5、見たものすべてに死を招く
長編「この神は脆弱だ」に採用。
ビービービー、と音がする。それは、ジェスタを人類であるとした登録から外すことを意味した。人類政府の登録民でなくなり、書類上はジェスタは一個のがらくたへと身分を移された。
死ぬ、とジェスタは思った。
人類の資格を失えば、人類が構築した繁殖するコンピュータ群の保護を受けられないからだ。
「やばい。政府の謀略だ」
これから、政府の保健所と戦いになるだろう。それに勝てば、軍隊が出てくる。それにも勝てば、政府中枢がやってくる。ジェスタは困っていた。勝てるわけないからだ。
保健所が襲ってきた。がらくたと化したジェスタを廃棄処分にするためにだ。
「死んでたまるか。生き残るんだ」
その時、それはただ目の前に落ちていた。いわば、これが餌だったわけだ。ジェスタを釣る巧妙な餌だったわけだ。登録抹消は、この餌のための罠だったといえた。ジェスタはまんまとこの餌に引っかかった。目の前に落ちていた器具を拾って、使ってみたのだ。
道路とビルが同時にふっとんで消えてなくなった。ものすごいエネルギーがその器具から発射された。同時に地震があった。地球の自転が止まったのだ。ものすごいエネルギーが、ジェスタの持つ器具に吸収されていた。
それは、天体の回転を止めて、回転するはずだったエネルギーを発射する器具だった。ジェスタはこの器具を使い、人類の政府と戦ってしまった。それが、壮大に仕かけられた罠だとも気づかずに。
保健所は軽くふっとんだ。地球の自転と公転を止めるだけでよかった。天体滑車銃の威力はそれぐらい強かった。
次に、軍隊がやってきた。
ジェスタは生まれて初めて、人類の軍隊というものを見た。たった五人のヒトが、何十万の機械を従えて動く行進だった。宇宙人とも戦えるぐらいに強いのだという。
「死んでたまるか。おれは何も悪くないんだ。登録を外した政府が悪い」
月の公転を止めた。太陽の自転も止めた。そして、回転するはずだったエネルギーが天体滑車銃から発射された。ジェスタは軍隊を破壊するために、太陽系のあらゆる自転と公転、さらには周辺宙域の星系の自転と公転を止めなければならなかった。戦いが終わる頃、天の川銀河の回転はほとんど止まっていた。
すべての機械を支配するという人類政府の中枢が姿を現した。
それは、歪曲宮殿とよばれる重力と空間の捻じ曲がった二階建ての小屋だった。
「非登録民ジェスタよ。ヒトの存続こそ、我らが至高命題。登録民の存続こそが、人類政府の望みなのだ。降伏せねば、戦いあるのみだ」
ジェスタは迷った。自分が死ねば、人類は今と変わらず繁栄しつづけるのではないかと。だが、なぜだろう。心の外側で、戦いをうながすように何者かが背中を押すのだ。ぐいっと。
「戦おう」
ジェスタは天体滑車銃でこの宇宙すべての星の回転を止めた。
宇宙が死んだような、そんな感覚があった。
人類政府は負けた。歪曲宮殿は開き、ただのふつうの二階建ての小屋になってしまった。
神がいた。
この宇宙の神がジェスタの隣でびっくりしていた。
神を殺すジェスタ。
「やった。やったぞ。あのバカ、引っかかりやがった」
この宇宙の外側から、やっとジェスタを応援していたものたちの声が届いてきたのだった。
このビッグバンの外側にも存在はあった。これはそれとの戦いだった。
この宇宙の外側に三匹の小人がいて、この宇宙に釣糸をたらしていたのだ。その三本の釣糸には、命を引っかけるための餌がついていた。いつからか、ジェスタはその釣針に引っかかってしまっていたのだ。天体滑車銃は、ジェスタが神を殺すために、三匹の小人が用意してやったものだった。
「おまえは、この宇宙の神を殺すためのただの駒だったんだよ。やった。おれたちの勝ちだ。この宇宙の負けだ」
三匹の小人はきゃっきゃっと喜んだ。
絶望するジェスタ。
しかし、ジェスタにはまだひとつのチャンスがあった。天体滑車銃はエネルギーを使い果たしていたが、これは逆回転するのだ。
「ごめんなあ、神さま。おれが新しい神になろう」
ジェスタは天体滑車銃を逆回転させ、そのエネルギーで三匹の小人をやっつけた。
さらに、残ったエネルギーで、かつてと逆回転するビッグバンを起こしたのだった。
こうして、宇宙は消滅と創世をくりかえして存在しつづけるのだった。