表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
MERSHE  作者: たなかなた。
1/21

雪旅

ある旅人の話しさ、少し長くなるけどいいかな?

冴ゆ月が空に浮かぶ雪原の朝ぼらけ、満腔の空の下、奇妙な二人が歩いていた。

青年と少女の二人組で、青年は背中に巨大な十字架を背負い手にはトランクという格好で、方やもう一方の少女もその背丈と同じほどの大きさの背掛け鞄を背負っている。


何故、厳冬の早朝、道行く人もいない寒空の中、彼らが歩いているのか知る由もない。


ただ、雪のそぼ降る暁の夢。

積もる粉雪が枝穂に募り

秋でもないのに草の垂れ穂が頭を垂れる


こんな寂寥(せきりょう)の世界に。

そんな彼らがいても、何ら不思議ではない。

そう思えてくる。


青年と少女は、薄々青くなって行く空の先と雪原のその隅を探すように静かな視野に目をやると、足を止めた。


師匠(せんせい)…?』と少女が尋ねる。

『人だ…』青年が指差す先に、僅かだが、雪に埋もれた着物が見えた。

二人が駆け寄ると、倒れていたそれは男で、生きていることを伝えるように、

鈍く(うご)めく。


『生きてますよ!』少女が叫ぶと

青年はゆっくりと背中の十字架を下ろすと代わりに雪に埋もれていたそれを掘り起こし背中に担ぐ。

『至極運のいい事だなぁ…全く…』

青年は苦笑いでそう言い

再び雪原の中を歩き出した。

無論、少女の荷物は背掛けに

十字架が増えていた。





それから半刻ばかり歩き川を見つけるとそれを下り、村へ着いた。

村はその男の村だった。

最初は訳も分からなかいような面持ちっったが仲間を助けられたこともあってだろうか、村人たちは怪しげな二人を歓迎した。




誰一人として男に話しかけるものはいなかった。




『この村に医者はいるか?軽いが凍傷を負っている。』

背負った男を下ろし

青年が叫ぶが名乗り出るものはいない。

村人たちによると、この村には医者はおらず、渡りの薬売りがたまに来る程度だと言う。


青年はため息を吐くと村人に男の家まで案内させ、自分が診ると言いう。


『薬はある。幸い壊死は免れるだろう…』


『師匠…私の方が死にそうなんだけど…!』


振り返ると少女が十字架と背掛けを背負い血眼になっている。

その足はプルプルと震え、今にも倒れそうである。


『あっごめん…十字架(それ)はどっか立て掛けといてくれればいいよ。』


青年はサラッと受け流すと

男を背負い小屋に入っていった。



ぬるい湯を沸かし、布を浸し、患部に掛け、解凍を待つ。


青年は医者ではない。

十字架を背負った医者など聞いた事がない。

だが、処置は適切で薬も持っている。

そんな彼は何者か。







どれほどの時間が経っただろう。


ずっと、長い夢を見ているようだった。


暖かくて、甘くて、心地よい、例えるなら…そう、春の日和のような…

春の野を子供の様に駆け回る、鳥がさえずり、、忘れてしまった彼女が踊っている、そんな白昼夢。


待ってくれよ、楽しそうだな

俺も一緒に…




けど、わかってしまう。

あそこに行くと…もう帰ってこれないのだと。



『目が覚めたかい?』

聞き覚えのない声にハッと我に戻る。

男とも女ともつかない中性的な声。

声の方を見ると、青年が腰かけていた

少し長めの黒髪で色白の顔

目には隈がある。


『ここは…』男が尋ねようとすると

『あんたの家だろ?』

『俺の家…?』男は不思議そうに首を傾げる。

『記憶が混同してんのかい?、まぁ、いいや。勝手に上がらしてもらってるよ。』

『俺は…何を…』

『行き倒れてた。』

『他に…他に誰か居なかったか…⁉︎その…女が…一人…!』

『まぁ、落ち着きなって…女…?いや…見てないな…行き倒れてたのはあんただけだ。』

『そうか…』男は肩を落とす。

『そう悲観しなすんなって…』


青年が声を励まそうと立ち上がった途端

勢いよく扉が開く。

外から、齢十五ほどの少女が入ってきた。


この辺りでは見たこのない着物を着たその少女は

『炊けました、師匠!』

っと満面の笑みで飯盒を見せてくる。

『なにはともあれ…朝餉にしましょっか』

青年は軽い口調でそう言った。





『助けてもらった礼をまだ言ってなかったな…ありがとう…。』

男は深々と頭を下げる。


『いや、あんたの運が良かっただけさ。あのままピクリとも動かなかったら、俺達はあんたを死体だと思って埋めるとこだった。』


『埋める…?そういや、あんたら旅の商人か何かい?、随分な荷物の様だが…』


『俺たちは墓師だ。』

味噌汁を啜りながら青年は答える。


『墓師…?聞いた事ねぇな…なんだそりゃ?』


『世界をあちこち旅してあんたみたい行き倒れを助けたり、死んでたら埋めて供養したりする仕事さ。まぁ、本来は戦場に赴いて死者を弔うのが仕事なんだけどな…』


青年はそう答えると、男の子後ろを指差す。

振り向くと、向こうの壁に身の丈はある巨大な十字架が立て掛けてある。


『あんたが死んでたら、あれがあんたの墓になってた訳だ。』

青年は笑いながら語るが

『冗談に聞こえんぞ…』

男は茶を啜りながら云う。


『まぁ、ともあれなんだ、生きててよかった。仕事とは言え、見ず知らずの人間を勝手に埋めるのは気分のいいもんじゃないからな。』

青年は烟草(たばこ)に火をつけながら云う。



『そういや、あんた名前何て云うんだ?』

男が尋ねる。

『俺か?俺はヤタ。ヤタって云う。それで…』

青年は隣で朝餉を必死に貪る少女に目をやる。

『こっちはメルシェ。』

『メルシェです!』

米粒を頬張りながら少女が名乗る。


『それにしても埃まみれだな…一体何日家を空けてたんだ?』


青年の問いかけに男は箸を止める


『まだ、思い出せんか?』


『あぁ…すまない。』


少しの沈黙が続く。

壁の支柱に募る埃をなぞるように

寒空の空気が窓から入ってくる。

その寒風に煽られ、机に連なる紙切れが(なだ)を切るように床に落ちる。


『小説かい?』

青年が尋ねる。

『あぁ…俺が書いた。』

男はゆっくり口を開く

『昔からな、字を書くのが好きだったんだ。それで物書きを目指していたんだが、遅筆で頭も悪い俺では高名な物書き達には追いつけん。書いた小説は売れず女房も家を出て行った。』


『それを追いかけてああなった訳か…』

『俺はただ、人に喜んで貰える、感動して貰える。そんな文が書きたかったんだ…なんで、なんでかな…書いても書いても、誰も喜ばないし、感動もしてくれない。つまらない羅列だと言われたこともある…才能など、あると思ったことなど一度もない。けど、それでも書き続けたいんだ!』

叫ぶ男に青年は葉巻を手渡す。

『俺は物書きじゃないからな。詳しくことは知らんし、知る気もない。ただ、あんたの場合まだ書き出して間もない冒頭な訳だ、物語は佳境に入らんとどうなるかわからんぜ?』

青年が火を(かざ)し、男の葉巻に火を点ける。


男は葉巻を一吸すると、勢いよく()せた。

『⁉︎不味っ!!なんだこりゃ⁉︎』

困惑する男を見て青年は大笑いをした。

『はっはっは!不味いだろ!これはここよりずっとずーーっと西の国の葉巻さ。』

『不味い!不味すぎる!これ、本当に人間の吸える煙草か…?』

男が怪訝な目で青年を見る

『この不味さがいいじゃないか、こうやって不味いものを()ってると生きてるって実感湧くだろ?』

『生きてる…か…』

男が懐かしむような口調で云う。

『それとあんたの小説な、駄作ばかりじゃないと思うぜ?』

青年は机に置かれた紙束を(すく)い扇ぐ。

『これなんか、この地方特有の動植物、気候、現象、風土が上手く物語に馴染んでる。確かにこの地方じゃ当たり前すぎて売れないかもしれんが、他の国に行けば話は別だ。知り合いに翻訳師がいる。話をしてみないか?』

『頼めるか?』

男は笑っていた。

『無論だ。』

ヤタは紙束を封筒に包む。

『ありがとな…』

不意に消えいるような声に振り向くとそこにはもう、誰も居なかった。


『師匠〜、お皿洗い終わりましたよ〜?あれ?男の人は?』

エプロンを外しながら水場からメルシェが顔を出す。

『あの雪原に戻るぞ。』

青年は静かに天井を見上げ云った。


後に村人達は教えてくれた。

あの家の家主の男は女房を追って出て行ったきり2年近く帰ってきていないと。

それでも、村長の情けで家は取り壊さず、そのままにされていたらしい。

いつか帰ってくるその日まで。と


村長は死んだその男の父親だった。


村長は深々と青年に頭を下げ、息子達の墓を作ってやって欲しいと懇願した。


青年はそれを快諾した。



『しかし驚きましたね!あの人が幽霊だったなんて。』

メルシーは巨大なリュックを揺らし歩きながら云う。

『あれは半霊だな。未練が強すぎて生気に近いものを出していたし。(だから気付かなかったのだけど。)この辺か…』


青年はゆっくり十字架を降ろし地面に浅く刺しこむと、指を翳す。

指を振り下ろすと十字架は勢いよく地面に深く食い込んだ。




『どういたしまして…っと。』

『?』

『なんでもないさ…さて、次はどんなとこかな…?』


太陽が頭上にかかるは雪原の中、二人は再び歩き出した。




取り敢えず1話…!

ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!

もし興味を惹かれたなら是非、次のお話でお会いしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ