ぷろーろぐ
一話
少年が歩道で転んだ。
歩道から踏み外した少年にトラックが突っ込み、あっけなく少年はつぶれてしまった。きれいに頭部だけがつぶれ、少年の体は激しく痙攣した。壊れたおもちゃのように気持ち悪く、苦しむでもない意味の無い反射の動きである。そんな自分の様を、少年自身が見ていた。
--ああ死んだのだ。
少年が理解するのに時間はかからなかった。
気が付いたら少年は見知らぬところにいた。時間がとんだかのように少年は思えた。あまりにも苦しみがなく、白昼夢だったのかとさえ思えた。しかし今の少年自身の感覚は、少なくとも夢ではなかった。
わけが分からなかった。
まどろんだ感覚もない。意識もはっきりしている。
故にわからない。
さてさて。少年は困ってしまった。随分と不安に駆られている。周りは木に囲まれいる。夜のように暗い。もしかしたら、本当に夜なのかもしれない。ここがどこなのかもわからない様子だった。
二話
少年が今居るところは、結局知らないところだった。少年は戸惑いそのまま、森で夜を明かしてしまった。少年は夜を過ごすつもりはなかったが、単に動揺している間に夜明けを迎えてしまったのだ。少年が夜を明けた後、街らしきところに踏み入った。住人らしき人に「ここはどこか」と尋ねてみた。すると明らかにカタカナにするような名前が返ってきた。
言葉は通じるようであった。少年がカタカナにするような名を聞いた瞬間、「ここは北海道のどこかな」なんて思いこんだ。しかし少年には、文化が明らかに異質に映った。
まるでガラパゴスのように思えた。このような現代の中、隔離され、独自の文化によって形成されたと言え、日本とは違い過ぎるのだ。まるでファンタジーの世界だった。
少年は、ある映画を思い出していた。最初は中世のような昔のような舞台と思わせながら、実は現代で隔離された村で過ごしていた。そんな話だ。そんな例が現実にあるなんて、と。
三話
--そうだ。自分は死んでいたのだった。
日本じゃなくても不思議ではないか。ここは死後の世界、第二の世界なのだ、と少年は考えを改めた。
イノシシや熊ならともかく、巨人の化け物が居るのはおかしいからだ。
少年がこの街に来て一月ほど経っていた。
少年は死後の世界でも、生きようとしていた。事故で死んだのだ。好きで死んだのではない。
少年は日雇いの仕事を繰り返していた。しかし、稼ぎはずいぶん少なかった。ある時、どうしても一食の賃金を稼ぐことができなかった。
少年の優先順位は食より住であった。少年にとって宿は絶対なのだ。ホームレスが憂さ晴らしで焼き殺されている姿を見てから、宿無しで夜を明かすのが怖くなってしまっていたのだ。
「なあお前、何処から来たんだ?」
少年は親方から聞かれたことがあった。
「あっちの森から」
「うそ言っちゃいけねえ。あれは人が踏み入れない魔の森だ」
少年はその会話を思い出していた。
少年が出てきたところは、禁忌とされている領域だったそうだ。実際に踏み入れたところ、化け物や人魂がたくさんあった。それは覚えていた。
少年はその森で木の実でも探そうとした。しかしあるのは枯れ木ばかりで枯葉が生い茂るだけだった。緑どころか、みずみずしい物も無かったのだ。
そこで少年は初めて魔物を殺した。護身用の先端の尖った木の棒で突き殺したのだ。
そこに戦う意思はほとんど無かった。魔物に追い回され、逃げ場を失って、恐怖より何故か怒りが湧き起こり、熊の魔物ののどを幾度も衝いていた。
加工でもすれば食肉にできるのではないかと思え、街に持ち帰った。存外すっかすかで、軽かったのだ。血も流さないのが不思議であった。
四話
少年は魔物を殺すことにより、金が多く手に入ることに味を占めた。1匹で日雇い5倍の稼ぎがあるからだ。適正価格なら30倍と言ったところだろう。だが少年は面倒だという理由で気にしなかった。
何故なら新しいおもちゃを手に入れたからだ。
それは魔法であった。
魔法は全て森に漂う人魂のような火の玉から学んだ。原理をイメージし、結果を残すまで模索する。
小学校の頃、自らでモーターづくりをしたことを思い出しながら作業していた。
青い人魂がバリアを張ったり、赤い人魂が磁石のように物体を反発したりする現象が楽しくて仕方がなかったのだ。それを再現することに成功するというのならば、喜びもひとしおだった。
ある時少年は、魔法の目標に「絶対」を追及するようになった。最初は「半永久」というものに取りつかれていたが、案外簡単にできてしまうのだった。
少年の仮説に、魔力というエネルギーがある。この魔力というのはエネルギー変換効率がおかしいのだ。例えるなら、10のエネルギーで20のエネルギーが返ってくる。試行錯誤も必要がなかったほどだ。