第5話 誘惑の瞳と異変
真夜中の森を歩きながらフルーラはじっと考え事をしていた。
(お父様が言っていたあの話が本当なら「彼」が私たちの味方になってくれるはず)
考え事に耽っていた彼女は、目の前に迫っている大木の存在に気づかない。
「もしあのことが本当だとして……いえ、そのためには鍵が……」
その瞬間、フルーラの体はぐいっとシリウスに抱き寄せられる。
「ひゃっ!」
がっしりとした胸板にフルーラは顔をうずめてしまう。
思わず彼女は顔をあげた。
「え……」
ばっちりと二人の視線が合わさった。
フルーラは彼のえんじ色の瞳に捕らえられて動けない。
人間離れした美しい顔立ちとどこか妖艶で誘惑するような瞳に見つめられ、フルーラの頬は赤くなっていく。
(うう……なんで美麗な顔……)
そんな彼女の心の声が聞こえたように、シリウスは悪い笑みを浮かべて囁く。
「おや、悪魔の魅了に捕らわれましたか?」
甘く囁かれた声がフルーラの耳に届く。
「そ、そんなことないわよ! バカ!」
目を逸らして彼から離れようとするも、彼がそれを許さなかった。
「シリウス……?」
「私の心はいつもお嬢様のもの。契約をしたあの日から、ずっと──」
彼は彼女の胸元にあるネックレスをすくいあげると、それに唇をつけた。
「あなたを守り抜きます、必ず」
その言葉は幼いあの頃へ彼女の心をいざなう。
フルーラはシリウスの腕を願いを込めるようにぎゅっと握り締めて告げる。
「傍にいて、ずっと……ずっと……」
「ええ」
「あなただけは裏切らないで。死なないで。私の傍にいると誓いなさい!」
彼女は涙をためて彼に訴えた。
シリウスはすっと黒い手袋を外すと、彼女の頬に添える。
「誓いましょう。愛しいあなたの願いを叶えるために、この身を捧げると」
そう言って彼女の涙を拭って抱きしめた。
──その瞬間、シリウスが東の方へ顔を向けた。
「シリウス……?」
「お嬢様、今から行くところは東の森。そうですね?」
「ええ、そうよ。昔、メイスティア王家に仕えた『青の賢者』に会いにいくの」
「急いだほうがいいかもしれません」
「え……」
シリウスの目は細められ、どんどん険しい表情になっていく。
そして、彼は口にした。
「東の森の結界が何者かによって破られました」
ここまで読んでくださってありがとうございます!
見目麗しい悪魔に捕らわれてみたい……と思いながら書いておりました(笑)
さて、東の森でいったい何が……!




