墓師の全てを…』

そう言われ、メルシェは心が締め付けられるような感覚に陥った。

Ms.ホーエンハイムとの会話を盗み聞いただけで、私は断片的にしか、自分が何者なのかを知らない。そして、それを今日この日まで師匠が隠してきた理由…

それを考えると少し聞くのが怖かった。


『そうだな、まずは墓師とはという事から話そうか…』


とても、昔の話になる。

まだ、人と魔と神との境界が曖昧だった頃。

死を司る神が居た。冥府へ魂を運び、英雄の魂を天国へ届ける彼はヘルメスと呼ばれた。

しかし、彼の司る死と言う概念は一つの感情を持つ一つの命が持つには少々大きすぎた。

それが、例え神であろうと、指先ひとつで万物の死を確定させる力は余りにも脅威だった。

人々だけに留まらず、生きとし生けるものすべてが彼を恐れた。

優しい心を持った彼は自分の性に深く絶望し、ある提案をする。

それは、自分の力と魂を分離封印し、違えた存在にするというものだった。

それは、彼自身の魂を永遠に束縛し、死を誰の手にも届かない場所へ隠すというものだった。

人々はそれを承諾し、人の中に彼の力を、棺桶に魂を封じた。


ヘルメスの死を司る力はヘルメスの意思でしか働かない…故に人間が持っていてもなんの意味もないんだ。


そうして、彼の力と魂を世界から直向きに隠蔽するために旅をする者たち、それが墓師の始まりと言われている。


かつて、俺たちは当代の墓師の身体に力を受け継ぎ、魂を封じた棺桶を背負って旅をしていた。

8年前、俺も師匠から譲り受けたそれを今も持っている。

『じゃあ…その魂の入った棺桶は…』

メルシェの質問に静かた頷きながらヤタは答える。

『そして、君を山の国の集落で見つけた時、君の魂の媒介に使ったのが、そのヘルメスの魂だ。』

ヤタは淡々と語るがその声はどこか弱々しいものだった。

『無論、墓師としても人としても禁忌中の禁忌だ。だが、あの時のあの判断を間違っていたとは思えない。』

『それじゃあ…私はそのヘルメスって人なんですか…?』

『それはない、何故なら君は今君の心を持って立っている!それは間違いなくメルシェ、君の心だ。メルシェ、いや、メルシェ=(エルゴ)に=使徒(アポストル)…それが、君の名だ。』

『エルゴ=アポストル…』

メルシェは新しい情報を頭に詰め込みすぎて収拾がつかなくなっている様子だった。

『まぁ、なに…好きに名乗ってくれて構わんさ。気に入らなければ捨てればいい、君が君であれば名前など些細なことだ。だが、これだけは覚えておいてくれ。』

ヤタはかがみこみメルシェと視線を合わせる。

『誰が何と言おうがこれは君の人生だ、君が思うように生きればいい、墓師としての使命とか、そういうものはどうだっていい。俺が禁忌を犯してまで、君を生かしたのは、君に自由に生きて欲しいからだ。仮に人形の命だったとしても、今は心があるのだ。君は君らしく生きれる!俺はそう確信している。』

ヤタはそう告げると口元を綻ばせ、彼女の頭を優しく撫でる。

『さて、お別れだ。ごめんな、師匠らしいことが何んにもしてやれなくて…』

立ち上がりながらヤタはそう呟く。

『お別れって…嘘ですよね…?』

ヤタは何も言わず踵を返し歩き出す。

刹那、眩い光に目を奪われる。

それでも彼を追いかけまいと必死で手を伸ばす。

『待って!!!!』


視界が開けた其処は、棺の外。


先ほどの霧深い荒野は何処へやら、空は青々と澄み渡り、大地は一面の花畑で覆われていた。


『ここ…は…?』

メルシェはあたりを見渡す。

しかし、そこは確かに先ほどの山の中腹である。

どこを探してもヤタは見当たらない。

不意に視線をそらすと、地面に突き立ててある十字架を見つける。

駆け寄ると、そこには彼の羽織っていたオーバーコートがかかっていた。


『ずるいですよ…自分だけ…言いたいこと言って勝手にいなくなるなんて……』


青く広い蒼穹の果てに一人の少女の慟哭が(こだま)するであった。









『終わったか…』

ヤタは一人駅に腰掛けていた。

どうやらここで天国行なり、地獄行きなり、電車を待つようだ。

これがあの世への旅路というのなら、随分と退屈な旅になりそうだ。


そこは小さな駅だった。

ただ普通の駅と違うのは、それは空の上に建っていた。

路面を見下ろすと、無数の鉄骨に支えられた、線路とこの駅の支柱が見える。

さらにその下には巨大な都市が聳え立っていた。

感情のない、まるで見せかけの都市だ。

そして振り返ると、恍惚とした朝焼けが雲の間から顔を見せていた。


『その朝焼けに何を想う?』

不意に声がしたので振り向くと、そこにはメガネをかけた青年が立っていた。

整った白髪に学生服の青年は手にした新聞を折りたたみながら尋ねる。

『ようこそ、残響の世界へ…』

青年は両の手を広げそう呟く。

『残響の世界…?』

訝しげにヤタは尋ねる。

『そう、ここは全ての世界に干渉できる場所。則ち全ての世界へ余波を与え、受ける場所…故にここは残響の世界…』

『で…?あんたは神様かい?』

ヤタの質問に青年は言葉を詰まらせる。

『いかにも…と云いたいところだが、それは少し違う、お前たちの云う神が理であるなら、俺はそれらの管理者だ。強いて言えば君たちという小説の作者と言ったところだ。』

『なるほど、わからん。』

ポケットの烟草を(くわ)えながらヤタは呟く

『わからなくてもいいさ、わかる必要がないのだから。』

青年はどこか楽しそうにそう告げる。

『まぁ、座りなよ。お話しようぜ?』

青年はベンチに腰掛け、その隣にヤタを誘う。

ヤタは何も言わずその隣に腰掛ける。


暫しの沈黙。

ヤタの吐く烟草の煙が蜷局(とぐろ)を巻くように空に昇っていく。


彼奴(あいつ)らはどうなった?』

不意にヤタが尋ねる。


『死んださ、ルシフル、コーシャ、そしてパーソンズを名乗る男。君と同じようにね。』

青年は淡々と語る。

『そうか…』

ヤタはそれ以上何も言わなかった。

『まぁ、結末は想像以上で面白かったよ?』

青年は楽しそうに呟く。

『まさか、カオスまで持ってくるとは、やはり物語は最後まで何が起こるかわからないものだ。いや〜楽しませてもらったよ。』

『なんで作者なのに物語の先が読めてないんだよ…』

ヤタは訝しげに尋ねる。

『そりゃそうさ、今回は中々の大作だったからねぇ、だって作者の思い通りに進む物語なんてたかが知れた三文小説じゃないか、真に面白い物語は、作者の思惑など知りもしないで、好き勝手に進んで行くものさ。』


どこからともなく列車の音がする。

線路が軋み、駅が小刻みに震える。

『あの人もここへ…』

不意にヤタは呟く。

『あぁ、彼女も訪れた…』

青年は新聞を(めく)りながら答える。

『そうか…』

ヤタはそう言うなり徐に立ち上がる。

『じゃあ、会えることを祈ろう…会って、今度こそ伝えるさ…』

列車は迫り、駅の前に停車する。

扉が開き、がらんどうの車内にヤタは足を踏み入れる。

『然らばだ、ヤタ…かの説話の英雄よ。』

『ダルタニャン…』

ヤタはひとりでに呟く

『ヤタ=ダルタニャン…それが彼女が、師匠がくれた俺の名だ。』

ヤタは口を綻ばせ、そう告げる。

『そうか、』

青年も口元を緩め返す。


蒼穹より遥か遠く、誰も知らない寒空の駅にて、その邂逅は静かに過ぎるのであった。








寒空の雪は車窓を叩きつけ

晩冬の風は冬将軍を乗せて

亡国の守護を司る。


少女は一人、列車に乗っていた。

連れはいない。

強いて言うなら、座席の横に立て掛けてある十字架が旅の友だということぐらいだ。


向かいの座席に男が座る。

優しそうな柔和な表情の老人で

雅な格好からして商人(ブルジョワ)といったところだろう。

『失礼…いやぁ、やはりこのあたりは寒くて堪りませんなぁ…』

白い髭を摩りながら老人は呟く。

『私はもう慣れてしまいました。』

少女は窓の外の吹雪を眺めながら呟く

『これからどんどん北上して寒くなると言うのに、年寄りにこの寒さは堪えますわい…』

老人は自嘲して笑う。

『上着お貸ししましょうか?』

少女は羽織っていたオーバーコートを外し差し出す。

『いえ、結構。ありがとう、お嬢さん。それでも女性に、それも年端のいかぬ少女に迷惑をかけるなど老害の極み…こう見えても鯨で少し稼いでいるものですので…』

老人はそう言いながら車販に声をかける

『おーい、珈琲を二つ、ミルクと砂糖もつけて…お嬢さんはミルクと砂糖は…?』

『いえ…そんな…』

少女は首を振るが

『気にしないで、老人の気持ちの問題ですので。』

老人は微笑みながらそう言い、結局、珈琲とチョコレートを頂くことになった。


『ところでお嬢さん、何方へ向かっておられるのですが?』

不意に老人は尋ねる。

『そうですね…明確な目的地はありません…ただ…』

コーヒー啜りながら少女は口を噤む

『出来るだけ北に、この世界の端っこに行ってみようと思ってます。』

『ほぉ、最北端ですか…それはまたどうして…あぉ、気を悪くしないで下さい…旅は道連れ世は情け、こうして旅の席を共にしたのですから、どうして旅をしているのか聞いてみたくなっただけですよ…』

老人は頭を掻きながらそう告げる。

『申し遅れました…私、ファン・ホーテンと申します。鯨油会社の社長をしておるものです。』

老人は畏まった様子で名刺を渡す。

『あなたは…?』

老人は少女に尋ねる。

『あなたは旅人のようだが、どうしてそんなものを持っているのですか?障ないのであれば教えて下さい。』

ファンは十字架を指差し尋ねる。

暫しの沈黙。

やがて少女は十字架を摩りながらこう答えるのだった。

『私は、メルシェ、メルシェ=エルゴ=アポストル。墓師をしています。』



Hermes→Mershe

タイトルや主人公の名前になっていた

メルシェはヘルメスのアナグラムでした!

え?なんとなく気づいてた?マジか…


この話は一旦これで終わりですが、メルシェ一人を主人公にした続編も考えているのでよかったらそちらも是非読んでください…!

それでは、ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございました!!

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