第十七話 照明魔石開発、そして妹への銀貨
照明魔石の開発は、拡声魔石より、ずっと、難しかった。
最初の試作は、十秒で、消えた。
二週間後の二号機は、三分、持った。
三週目の三号機は、十分。
四週目の四号機は、一時間。
そして、五週目の五号機。
「来たぞ、これは、いける」
グスタフが、興奮した声で、言った。
「丸、二日、点いてる。しかも、燃料切れの兆候、なし」
私たちが見つめる作業台の上で、握り拳ほどの、淡く、温かい、白い光を、放つ魔石が、ふんわりと、光っていた。
「オレンジ色の、温かい光。蝋燭より、目に優しい。煙、なし。熱、ほぼなし」
「綺麗……」
私は、手を、伸ばして、光に、触れた。
温かいけれど、火傷しない、優しい温度。
「グスタフのおじさん、これ、革命だよ」
「ああ、革命だ」
グスタフは、低く、唸った。
「だが、リリア、これは、誰に、売る?」
「全員」
私は、即答した。
「貴族、神殿、軍隊、商人、全員に、売る。蝋燭の代わりに、これを、使ってもらう」
「価格は?」
「最初は、金貨一枚。徐々に下げて、銀貨五枚まで」
「お前——本当に、商売の、神童だな」
グスタフは、首を、振った。
「だが、量産の、職人が、足りない」
「弟子を、増やそう。私、銀貨、出す」
私は、貯金から、銀貨三十枚を、ドサッと、机の上に、置いた。
「これで、三人、雇って」
「……お前、本気だな」
「本気」
そして、もうひとつ、私は、その夜、別の使い道を、決めた。
——リアナに、銀貨を、送る。
私は、信頼できる、下町の便り屋に、銀貨を、託した。
「ベルナール男爵家の、リアナ・ベルナール宛て、これを。差出人は、書かないで。ただ、『姉さんから』と、メッセージだけ」
「分かった。届ける」
便り屋は、頷いた。
——薬を、買って、リアナ。
——お腹いっぱい、食べて、リアナ。
——絶対、迎えに、行くから。
——絶対。
私は、月明かりに、誓った。
◆
その夜、屋敷に戻った私は、地下牢に、向かう前に、ある、新しい、装置を、持っていった。
「オーレリアン、見て」
私は、彼の前に、最初の、照明魔石を、差し出した。
「……これは」
「光、出るよ。見てて」
私は、魔石に、軽く、息を、吹きかけた。
ぱあっ、と。
温かい、白い光が、地下牢を、満たした。
オーレリアンの、紅い瞳が、見開かれた。
そして——
彼の、本来の、不死鳥の美しさが、月明かりの下とは、また違う、朱と金の輝きの中に——
——目の前に、現れた。
「うわぁ……」
私は、息を、呑んだ。
——綺麗。
——綺麗、じゃ、足りない。
——光の中の、神様、みたい。
「リリア」
オーレリアンが、私を、見た。
紅い瞳が、白い光を、反射して、燃えるように、輝いていた。
「……俺、こんな光、二年ぶりだ」
「……」
「ありがとう」
私は——
その瞬間、本当に、危うく、心臓が、止まりそうになった。
「……どういたしまして」
「光、ずっと、点けておいて、いいか?」
「うん。一個、置いていく。明日、また、来るね」
私は、照明魔石を、彼の檻の隅に、そっと、置いた。
オーレリアンは、長く、長く、その光を、見つめていた。
「……お前は、本当に、変な、子、だな」
「うん。でも、好き?」
「……うん」
——いま、何、言った?
——いま、何、言った?
——いま、何、言った?
私は、心の中で、五百回、絶叫した。
——オーレリアンが、私を、好き、って、言った……っ!
——いやいや、リリア、落ち着け。
——たぶん、あれは、「好き=気が合う」「好き=嫌いじゃない」のレベルで、まだ、恋愛では、ない。
——それでも。
——それでも、嬉しい。
——よし、もっと、稼ぐ。
——もっと、発明する。
——もっと、強くなる。
私は、地下牢の、白い光の中で、新たな、決意を、固めた。
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