2,ぼろタマ受け入れ準備中(1)
――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン
「これだネー、シノービありがとう。使いやすそうに練られてるヨ~~~♪」
ぽかんとしているうちに粘土を持って行かれたッス。
変なBGMと共に踊りながら現れて、即去って行ったのはペーターッス。
首脳陣の高速戦闘部隊のトップで、軽快な動きと誰も追えない速度での攻撃を得意とする部隊ッス。
長い手足とすらりとした高身長ッスけど、髪型は好みじゃなかったッスねー。
調べてみたらソフトリーゼントって言うらしいッス。
変な踊りは……軽快な動きの練習にダンスを取り入れたッスね……多分きっと。
暇になったので、ケンサンと一緒にぼろタマの調査をすることにしたッス。
もちろん粘土で汚れた手は綺麗に洗ったッスよ。
綺麗なおねいさんは常に清潔を心がけるものッスから。
むむ、ぼろタマがあのお方との初対面で失礼なことを言ってるッス。
分体とはいえあの神々しいオーラを受けて、あの美しいお顔を正面に見て、まず第一声が『ちかっ』とか考えられないッス。
キモきちゃないだけじゃなく、心もねじ曲がっているッスね。たたき直さないとダメッスね。
あーあー、天使とか女神とか、もっとさらに超越した存在だとわからないッスかねー、きぃーっ。
下等なぼろタマの思考から、またおかしなことが漏れ聞こえたッス。ぼろタマのくせに主人公とかチートライフ始動とか、もう馬鹿かと阿呆かとッス。
「シノービ、賑やかしすぎますよ。今のところの結果は速報でお伝えしましたので、もう戻って落ち着いて下さい」
「わかったッス、帰るッス」
おでこの広いケンサンの顔を見たら落ち着いたッス。
大人げが無かったと反省もしたッス。
できる女は広い心で下等なぼろタマにも許しを与えるッス。
◇
そのまま帰ってもつまらないッスから、ぼろタマのために作っている島を見に来たッス。
『(仮称)ぼろぼろボコボコのタマシイ専用雲上の孤島』と名付けられているここは。
あ、今『(仮称)くもりミイラ専用雲上の孤島』に名前が変わったッス。ぼろタマはくもりミイラに仮称が変わったッスね。
お天気マークのくもりにぼろ布巻かれてミイラみたいに見えるからッスね。ぴったりッスけど、ちょっと長くなって面倒ッスね。
で、くもりミイラ専用――、めんどうッスから島でいいッスね、島を作っているのがベイスッス。
あのお方が、ぼろタマを訓練することになりそうだから、専用の隔離施設を作るように、と命じられたらしいッス。
ベイスは首脳陣の重戦士系部隊のトップ。重たい攻撃と、どんな攻撃も防ぐ守備を併せ持つ頼もしい部隊ッス。
島はできてるみたいッスけど、ベイスが居ないッスね……。
「おうシノービ、様子を見に来たのか?」
「ブフォーッ。二人目のおっさんも禿だったッス、プププー」
「はげじゃねーよ! スキンヘッドって言うんだよっ!」
もう一つ別の島を作っていたらしく、雲の下から飛び上がって現れたベイスは、やたらでかい黒人禿アンド髭のマッチョだったッス。
そうそう、『雲上の孤島』ってのはベイスが付けたッス。なんかいい名前思いついたぞ、とか言ってたッスけど。
……島増やしたら孤島じゃなくなるッスよね。早速増やしてるッスけど、いいんッスかね?
「あのお方に『ベイスはこれとこれとこれ』って勝手に選ばれたんだよ。ったくよぉ、オレはなかなかいいなと気に入ってたのに、笑うことはねぇだろうがよ」
「わ、悪かったッス。ケンサンがおでこが頭頂部まであるアレだったッスから、ついうっかり笑っちゃったッス。ププッ」
「くそぅ、ふさふさはペーターだけかよ」
「お!」「むむッス!」
ベイスの黒光り禿を笑っていたら、ぼろタマが面白いことを言い出したッス。
「『剣と魔法のファンタジー異世界』に転生希望だとよっ」
「あのお方はこれを予想してここを作らせたッスかね?」
「かもしれねぇな。ってーことはだ、オレ達に修行の指導をしろって話になるだろうな」
「あー、めんどうッスね。楽な所にまわして欲しいッス」
「おまえシノービだから忍術とか教えるんじゃねぇか? しらんけど」
「え?」まさかの、まさかのそんな単純な理由で付けられた名前?
そういえば、あのお方には【禁則事項です】で安易な名前を付ける、おっ! なにやら触れてはいけないことに触れてしまったッス。
あのお方のやること、きっと深いお考えがあるに違いないッス。
「じゃあ、ベイスは何を教えるッスか?」
「あーオレは何だろうな、体術とか格闘だと楽しそうだな」
「ありそうッスね。ペーターが剣術とかッスかね」
「あいつの剣は見えねぇからな、動きも追えねぇし。教わるほうとしてはどうなんだろうな」
「なるほど、ペーターは独特ッスからね。他の首脳陣メンバーは……」
「とりあえず三人じゃねぇか? あとあるとしたらケンサンくらいだろうな」
「あーしは確定ッスか……」
「だな、あきらめろ。ガハハハハ」
ぼろタマのせいで面倒に巻き込まれたッス。