1、凍りついた一点
長編「この神は脆弱だ」に採用
凍りついた一点があった。
それは膨らむことも爆発することもなく、ただ凍りついていた。
「ありゃ、ダメじゃ。どうも失敗したようじゃなあ」
神様は自分の作り出した一点を残念そうに眺めた。
こんなはずではなかった。本当なら、とびきりでかい大爆発が起こるはずだった。
「ふん、こんなもんいらんわい」
と、神様は宇宙になるはずだったその一点をどこかに捨ててしまった。
ころころころっと転がって、その一点はどこかにいってしまった。
忙しい神様はそんな凍りついた一点のことは忘れてしまい、その凍りついた一点がどうなったかなど気にもとめなかった。
時は流れ、現在、凍りついた一点は別の宇宙の中に入りこみ、とある惑星の表層にたどりついていた。
「さあさあお立会い。見なきゃそんだよ。これは世にも珍しい珍品、ビッグバンを起こさなかった宇宙ですよ。ビッグバンを起こさずに一点のままで存在しているのです。世にも珍しい珍品ですよ」
「ねえねえ、この点はなんでこんなに小さいの?」
「それはゼロ次元のままで存在しているからだよ。こんな一点でも時間が流れているんだ。ガチガチに凍っちゃっているけどね。坊や、この点を買う気かい? これは売り物なんだから、勝手に触っちゃいけないよ」
「ねえねえ、これ、いったい何に使うの?」
「そうだねえ、太陽に投げつければ、太陽の方が消えちゃうし、地面に向かって投げれば、惑星の裏側にまで穴が開くね。そんなすごい性能をもった点だからね。宇宙の構造を変えることもできる力を秘めた物体だよ」
「じゃあ、これ、ちょうだい。最近、この星にブラックホールが近づいているから、やっつけるんだ」
少年は凍りついた一点を買いとると、勇ましくそれを手にとった。
「えい」
少年が凍りついた一点をブラックホールに向かって投げると、その点はそのまま真っすぐ飛んでいった。そして、ブラックホールに当たると、ブラックホールの方がすうと吸いこまれて消えてしまった。凍りついた一点はそのまま宇宙の反対側に向かって飛んでいった。
凍りついた一点。
ビッグバンの失敗作。宇宙に匹敵する容量をもちながら、質量はゼロ。体積もないゼロ次元の点。あらゆる存在のなかで、いちばん冷たい存在。
この宇宙のどこかにあるが、拾えば何かの役には立つ。