少年の成果
一話
少年が好奇心によって開発した魔道具がいくつかある。
しかしそれは半永久システムの開発のための実験の残骸であった。
周囲の力を循環させるだけのものだ。木の枝に魔術を込めたそれ。少年はそれを魔の森のどこかの地面に突き刺して放置したのだ。
「ふえ? 草が生えてる」
ある時少年は魔の森で不思議な光景を目にしたのだ。緑の葉っぱが生えているのだ。
魔の森は、草木などほとんど生えないはずなのだ。たしかに周りを見れば、枯れ枝に枯葉ばっかりだ。木の棒の周りだけに雑草が生えている。少年は気にかかった。「何故?」と。
それは以前に捨てたガラクタだった。それを中心に、あおあおとした雑草が生えているのだ。
これを拡大すれば、農耕ができるのではないかと少年は思い始めた。
少年はガラクタを適当に整えなおして地面に突き刺しなおして様子を見た。たった一週間で効果が見られた。
いずれも時間はかかれども、乾いた土は豊かな土壌になるし、干からびた謎の球根や木くずを一定の範囲に持ち込めば、まっとうな植物の種に変わった。沼は澄んだ泉になるし、凶暴な魔物は大人しい家畜になってしまうのだった。少年はその木の枝を「浄化の杖」と名付け、略してジョジョと名を彫ったのだ。
最初はそれこそ少年も楽しんだ。よくわからない種は、生えてみないと分からない。じゃが芋だったりトマトだったり、キャベツの味がする雑草などだ。時にはハズレとして本当に木くずや石ころの時もある。それも含めて楽しかった。そこから砂糖に加工したり、味噌もどきを作ろうとしたり、ミツバチを捕まえて花畑を広げるのもまた楽しい。
しかし、ある時少年の領域に、おかしい存在が紛れたのだ。
「羽の生えた人形が転がってる」
妖精だった。最初はひどく弱っていた。
興味本位ではちみつをやると、すぐに貪りついた。
妖精は気持ち悪いほどに少年になつくようになった。それからがおかしくなった。
綺麗なお人形のような妖精だったが、一匹現れてから、何処からともなく次々と妖精が蛆虫のごとく湧いてきたのだ。
最初の一匹を少年は「蛍」と名付けてかわいがっていた。その蛍と名付けられた妖精は少年の家畜の世話や、野菜の加工などをよく見ていた。最初は少年に気に入られたいのか、好奇心なのかわからないが、少年の仕事を手伝うようになった。
手伝うと言えば聞こえはいいが、蛍という妖精は他の妖精を指示するなどで、完全に少年の仕事を奪ってしまったのだ。
少年にとって仕事は、すなわち、楽しみだったのだ。
少年がひと月に一階ほどたまに浄化された領域に入れば、妖精たちは実った作物やチーズや絹などを献上してくるようになった。だが、それ以上の関係は一切ない。
「これだけ収めてるんだから文句は無いだろ」とでも言いたげな対応なのだ。蛍と名付けた妖精が死んでからは、それがより一層顕著になったのだった。
二話
少年は楽しみをダンジョンに見出すようになった。彼が拠点にしている街には、ダンジョンというものがあった。魔の森と似たようで、全く似ていない。ダンジョンは地下に広がる洞窟なのだ。そこでは魔の力により、無限に高価な貴金属が産出されるらしいのだ。しかし生成されるのは貴金属に限られるわけではなく、魔物も無限に湧いてくるのだった。
この街の冒険者は一攫千金を狙ってダンジョンに入り込むのであった。ただ、欲に飲まれ、無理に深追いしてしまい、命を落とす冒険者も珍しくなかった。
今まで少年は怖がって一切入らなかったが、ある時悲しいことがあって、自棄になって踏み込んだのだ。
しかし何も怖い事もなく、人も多かった。
それからスリルを求めて入り込むようになった。しかしいつしか慣れてしまい、憂さ晴らしになったり、しまいには頭がおかしくなったのか、ごっこ遊びをするようになったのだ。
「こちらゼロゼロナイン。敵地に踏み込んだ。何! 人質だと!」という痛々しい一人劇をするのだ。
ただ、少年自身、キチガイ行動をしている自覚があるのか、相当人の少ない危険度の高いところでしかしなかった。
このごっこ遊びも相当熱が入ってしまったのか、ごっこ遊びだけに作られた魔道具も多かった。少年はコスプレのように思っているが、性能は十分備わってており、他の冒険者の装備にも劣らぬどころか一級品ともいえた。