第4話 グリゴス王妃は嘲笑う
フルーラとシリウスが一休みしている頃、王宮のある一室では王妃が静かに窓の外を眺めていた。
「ついに目覚めたのかしら、あの子は」
真っ赤なルージュが引かれた唇が弧を描く。
その時、部屋にノックの音が響き渡った。
「王妃様、ニールです」
「入りなさい」
王妃の声に応じて、ニールと呼ばれた男は部屋に足を踏み入れた。
白銀の髪が特徴的な彼は、王妃の傍へ向かい跪く。
「王妃様、セルジュ殿下ですが、やはりフルーラを自室に招き入れていれたようです」
「それで?」
「フルーラの執事によって気絶させられ、ご丁寧に柱に紐でくくりつけられて捕縛されておりました」
彼の報告を聞いた王妃は、わずかに眉を動かした後、冷たい声で言い放つ。
「どうせセルジュは妾の子よ。私の子ではないわ。これを機に王位継承権を奪ってしまいなさい」
「ですが……」
ニールがそう言った瞬間、王妃は鋭い視線で彼をみやった。
「口答えするの?」
「……申し訳ございません。ただちに、セルジュ殿下を処罰いたします」
「そうよ。私の言う通りにしていればいいのよ」
グリゴス王家では王妃が主権を握っている。
彼女に敵う者は、この王宮でいないのだ。
王妃は鏡台の前に立つと、ルージュを塗り足していく。
唇に落とされた濃い紅色を指でなぞってなじませた。
「ニール」
「はい」
「あの子はどこへ行ったの?」
「衛兵が執事と共に去ったフルーラを追いかけましたが、常人ではない速さで巻かれまして」
その言葉を聞いた瞬間、王妃は突然持っていたルージュを鏡に投げつけた。
大きな音と共に鏡が割れて床に落ちる。
そのあまりの恐ろしさにニールは息を飲んだ。
「そう。あの子は逃げたの……ふふ……ふふふ……」
王妃は体を逸らせながら、高笑いする。
「あはははははは!!!」
ニールはその姿を見て何も言えない。
王妃はすっと冷静な表情に戻ると、窓の方へと向かっていく。
窓に手をかざすと、彼女は静かに呟いた。
「どうせ、私からは逃げられないわ。呪いが仮に解けたとしても。あの子は必ず私を殺しに来るでしょうね」
「そうなる前にわたくしどもで王妃様をお守りします」
「ふん、必要ないわ。所詮、小娘。この私を殺すこどなどできはしないわ。両親と同じに葬ってあげるだけ」
王妃はニヒルな笑みを浮かべてそう告げた──。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
王妃様登場です!
ブクマや評価などいただけますと
この先の執筆の励みになります。




