残された者達
解放されたはずの奴隷が泣き叫んでいた。捨てられた捨てられたとうるさいのだ。酷い仕打ちをされていたんだからいいではないかと、聖女のお付きが慰めるが、聞く耳を持たない。
「酷い仕打ちをされていた? どこが! 私に与えられた部屋を見てみろ!」
奴隷が与えられていたと言う部屋には、綺麗な絨毯にカーテン、灯りが備えられている。聖女のお付きではとても縁の無い鏡台にアクセサリー、高価な洋服がある。貴族のような部屋だ。
「文字も食事マナー、忙しいにもかかわらず私を教育して下さる! 奴隷が十五才になった祝いに酒なんか買ってくれるような人がどこにいる? 少しでも女らしく振る舞えといって奴隷にここまで買い与える人がどこにいる! 水仕事でぼろぼろの汚い手を見て、労いながら『俺のために尽くしてくれる美しい手』だと言って撫でてくれるような頭のおかしい人が、私のご主人様以外にどこにいると言うんだ!」
聖女のお付きは、おもむろに隣の扉を開けようとした。
「そこには入るな! 私でさえ入ることを許されないご主人様のプライベートルームだ!」
その中を見て、皆は揃って声を失った。絨毯も一切ない。寒々しそうな、石の壁に囲まれた小さな物置小屋のような部屋があった。仕事関連の書類を、ちゃぶ台のような小さな机に残した以外には何も無かった。
奴隷はその光景を見て泣き崩れていた。
奴隷はうずくまり、「綺麗な服もいらない。お金も自由もいらない。あなただけが欲しかった」と意味のわからない事を言って泣き出してしまうのだ。
奴隷は無惨にも、心までぼろぼろにされていたのだった。
少年がしでかしたのはそれだけではない。宗教に制限をかけていた。民衆の習慣を撤廃していたのだ。
「え? 今さら生け贄とか嫌なんだけど。それよか収穫祭とか花火とか他にする事あるし。催し物の承諾サイン。今日中に目を通さないと」
少年は考えも奪ってしまっている。
「まてまてまて! 工場閉鎖ってどういうこと? グループ作って互いに競争させ合うのって非人道的? 優劣つけちゃ駄目なん? 鞭打って強制させるよかましじゃん? 給料に手当ても出るよ?」
「街に人が集まんなくなるよ? 経営成り立たなくなるよ?」「薬の製法わかんねーのにどーすんだよ!」「モンスターわいたぞ! 人よこせ!」「助けて先生!」