第一話
薄暗い空。
いつも通りの帰り道。
変わった事なんて何もなかった。
だが小さな公園の前を通った時、俊介はとんでもないものを見た。
「……は?」
間抜けな声が出て、足が止まる。
人が真黒の格好をした男に包丁で刺されていた。
横たわった人に何度も包丁を刺す男。
俊介の足は震えた。
(逃げるか?それとも助ける……?)
考えていると、男の手が止まった。男は俊介の方を向いて、ニッと笑って見せた。
とたんに俊介の頭が真っ白になった。
(逃げろ!殺される!)
そう思ったのと同時に足が動いた。
全力で走る。
何も考えないで走って家について玄関に入った瞬間、彼はその場にへたり込んだ。
顔を覚えられていないか。家までついてきてたらどうしよう。
そんな考えが頭の中をめぐる。
明日殺されるんじゃないか。
縁起でもないことを考えてしまう。
これからどうしようか。
平凡な毎日を普通に過ごしてきた彼にとって、これはとんでもないできごとだった。いや、異常なものと言った方が正しいのかもしれない。
この出来事が、彼のもとに非日常が飛びこむ火種となったのだった。