幸せのかけら
その日、五郎は、帰りが遅くなってしまった。いつもは、午後5時半には、帰宅しているのだが。妻の愛子は、とても心配して、何度も、外に、出てみた。
帰ってきたのは、午後11時くらいだった。お酒を飲んで、酔っぱらって、帰ってきたのだ。電話一本入れなかったので、愛子は、怒っていた。
なぜ、飲んできたかは、五郎は、話さなかった。そして、一緒に飲んだ相手が誰なのかも…
実は、会社に電話が、あったのだ。それは、愛子の同級生の明美からだった。明美の口から、「奥さんの愛子さんは、浮気してますよ。」と、言われたのだ。寝耳に水の出来事だった。五郎は、「証拠は?」と聞いた。明美は、写真を取り出して見せてくれた。愛子が、男性と、腕組みをしている写真だった。
五郎は、震える手で、写真をつかんで、見た。間違いなく、愛子だったのだ。
五郎は、ショックだったが、平静を装っていた。愛子には、そのことを、話すつもりは、なかった。一生、黙っていようと思っていた。
明美は、たぶん、2人は離婚することになるだろうと、予想していた。明美は、以前から、少なからず、五郎をいいなと、思っていた。明美は、独身だった。自分にも、チャンスが、巡ってくる気がしていた。
五郎は、愛子が、家庭を壊さないのなら、許そうと、思っていた。どうせ、長続きは、しないだろうから、と、思っていたのだ。五郎は、愛子を愛しているのだ。
愛子は、ある日、友達と温泉旅行に行きたい、と、言い出した。五郎は、いい気がしなかったが、行くことを、許した。束縛は、したくなかった。
愛子は、喜んで、旅行のしたくをしていた。
箱根一泊旅行だ。電車での旅らしい。
愛子の相手は、同級生だった。同級会で会って、初恋が、再燃したとのことだった。
愛子は、五郎が、浮気を、知っているとは、思いもしなかった。いつものように、何も変わりなく、過ごしていたのだ。五郎の気持ちなど、考えることもなく。
五郎が、何よりも、恐れているのは、家庭が壊れて、愛子と一緒にいれなくなることだった。
そんな五郎の気持ちを、知ってか知らずか、愛子は、たびたび、外泊するようになり、浮気相手と、別れる気配は、なかった。
明美は、五郎に、何度も忠告を繰り返した。
愛子と別れたら、五郎と、結婚したいと思っていた。なかなか、離婚にならないのは、なぜかな、と、思っていた。
五郎は、心では、許していても、寂しさを感じていた。2人には、結婚10年になるが、子供は、いなかった。五郎にとって、愛子は、唯一無二の理解者だったのだ。
五郎は、愛子のことを、信じたかった。1つの区切りを、つけるために、興信所に、愛子の浮気調査を、依頼した。日数は、かかったが、ハッキリした。だいぶ前から、愛子は、浮気していた、とのこと。
五郎は、悪くはとらえなかった。浮気は、していても、今、こうして、一緒に生活しているのは、自分の方だと、いいように、解釈した。
少しでも、自分に気持ちがあるなら、許せたのだ。
そんな時、業を煮やした明美が、五郎を脅迫してきた。「奥さんも、浮気しているのだから、私と会ってくれないと、奥さんに、すべてを話します。」そう、明美は、言って、薄ら笑みをうかべた。五郎は、怒って、「会うことはできない。」そう言って、その場を後にした。
明美は、我慢がならなかった。愛子を、喫茶店に呼び出した。愛子は、なんの用かと思っていた。明美は、愛子に、「あなたのダンナさんは、あなたの浮気を、知っているわよ。」そう、言った。愛子は、その場で、泣き崩れた。
明美は、これで、本当に、2人は終わりになると、確信していた。
愛子は、家に帰り、五郎の帰りを待っていた。
しかし、その日も、五郎は、遅くに帰ってきたのだ。話はできずじまいだった。
翌日は、日曜日で、会社が、休みだったので、愛子は、五郎の起きてくるのを、待っていた。五郎が、起きてきた。愛子が、「話があるの。」と、五郎に行った。五郎は、内心、なんの話か、心配になっていた。「何かな?」五郎は、言った。愛子は、「私の浮気を知ってたんでしょう!なら、なぜ、黙ってたの?」そう言って、泣き始めた。五郎は、きっぱりと、「2人の生活を壊したくなかったんだ。」と、言って、愛子に、ハンカチを差し出した。愛子は、しばらく、沈黙のあと、「私が悪かったわ。」
と言って、泣き崩れた。愛子は、続けた。「離婚してください。」五郎は、言った。「離婚…したいの?」愛子は、首を横にふった。五郎は、「それなら、俺と、これからも2人で、頑張っていこう。」そう言って、愛子の肩に手をおいた。「俺は、いつでも、お前を愛してるから。」五郎は、そう言って、涙ぐんだ。愛子は、「こんな、私でもいいの?」そう言った。
五郎は、うなずいた。
2人は、抱き合って泣いた。




