涼子(2)
五歳くらいの女の子とその母親と思しき女性が、海の浜辺で花火をしていた。線香花火だけを何度も、何度も繰り返し。
次第に飽きてきたのか、後半は互いの火の玉の部分をくっ付け合い、離して、どちらが火の玉を大きく出来るか勝負を始めた。初めこそ連続して負けたものの、コツを掴んだのか少女は丸々と肥えたオレンジ色の自身の火の玉を見て、満足気な顔を見せる。
(おかあさん、うちにも出来た!)
(あんたはやれば出来る子じゃけえね)
(ほうじゃろ? もっと褒めて!)
偉い、偉い。そう言われながら、母親に頭を撫でられた少女はにっこり笑って、(また来ようね!)と言った。母親も微笑を浮かべると(ほうじゃね。また来ようね)と応えた。
***
いつからだったか、潮騒が鼓膜を震わせるのを知覚した涼子は、抱えた膝に埋めていた顔をゆっくりと上げた。
開いた口が塞がらない、とはこういう事を言うのだろう。涼子は目の前の光景が信じられず、しばらくの間は半開きにしたままの口を閉じるのも忘れて、瞬きもせずにじっと目の前の景色を眺めていた。
目の前には海があり、涼子は砂浜に座っていた。自分は川の土手でスピリタスと睡眠薬を服用し、自殺しようとしていたはずだ。それなのにーーなぜ。
夢なのだろうか。そう思ったが、真上から振り下ろす太陽がじりじりと肌を焼き、皮膚がその刺激に悲鳴を上げているのを感じ、夢ではないと悟る。
では一体全体どういうことなのか。わけがわからないことの連続で、頭がショートしかけた時だった。
「涼子……?」
久しく聞いていない、けれど確かに記憶に残っている声が涼子の耳朶を打った。見上げると、そこには黒いワンピースで身を包み、胸元に黒い薔薇を挿した母の姿があった。
「おかあ……さん?」