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MERSHE  作者: たなかなた。
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13/21

錬金術師

それは昔話から続くこれからの兆し

…鉄の国が滅んだ理由を知っているか?


…本で読んだことあります!、確か”神様の怒りに触れた”とか…?


…とからしいな。当事者じゃないからなんとも言えんし、現に其れを見たっていう奴とも会ったことがある。(まぁ、人じゃなかったけど)だが、釈然(しゃくぜん)としない。神の怒りに触れるなんぞ人間は数えたらキリが無いほどしでかしている。


…それはそうかもしれませんけど…


…そんな訳で生きた当事者に会いに行く。


…冗談ですよね…?


…ところでメルシェ、崩壊した鉄の国は今どうなっている?


…本で読んだ限りでは遺跡になっているけど教会が管理していて、許可なしでは入れないって…


…その遺跡に今も住んでいる元、鉄の国の住人がいる。


…それが、西の魔女…?


…そう、Ms.ホーエンハイムだ。





荒廃したそこは(かつ)ての全てがあった場所。

人に魔法に科学に知識。

ありとあらゆる其れらが集まる世界の中心。


鉄の国、嘗て世界の中心だった国。

今は岩壁と土煙漂う遺跡に過ぎないが、それでもそれらの後が(うかが)える。

巨大なドーム状の鉄骨やアーチの形をした鉄骨はそれらが、昔巨大建造物の支柱だったことを表していた。


不意に二人は足を止める。

前方より、誰かが歩いてくる。

二人組の男だ。しっかりとした躰つきの青年と瘦せ型の男の二人組で、服装は両方スーツに山高帽、青年の方はトランクを下げている。


すれ違いざま軽く会釈して通り過ぎるがヤタには疑念が残る。

そもそもここは教会の管理下にあり第三者が立ち入ることはまずありえない、となると彼らは教会の…?しかし…

溢れる疑念に思考を塗りつぶされる。

『師匠…?』

メルシェの言葉でふと我に返り

再び歩みを始める。


どれほど歩いたろうか、遺跡と言えど大都市だった其れは生半可な広さではなく、地形も入り組んでおり、一本路地を間違えればヤタでも迷いかねないような場所であった。


『えーと…もう少しで…』

路地裏に伸びる階段を上っている時、

地図を広げながらヤタが呟いた刹那、視界の端より巨腕が伸びる

ヤタはそれを辛うじて(かわ)す。

それは鉄くずで固められた巨大な人形であった。

土塊(つちくれ)が…!』

ヤタは少々苛ついた口調で懐に手を入れ

拳銃を取り出しすかさず数発発砲する。


しかし人形は動じることなく動き続ける。

ヤタは静かに舌打ち

大振りの巨腕の間を()い潜り、人形の胴まで駆け寄ると、『砕』と強力な掌底(しょうてい)を繰り出す。

すると鉄くずの人形は(たちま)ちガタガタと音を立てて四散した。

『倒した…んですか…?』

メルシェは崩れた人形にゆっくり歩み寄り尋ねる。


『あぁ、しかしまぁ…』

階段の先、小さな人影に向かい

『番人にしては(いささ)か野蛮じゃないか?Ms.ホーエンハイム!』

と叫んだ。

階段を駆け上がった先、そこには小柄な女性が立っていた

焦げ茶のローブを纏い黒縁の眼鏡をかけた彼女は微笑みながら呟く。

『はは、この程度の土人形(ゴーレム)も倒せない程、君はヤワではないだろ?』


『元気そうで何よりですよ』

『君もな、ヤタ。』

二人は軽い挨拶を交わし終える頃、丁度メルシェは階段を上りきる。

『こっちは弟子のメルシェです。』

ヤタがメルシェを紹介するとホーエンハイムの顔色が変わった。

メルシェの顔を見るなり電撃が(ほとばし)ったように硬直し、やがて少しで悲しそうに笑い、そして

『おかえり。』

そうとだけ告げて、メルシェを優しく抱き寄せた。

『えっ…?』

メルシェは動揺を隠せないでいる。

ヤタは静かに二人を見つめ何かをを悟ったようだった。

『ひ…人違いじゃないですか…⁉︎わ…私はアナタと初めて…会ったんですから…』

メルシェは自信なさげに途切れ途切れ云う

ホーエンハイムは暫く黙り込んでいたがやがて

『…そうね、ごめんなさい。変なこと言っちゃって。メルシェちゃん。』

と微笑み二人を自身の館へ案内する。


そこは、館と呼ぶには少々、草臥(くたび)れており文字通り、魔女の家と云う雰囲気を醸し出していた。

休みなしの長旅のせいかメルシェは急な眠気に襲われ直ぐに眠り込んでしまった。


メルシェをベッドで寝かしつけ

ヤタはホーエンハイムの実験室に訪れていた。

本と紙切れで地面は溢れかえっており

人がやっと通れる程の小さな通路が獣道のように伸びていた。

『しかし、今日は客が多い…まぁ、適当に座りなよ。』

適当と云われて必死にその適当を探すヤタ

やっとの思いでソファーを発掘しそこに腰掛ける。

『相変わらずですね。』

ヤタは苦笑しホーエンハイムを見る

『相変わらずだよ。』

そう言いながらホーエンハイムはお茶を入れる。

『二人組みの男が来ましたか?』

『あぁ、来たとも…』

『彼らは…?』

『あぁ、商会の者だと名乗っていた。あるものについて尋ねられた。』

ホーエンハイムは頬杖を付いてコーヒーカップに手を伸ばす

ヤタの足元を小型のゴーレムが歩きまわる


『それで、私に何の用だい?墓師殿。』

ホーエンハイムは茶を(すす)りながら尋ねる

『あぁ、アナタの知恵と力を借りたい。』

『ほう、具体的に?』

『鉄の国滅亡の真相、それから彼らが尋ねたそれについて。』

それらの話題が出た途端、彼女の顔つきが真剣になった。

『なるほど…それは外の世界の状況と関係あるの?』

『あります。』

『へぇ、つまるところどんな?』

ヤタは口を噤むがやがて

『勘です。』

とだけ答えた。

『はは、正直でよろしい。』

ホーエンハイムは笑いながら続ける

『あぁ、いいよ。いや、よくない所もあるけど、私の知り得る範囲のことは話そう。』

『では、質問させて下さい。数百年前、鉄の国を滅ぼしたのは本当に神の怒りとかいうものなんですか?』

暫くの沈黙

『そうだな、あれをそう呼ぶのは些か筋違いなのかもしれない。しかし、国を一夜で()いたそれはまさしく神の怒りとしか形容し難いものだった。それは空の窓から落ちてきた幾筋もの雷霆(らいてい)。かの神話に名を残す大神の槍の一穿の如く、其れは地を先鉄を溶かし、生物を鏖殺(おうさつ)した。』

『あなたを除いて。』

ヤタの言葉にホーエンハイムの言葉が止まる。

『あぁ、私以外の生き物は死んでしまった。』

理由(そのこころ)は?』

彼女は暫く沈黙を続けるが、やがて胸元へ手をやり

『これだろうな。』

と何かをテーブルの上へ置いた。

其れは琥珀色に輝く小さな鉱石で

中に幾つもの光の線が入っていた。

『…賢者の石。』

『あぁ、そう言えば見せるのも初めてだったかな…?』

ホーエンハイムの問いにヤタは無言で頷く

『元を辿ればこれが全ての元凶だったのかもしれない。』

それから彼女は己が身の内を、あの日の全てを具に語るのであった。





あの日も私は研究に没頭し、この部屋を出ることは無かった。

昔は大型のゴーレム達が資料を整理してくれてたお陰で、今より大分綺麗な部屋だったんだが…まぁ、置いといて…。

当時、この国では原因不明の疫病が流行していてね、それらへの特効薬を作っていたんだ。

鉄の国って云ったら当時は最強を誇った強国。そんなイメージが強いかもしれないけど、実際はあっちこちに戦争をふっかけていたツケが回って国力は衰退の一途。おまけに流行病。国民の不満は募るばかり、今にも暴走しそうだった。だからこそ、今すぐにでも成果が欲しかったんだろうさ、神の森を焼いて行軍なんて凶行、普通なら誰もやらないしやろうとしない。けどそれだけインパクトあることをして、国民の意識をそちらに反らせたんだ。当時、国の研究者として錬金術を修めていた私は上に頼まれその薬を作っていたんだ。




『あれ…?今度は漆喰みたいに崩れた…おかしいな…理論上はこれで可能な筈なのに…』

沸々と沸く熱湯にフラスコを翳し、フラスコと同じくらい首を傾げながら彼女は呟く。


『おやまぁ、また失敗かい?』

棚に置いてあるホルマリン漬けのそれが嫌みたらしく呟く。

『うるさいな〜…パーソンズ!硫黄持ってきて!』

彼女がそう云うと、屋根裏から丸渕眼鏡(まるぶちめがね)を掛けた少年が慌ただしく駆け下りてくる。

『君は土塊(つちくれ)と戯れるのは得意だが薬に関してはカラキシだな〜』

ホルマリン漬けのそれは彼女に嘯く

『最後のは余計…あっ、ありがとね。』

少年が手にした硫黄を受け取りながら彼女は再びフラスコに熱を通す。

少年は小さく頷くと再び階段を駆け上がって行った。

『あーダメダメ。硫黄と水銀の比率が悪すぎる。』

『うるさいなー…だったら自分でやりなよ。』

『いや、私、文字通り手も足も出せないから。』

『じゃあ黙ってて。』

『…。』

暫しの沈黙

『…本当は何が作りたいんだい?』

再び口を開いたホルマリン漬けのそれは彼女に尋ねる。

『だから…、今流行ってる病気の特効薬を…』

『嘘だな。』

それの一言で彼女の手が止まる

『根拠は…?』

『勘、いやそのフラスコを見ればわかる。それは薬ではなく鉱物だ、君もわかっているのだろ?あの病は錬金術では治せない。だからこそ、何を作っている?』

彼女は口を噤む。

『自ずでは認めたくないと?では、私の口から教えてやろう。それは賢者の石だ。』

フラスコの中のそれは続ける

『君には知識も力も素質もある。ただ、決断力がない。それだけだ。私の知恵を貸せば君の欲しいモノ、求めているモノなど容易に造ることが出来る。』

そう、彼女は自らの力ではこの病を終息できないことを知っていた。

彼女が、錬金術師がこの病を治めるには、あの万薬、賢者の石を作る他ない。

しかし、天才と謳われた彼女もまた、その製造過程で頭を悩ませていたのだ。

『…悪魔に魂を売れって云うの?』

疑うように彼女が尋ねる

『無論、そう思ってくれても構わない。但し、契約するのは私ではない、本当の悪魔だ。私は”にんげん”だからな。』

暫く動かなかった彼女だが俯いたままゆっくりとフラスコに手を伸ばす。

『歓迎するよ、Ms.ホーエンハイム。新たな理の理解者よ。』


刹那フラスコは凄まじい瞬きを帯び、(おびただ)しい情報が頭を過る。

それら全てが自分の頭に直接叩き込まれる感覚で、頭が割れそうだ


目も開けられぬ瞬きの中、頭痛に苦しみながら床に沼田打(ぬたう)


そして目を開いた世界は、数秒前のそれとは全く別のモノとなっていた。


床の木々、家具、書類に鉱石。

それらの構成物質が具に、手に取るようにわかる。

『これは…あんたが…?』

彼女は恐る恐るフラスコに尋ねる

『まさか、私にそんな力はない。それは君の内にあった力だ。後は…』

それからフラスコの中のそれの言うことに従い、揃えるべきものを揃えた。


『本当にこれだけだいいの…?』

沸々の煮える鍋の中を覗き、顔を(しか)めながらホーエンハイムは尋ねる

『これだけとは?』

『だって…水銀に…牛の(こやし)に、干鰯(ほしか)、子どもの髪の毛に、山羊の乳って…こんなんじゃ賢者の石どころか…まともな薬も出来ないよ…?』

『うむ、そうだね。では、最後の材料を提示しよう。』

フラスコの中のそれはニタリ笑いでそう告げる

『最後の材料?』

彼女が尋ねる

『それは君だよ、Ms.ホーエンハイム。君が材料だ。』

『えっ…?』

『いや、正確には君の命に取って代わるモノ、君の血液だ。』

ホーエンハイムは言われるがまま、指先を切り鍋の中に血を数滴垂らす。


『さぁ、時来たれりだ!』

フラスコ中のそれは嬉々と叫ぶ

鍋の中は泡立ちが激しくなり(やが)て、小さな光が見え始める。

『本来、あれを作るのに大した材料は必要ない、あれは詰まる所、膨大なエネルギー体だ。エネルギーを作るのに最も手っ取り早いのはエネルギーを使うことだからな。賢者の石とは元来、無数の命を、血を使って作られていた。だが、君ほどの素質と、力があれば…』

鍋の中の光が強まり、目を開いているのが辛くなる

『君一人を媒介に賢者の石を造ることが可能だろう。』

ついに鍋は粉々に砕け飛び、その中からえも言えない琥珀色の美しい石が出てきた。

『これが…賢者の石…』

恐る恐る近づき、ゆっくりそれを手に取る

石は(ほの)かな幾筋もの光を帯びていた

『これで、ようやく…国の民を…』

彼女が安堵の息を吐いた刹那、それは起こった。

強い地鳴り…地震か?

それにこの感覚…

彼女は徐に窓を開けた。

そして目を疑った。

宙に大きな穴が開いている。

それは星空とは比べものにならないほど黒くただ暗い穴、いや、正確には門だ。

金色で拵えられた絢爛(けんらん)な門から一筋の光が帝都に落ちる。

刹那、凄まじい、轟音と共に周囲の家屋は吹き飛んだ。

その後も雷霆は収まることを知らず、幾度も落ち、この国を灼いた。

人々は逃げ惑うが、それも無様に蠢めく羽虫の様にただ絶対的な力に消されて行く。


崩れ落ちた家屋から何とか這い出たホーエンハイムはただ、その様を呆然と見ることしかできなかった。


『どうして…こんな…』

声にならない声でそう繰り返す

『これが…君が望んだものだ。』

あの声が、フラスコの声が聞こえた

振り返ると、それは転がっていた。

フラスコが砕け、ホルマリンが溢れ、それは今にも朽ちそうな程弱っていた。

『あんたは…知ってたの…?こうなることを…』

それは答えることはなかった

『答えてよ!!』

ホーエンハイムの叫びが雷霆と重なる

(ことわり)踏襲(とうしゅう)し、神棚(かみだな)の中に仕舞い込むことなど、私から言わせてみれば退化の一途を辿るに等しい。人は、(まれ)に理に触れなければならないのだ、それが、私という存在であるにせよ、君という存在であるにせよ、人は理に、神に挑み続けなければならない。君は奇跡を垣間見(かいまみ)た。なら話は早い、君は理から外れたのだ。』

雷霆が止まぬと共に今度は地鳴りが始まる

見上げると、森の方、巨大な何かが歩いてくる。

巨人だ。それは鎧で身を固めた、幾つもの腕を持つ巨人だった。

それは天に開いた巨門に目掛けて槍を投げようと構える、が、其れより速く、雷霆は巨人を襲う。

巨人は倒れこみ動かなくなった。

『然らばだ、ホーエンハイム。夢路の先の三叉路で、また会おう。』

それが、最後に聞いたそれの声だった。




その後、事態の収拾に来た教会の人間達が、崩れた家屋の下敷きになっていた私を見つけ出してくれた。

彼らに事の顛末を語り、状況判断は難しいとされ、私は水の国に暫く留置された。


賢者の石、それらの力やそれを使うとどうなるか、私が、鉄の国が身を以て体現した。

教会の上層部は不死となった私を匿う体で、私に教会への協力を申し出た。

彼らも賢者の石の力に興味を持ったのだろう。

しかし、これだけの力を本当に持て余していてよいものか…?

いっそ、封じて貰った方が…と思慕に暮れる日が続いた。


そんなある日、(かつ)て教会の聖騎士をしていた男に言われたのだ

『四方の魔女の西の席が開いているが、どうだ?なってみないか?なに、その石との向き合い方だってこれから先ゆっくり考えて行けばいいさ…』と

正味、魔術はカラキシだったし、魔女と名乗れるほどの品格も無かった。だが、

匿ってもらう上に階級まで頂けるのだ。

断る理由などあるはずが無い。

君も知っている通り

教会はいつの世も中立を貫いている、流派、派党はあれど根抵にあるのは秩序と中立だ。

そうなるよう、歴代の聖騎士が選ばれてきたのだから。

国々が戦争を始めても教会は口を出さないが、その国々の教会が争うことは決してない。国の喧嘩は、国の軍だけでやっていればいいと言うことだ。民は教会は関係ない。

だから戦時中だとしても、他国同士の連携が難なくこなせる。

無論、初めからこんなに上手くいった訳ではない。

私が加わった当初も、様々な派閥が教会内で揉めあっていた。

教会も戦争に参加するべきだとか、人種主義がどうとか、あの国とこの国は教会と云えど協力することはできないとか…

そう言う問題を長い年月をかけ、虱潰しに取り組んできた。

そして今の教会がある

私はずっとそれを見てきたんだ。




廃都市の落日は淡々と茜を唄い

音無き誰そ彼の調、西の此方に沈んでゆく


窓の外が唐紅に染まり、茜の一閃が部屋を照りつける。


『少々、話し過ぎたかな…』

ホーエンハイムは夕焼けに目を移し呟く


『いえ、大体の辻褄が合いました…』

ヤタは足元のゴーレムを撫でながら言う

『あなたが見た空の門…それを俺たち天門(あまのと)と呼んでいます。俗に神が顕現する門とも。恐らくその雷霆は…』

『あぁ、わかっているともさ…。』

ホーエンハイムは黄昏に微睡んだ目で呟く

『わかっているとも。けれど、それらは私がするべきだったのだ。私が径庭(けいてい)をつけるべきだったんだ。詰まるところ、我々は機械仕掛けの神々なんてお呼びじゃないってことだよ。そんなものに頼りのうのうと生きるのはとても惨めな事だよ、ヤタ。』

『デウス・エクス・マキナ…絶対的なそれらに争う性。そんなもの持っていても蛮勇(ばんゆう)にしかなりませんよ。』

『いいじゃないか。好きだよ、蛮勇。少なくともこんな惨めな生き方よりは。』

日の傾きは増し、ホーエンハイムは蝋に火を灯す。


『最後の質問いいですか…?』

ヤタの質問にホーエンハイムは振り返る

『メルは…本当に貴女が…?』

彼女の顔が暗くなる。

『また、少し長い話をする事になる…』

そう呟き、彼女はひとりでに語りだす


5年ほど前になるか、教会からある依頼が来た。

『特別な人形を作って欲しい』と

それは、今までのゴーレムでは無く、人間に限りなく近づけた、いや、人間を作って欲しいという依頼だった。

人造人間(ホムンクルス)…レプリカントと呼ばれるそれらを作るという事がどう言うことか、よくわかっていた。

それ故、”人間を造る”と云う行為は錬金術師たちの中でもタブーとなっていたのだ。

それは生命を、理を、我々が探求しているそれら全てを冒涜(ぼうとく)するに等しい行為だ。

だが、それらはある種の諦めであったのも事実だ。

如何なる手を用いようと、錬金術では、物と物の分離、接合だけでは命を造ることなど不可能だと。

我々錬金術師の中には命を、最も複雑なエネルギーと形容する者もいる。

石と意思を幾ら編んだところでそれは作り得ない。そう結論に至った。

至った筈だった。

当初、私は断ろうとした。

ホムンクルスなんて…作り得ない、それは人の領分を超えていると。

しかし、彼らは一つの可能性を提示した。

『賢者の石ですか…』

ヤタの質問に彼女は小さく頷く。


勿論、その事を頭に入れてなかった訳では無い。あれを使えばそれらが可能だという事も悟っていたさ、なんせ(ことわり)の片鱗、奇跡の石だからな。だが、あれを使うということで再びあの雷霆を呼ぶのでは無いか…?

そんな不安が過ぎったのだ。


そんな不安など露知らず、彼らは依頼だけを残し、去っていった。


そして、あの日作ってしまった。

鉄くずで(こしら)えたものでは無骨なそれでは無く、優しく柔らかい肌、血の通う体躯、そして凛々しい眉目。


それは、人として完璧な身体だった。

五臓六腑は正常に稼動し、身体をつつ隈無(くまな)く脈打つ、それらは紛れもない生き物だった。


ただ一つ、あることを除いて。

それには心が無かったのだ。

私には、心を作り得なかった。

いや、作れなくて正解だったのだろう。

それは、人の踏み入ってはいけない領域の奇跡、理のみが作す御技(みわざ).なのだから…


心のない、人の形をしたそれを

私はなんと呼べば良かったのか…

どう接すれば良かったのか…

言葉を交わさず、意思を持たず、なにもすること無くただ座り、呆と窓の外を眺めていたそれに、私は何と言葉をかけたら良かったのか。


依頼主は(むし)ろ心は無いほうが良いと言ってそれを引き取って行った。

人形が連れていかれるその一瞬、彼女と目があった。

その時、色の無い人形の目に何かが灯ったような気がしたが恐らく気のせいだ。

私にはただ罪悪感だけが残った。

人として許されざる禁忌を(おか)した。

あの子を完璧に…心まで作ってやれなかった。

それらはとても小さく、それでも確実に心の何処かで私を(むしば)み続けてきた。


それが何に使われたか私は知らされていない。


知りたく無かったからな。だが…


『君に連れられた彼女がそれだと確信した。』

ホーエンハイムはゆっくりヤタに目を移す

『彼女を見つけたのは山の国の辺境、水害の後で崩壊した集落です。』

ヤタはゆっくり口を開き続ける。

『決壊した門の(たもと)に倒れていました。鎖で縛られて。恐らく人柱として埋められていたのでしょう。心の無い人間なんて、人柱にこれ程の逸材は無いですから。しかし、皮肉なことに守る筈だった人々は皆死に絶え、彼女一人生き残ってしまった。』

『それを君が助けたのか…?』

『初めは本当に生きているか死んでいるかもわかりませんでしたよ…、呼吸はある、瞳孔も正常、それなのに言葉に反応が無い。ショックで心が死んでしまったのだと思いました。だから…』

『だから…?』

『僕も禁忌を冒したんですよ。あの子の中に新しい心を魂を入れた。それは、墓師の在り方にも、人の生き方にも反する行為…、正直、何故彼女にそこまでしたのかと問われれば答えることが出来ず(ども)るでしょう。けど、その選択に間違いは無かった。そう確信していますよ。』

『心って…そんな一体誰の…』

ホーエンハイムは尋ねる、ヤタは静かに目を瞑り

『嘗て、僕達墓師が棺に仕舞い込んでいたものですよ…』

とだけ呟いた。

『…!』

ホーエンハイムは驚きを隠せない様だったが、やがて落ち着きを繕い

『そうか…』

と呟いた。

暫くの沈黙、重く、沈んだ時間の堰を切るのはホーエンハイムだった。

『運命は数奇なものだな…』

『メルシェには両親は先の水害で亡くなったとだけ伝えてあります。それ以前の記憶については喪失したのだろうと吹き込みました。恐らく、貴女の事を覚えていないのはそのせいかと…』


『私に彼女の親を名乗る資格は無いよ。彼女が心を持ってこうして生きている。それだけでこれまでの鬱屈などどうでもよくなったよ。ありがとう、ヤタ。彼女をメルシェをここへ連れてきてくれて。』

ホーエンハイムは深く頭を下げながら云う





方やその彼らの談を扉の向こうで盗み聞いていた少女がそれらを知り、何を感じているか、彼らには知る由もないのだった。

如何だったでしょうか…?

この話は面倒な部分もありましたが、書いててとても楽しかったです!

良かったら続きも楽しんでやってください!

あと感想、ブクマ随時お待ちしております!

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