7,夢は叶わず(7)
「あ、あぅあぅッス……。もしかしてッスけど、メニューのプリンだったッスか」
「そうね、あたしの極上プリンだったわね。今から数年前に限定発売されたお一人様一個だけの限定プリンだったわね。
わざわざあたしの本体で歴史に影響が出ないようにしっかりと細工したうえ、目立たないように地味な服を着て、さらにわざわざ目立たないように地味なメイクをして。さらにさらに、二時間も行列に並んで買ってきた限定極上プリンだったわね」
メニューの極大なる力がないと、過去に干渉しながら歴史の分岐を発生させないなんてことはできないッス。
それも滅多に出さないメニューの本体が直々に動いたとなるとこれは歴史が動く事態ッス。
そんな歴史的なプリンをうっかり食べてしまったとなると……。
やばいッス、あーし終了ッス。
「が、がくがくぶるぶるッス」
「さーて、『限定極上』プリンを食べ損ねちゃったあたしはどうしたらいいかしら。もしかしてあたしはシノービのためにお使いに行っただけだったのかしら」
「も、申し訳なかったッス。すみませんでしたッス。ごめんなさいでしたッス」
「まったくしょうがないわね。でも今回のことは貸し一つよ、あとできっちり返してもらうわよ」
「な、なんでもするッス」
「あら! 言ったわね何でもするって。フフフー」
何だかイヤな予感がするッスけど、許してもらえるなら仕方ないッス。
「まあ、限定極上プリンのことは今は置いといて。あたしはあの子を見てくるわ、また来るわね」
「い、いつでもどうぞッス……」
◇
それからのあーしは必死だったッス。
テラッチの文化ファイルから『数年前に限定発売されたお一人様一個限定極上プリン』をくまなく調べたッス。
けど、見つけられた物はあーしが食べたものとはちょっと容器が違うッス。これでは謝罪できないッス。
「ペーター協力して欲しいッス」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「珍しく沈んでるねシノービ、できることなら協力するから言ってごら~~~ん♪」
「この、空になったプリンの容器から、元のプリンを再現して欲しいッス」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「おぉ、それは難問だネー、でもできる所までやってみるヨ~~~♪」
「ありがとうッス、ペーターだけが頼りッス」
高速戦闘系トップのペーターは生産系の趣味を持っているッス、料理もそのうちの一つだったはずッス。
一般的なプリンの作り方はテラッチの文化ファイルからすぐにわかったッスけど、限定極上プリンのことはわからなかったッス。
手がかりは少ないッスけど、極上な材料を使えばペーターの実力ならきっと……。
藁をも掴む思いで頼んでみたッス。
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「うーん。容器に残った香りからでは、これが精一杯かナ~~~♪」
ペーターが作ってくれたプリンは三個、でもどれも限定極上プリンには何かが足りない気がしたッス。
「ありがとうッス、ペーターの作ってくれたプリンもおいしいッス。すごくおいしいッス。けど、何かが違うッス。面倒なことをお願いしてすまなかったッス」
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「落ち込まないデー、もう少しヒントがあれば作れるカモだから諦めないでネ~~~♪」
落ち込んだッス。
メニューにプリンを返して、ついでに自分ももう一度あの味をと、できることならまた何度もと企んだッスが叶わぬ夢だったッス……。
仕方ないのでコタツでだら~っとするッス。
◇
ほほぅ、フィールドクエストッスか。
テラッチはベイスとペーターの講習で、ある程度の実力が認められたッス。
そこで前に話していた日用品クエストに行くことになったッスが、これがテラッチの希望してた『剣と魔法のファンタジー異世界』に行って、決められたモンスターを討伐するって物だったッス。
今回のおもしろポイントはベイスが父親役ってことッスね。
赤黒い顔で照れながら『ち、父親役かよぉー』とか言ってたのは笑えたッス。
討伐対象は『岡マリモ』、子供が踏んでも倒せる最弱モンスターッスね。あれならいくら初心者のテラッチでも負けることはないッス。