第十五話 奉公人棟の楽屋係
# 第十五話 奉公人棟の楽屋係
マリカ姉さんに告白した翌週から——
奉公人棟の、空気が、変わった。
「リリア、これ、洗っておいたわよ」
朝、マリカ姉さんが、私の男装の、シャツと短パンを、洗濯して、畳んで、私の藁の寝床の隣に、置いておいてくれた。
「あ、ありがとう、姉さん」
「いいの。あんた、夜中に、洗濯する余裕、ないでしょ」
——その通り、すぎる。
私は、心の中で、感謝の、涙を、流した。
そして、別の少女、ミシェルが——
「リリア、これ、繕ったわ」
破れたシャツの、袖を、糸で、縫い付けてくれた。
「ミシェル……ありがとう」
——え、ミシェル、私の活動、知ってる、の?
私が、戸惑って、マリカ姉さんを、見ると——
マリカ姉さんは、にっこり、笑って、答えた。
「みんな、知ってるわよ」
「え?」
「ここの六人、みんな、あんたの味方。リリアが、いつか、私たちを、救う、って、信じてる」
——え、いつの間に。
マリカ姉さんは、肩を、すくめた。
「私が、こっそり、話したのよ。最初は、信じなかった子もいた。でも、ある夜、ミシェルが、あんたの帰りを、待ってて、見た。土まみれの男の子の格好で、嬉しそうに、戻ってくる、あんたを」
「えっ」
「『この子、ほんとに、夢を、追いかけてる』って、言ってた」
私は、奉公人棟の、六人の、痩せた少女たちを、見回した。
みんな、私を、見て、ふっと、笑った。
——ああ。
——奉公人棟が、変わった。
死を待つだけの、絶望の場所だったここが、いつの間にか——
私と、コレットと、オーレリアンの、夢を、見守る、秘密の、楽屋係に、なっていた。
「みんな」
私は、深く、頭を、下げた。
「私、絶対、みんなも、救う。約束する」
少女たちは、誰も、何も、言わなかった。
ただ、ひとり、マリカ姉さんが、ぼそりと、呟いた。
「リリア、あんた、すごい子に、なるよ」
「うん」
私は、頷いた。
——うん。
——なるよ、私。
——みんなを、救うために、絶対、すごい子に、なる。
◆
その日の夜。
私は、いつものように、地下牢に、降りた。
オーレリアンは、月明かりの下で、静かに、私を、待っていた。
「オーレリアン、聞いて。今日ね、奉公人棟の、みんなが、味方に、なってくれたの。みんな、私の、夢を、応援してくれる」
「……良かったな」
「うん。だんだん、仲間が、増えていく感じ。これ、すごい」
「お前は、本当に、人を、惹きつけるな」
「そうかな?」
「俺も、惹きつけられた、ひとりだ」
——え。
私は、固まった。
紅い瞳が、月明かりに、揺らめいて、私を、見ていた。
「俺は、誰にも、心を、許さないつもりだった。誰にも、歌うつもりも、なかった。でも、お前は、来た。そして、俺は、歌った」
「オーレリアン……」
「お前は、俺の、最初の、人間の、友だ」
——友。
その言葉に、私の心臓が、どくん、と、跳ねた。
——友、か。
——うん、嬉しい。
——でも、私の中では、もう、ちょっと、違うんだけど、ね。
——私の中では、あなたは、私の、生涯の、推し、で。
——いつか、私が、あなたの、隣に、立つに、ふさわしい人間に、なって。
——いつか、あなたを、世界一に、して。
——いつか、もしかしたら、ね。
——もうちょっと、別の、関係に、なれたら、いいな、なんて。
——でも、まだ。
——まだ、私、五歳児だし。
——あなた、八歳の、奴隷だし。
——今は、「友」で、いい。
——今は、それで、十分。
私は、にっこり、笑った。
「うん。私たち、友達。これからも、よろしくね、オーレリアン」
「……ああ」
紅い瞳が、優しく、揺らめいた。
——今夜の、推しは、史上、最高級に、尊い。
私は、心の中で、悲鳴を、上げた。
そして、いつものように、彼の歌を、月明かりの中で、浴びた。
地下牢の、月明かりは——
今夜は、特別、優しく、見えた。
(第十五話・了)
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