10,うやむやにできなかったでござる(14~17)
テラッチの剣捌きと、防御魔法もだいぶうまくなったッスね。
練習相手に用意された案山子の攻撃を受けても、あんまり痛くないように工夫してるッス。
むむっ、さらにテラッチの体表面を動くちっちゃい盾状の魔力が!
も、もしや! あれはテラッチの文化ファイルで見たことがあるッス! ピンポイントバリアーッス!
中で三人のオペレーター女子が、コロコローっとトラックボールを転がして動かすちっちゃいバリアッス。
テラッチの中にオペレーター女子は居ないッスから、自力で操作してるッスよね、すごいッスね。
テラッチの変な風に魔法を使う才能は飛び抜けてるッス。
ふぉっ! 緊急クエストが発生したッス! なんだなんだッス。
ほほう、盗賊の洞窟から村人を救出するクエストッスか、しかもiフィールドとは……。ははーん、この前のコタツ飲み会でちらっと話したあれッスね。
結果はすぐだったッス。テラッチは全くいい所なく、入り口であっさり撃沈したッス。
あーしがテラッチだったらどうしたッスかねー。ふーむ、やっぱり各個撃破ッスかね。
『お姉ちゃんが怪我をしてしまって! 助けて下さい』とでも言えば、見張りの盗賊なんてチョロっと釣れるッス。
あとは村人を守りながら、ばったばったとやっつければいいッス。
それにしてもちゃんと防御していれば、こんなすぐに終了しないはずだったッスよね。防御魔法も覚えているッスから、ちゃんと使えば即終了にはならないはずッス。油断しまくりだったッスね、ダメダメッスね。
ここはガツンと厳しく指導しないと、テラッチはつぶれてしまうッス。
一人で熱くなっていたら、メニューとベイスが部屋にやって来たッス。
「今の緊急クエストの結果。シノービも見てたよな」
「もちろん見てたッスよ、甘々過ぎてちょっとがっかりッス、…………ござる」
メニューが口パクで『ご・ざ・る』と言ってたッス……。
圧力を感じたッス。仕方ないのでちっちゃい声で付けたッス……辛いッス。
「んーだがよぅ。今のタイミングでこのクエストは厳し過ぎたんじゃねぇかなっと、ちょっと後悔してるんだよ。クエスト用意した俺が言うことじゃねぇかもだけどさ」
「いいのよ。早い内に現実を理解させて、今後進む方向を決めちゃたほうがあの子のためになるでしょ。現実感の欠如はベイスがずいぶん指摘してたじゃない」
「今回のは死亡イベントってことッスね。死んで蘇って強くなるっていうロマンが、テラッチの文化ファイルにあったッス、…………ござる」
「ガハハ、どんなロマンなんだよそれは」
「今回のクエストでわかってくれればいいけど、多分無理でしょうね……。ベイス、次の緊急クエストの準備を頼むわね」
「了解でさぁ」
《――♪ドゥンチャカドゥンチャ、タカタカターン》
《イベントクエストはダンス講座の後にお願いしますヨ~~~♪》
なるほど、失敗クエストのあとじゃテラッチも集中できないッスもんね。
でも唐突に割り込んできたBGMに、ちょっとイラッとしたッス。連絡にまでBGMはいらないッス、ペーターに同情はしないッス。
「そういやシノービの講習も始まるんだってな」
「忍術じゃなかったッス。ベイスのデマに踊らされたッス」
「おいおい、デマ言ったつもりはねぇぞ。ちゃんと『しらんけど』って付けただろうが。そうそう本題だがな、シノービがあの坊主を指導するなら、飛び道具を持っていると便利だぞ、いや! 持っておくべきだ」
「わかったッス、考えておくッス」暑苦しいのでテキトーに追い払ったッス。
◇
テラッチはダンス講座合格もらったッスね。
ちゃんと切り替えできたみたいでよかったッス。
失敗したことをいつまでもグジグジ悩んでも仕方ないッス、次につなげる糧にしないといけないッス。
今は悩むがいいテラッチ! へなちょこテラッチ卒業への道を進むのだーッス。
一人反省会をしていたテラッチ。ずいぶん長いことぶつぶつ言ってたッスけど、なんか決意したみたいッスね。
『頭使って手数を増やし甘えない』ッスか。それにへたれを直すってーのを加えたほうがいい気がするッス。
メニューがベイスに攻撃と弱体魔法を教えるように指示してたッスから、今後のテラッチにこうご期待ッスね。
いろいろベイスが教えてるッスけど、あーしが教えることって残ってるッスかね?
もしかしたらほとんどベイスに任せて、かなり楽できるかもしれないッス。ベイスも教えるの好きそうッスし、これはいい傾向ッスよ。
《みんな神殿にあつまれー》
おっと、メニューから呼び出しッスか、テラッチ会議ッスね。これは急いで行かなければッスね。
◆
メニューの神殿に転移してきたッス。一番乗りッス。
これで心証アップで『ござる』をうやむやに……、無理ッスね。
「シノービ、こういうときはちゃんと制服で来ないと駄目ね」
「し、しまったーッス」
ついうっかり勝負服を忘れていたッス。
決して記憶から消去しようとしていたとかそんなことはないッス。
急いで戻って忍者服に着替えて戻ってみたら、ケンサンとペーターが座っていたッス。
心証アップ作戦のはずが、焦りすぎてダウンしてしまった気配がするッス。しょんぼりッス。ダメージが大きいのでぐでーっとするッス。
メニューの神殿中央部は、六本のセカイ樹に囲まれた広場になってるッス。
セカイ樹は六本全て合わせてセカイ樹で、一本一本は正確には枝と言うッス。でも面倒なので何番セカイ樹という言い方が定着してるッス。
一番セカイ樹の脇からベイスの姿が見えてきたッス。
霞の中からでっかい黒光り禿アンド髭筋肉が現れるのは軽くホラーッス。子供に見せちゃいけない光景ッス。
悪いことしてると巨大な黒光り禿アンド髭筋肉が来るよー、とか言えば躾カンペキな子供が育つ予感ッス。
プププッ、ペーターのBGMがついに指摘されたッス。
確かに毎回あの踊りと曲が挟まると、会議のテンポがおかしくなるッスね。メニューさすがッス。
「さて、みんなそろった所で会議を始めるわよ。まずは、今日からシノービが斥候の教官として配置についてもらうことになるんだけど、準備はできてる?」
早速呼ばれたッス。キンチョーッスねー。
無難に返事したッスけど、しっかり『ござる』を指摘されたッス。
これはもう誤魔化しようがないッスから、今から忘れずにやらないと更なる罰が……。ガクブルッス。
「やっぱこの格好なんッスか? でござるか?」
「斥候と言えば忍者! 忍よSINOBI。女忍者スタイルなんてかわいいでしょ」
戦闘服のスウェットとハンテンで講習したかったッスけど、無理っぽかったッス。
らくらくなスウェットもいいと思うんッスけどねー。