4、世界最速の早撃ち
長編「この神は脆弱だ」および長編「先本さつきと五分前砲」に採用。
ビーキンは世界最速の早撃ちだった。何者よりも速い、凄腕の早撃ちだった。しかし、ビーキンはのんびりと暮らすことはできなかった。世界最速の早撃ちの称号をやっかみ、その称号を求めて、ビーキンに勝負を挑んでくる早撃ちたちがごろごろしているからだ。
今日も、世界最速の称号とビーキンの女に欲情した凄腕アレクサンデルが、ビーキンに果たし合いを挑んだ。
「げへへへ、おまえが世界最速だなんて信じられねえ。おまえを倒して、女と栄誉をもらっていくぜ」
アレクサンデルがすごむ。
「かかってきな。世間知らずの坊や」
ビーキンが答える。
と同時にアレクサンドルが銃を抜いた。速い。あまりの速さに観客のだれもその動きを見極めることができない。ゼロコンマ二秒を越える速さでアレクサンドルの銃は発射された。速い。さすが世界最速に挑むだけのことはある。
一方、ビーキンはというと、これが、遅い。遅すぎる。のんびりのんびり、スローモーションを見ているかのように遅い。
当然、ビーキンが撃たれる。ビーキンが後ろにふっとびぎみで倒れる。勝ったのはアレクサンドルか? そんなバカな。ビーキンは世界最速の早撃ちだぞ。こんなことで負けるわけがない。
気がつくと、五秒前にアレクサンドルが撃たれている。歴史が変わる。ビーキンが撃たれたという歴史が変更され、ビーキンの傷が治り、アレクサンドルが一方的に地面にはいつくばる。ビーキンの銃はあまりにも速すぎるため、撃った五秒前に着弾して歴史を五秒間変えてしまうのだ。
速い。あまりにも速すぎるビーキンの弾丸。当然、勝ったのはビーキンで、ビーキンは世界最速の栄誉と自分の女を守りとおしたのだった。
しかし、そんなビーキンを打ち倒す敵が現われた。トムだ。
トムは、ビーキンより速く、十五秒前を撃つことができた。
そのトムを倒したのがボブで、ボブは二年前を撃ちぬくことができた。
そのボブを倒したのがジョンで、ジョンは一億年前を撃ちぬくことができた。
そのジョンを打ち倒したのがデヴィッドで、デヴィッドは百三十五億年前を撃ちぬくことができた。
そのデヴィットを倒したのは、やっぱりビーキンで、その時のビーキンはビッグバンを撃ちぬいていた。
ビーキンはこの世界をつくった神さまだったのだ。
ビーキンは自分の女とずっと一緒に楽しく暮らしていた。