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誠実な姫の、不誠実な一日

むかしむかし、とてもやさしく誠実な姫様がおりました。

姫様はみんなからとても愛されていました。

8才年下の弟王子も姫様のことが大好きなのでした。

あるとき弟王子は姫様に花の冠をプレゼントする為、お父様からもらった魔導書でこっそり『花冠の魔法』を勉強し


「姫姉様に渡したいものがあるんです」


と姫様の部屋を訪ね、姫様を椅子に座らせると『花冠の魔法』を放ちました。

しかし、呪文を間違えて覚えていたので、違う魔法をかけてしまうのでした。


弟王子が 「あれ、おかしいな…」 といっている間も、姫様はニコニコ微笑みながら見守っています。


弟王子は花冠がでないのでもう一度魔導書を開くと、呪文を間違えていたことに気づきます。

魔力を込めて 「ペティート」 と言わなければいけない所を 「ペティータ」 と言ってしまっていたのでした。

『花冠の魔法』 の上の欄に 「ペティータ」 と唱える呪文が載っていました。その呪文の説明欄には 


『思っている事とは反対のことを喋ってしまう魔法』 


と記載されていました。

弟王子の顔に焦りの色が浮かびます。


「姫姉様、どこか具合など悪くありませんか?」


と聞くと


「全身具合が悪くてしょうがないわ、病気そのものよ」


と言いました。


「えっ…」

「あ…」


びっくりする姫様に弟王子は


「ごめんなさい! 『花冠の魔法』 をかけようとしたら 『思っている事とは反対のことを喋ってしまう魔法』 をかけてしまいました!」


びっくりした姫様ですが、優しい笑顔でこう言いました。


「あなたを絶対許さない。一生謝り続けていろ」


いつもの姫様とは違う強い言葉でしたので、自分がかけた魔法のことも忘れて、弟王子は言葉通りに受け取ってしまい


「ごめんなさいー!」


と、泣きながら走り去ってしまいました。

姫様も自分の言葉にびっくりしており、弟王子を傷つけてしまったことに動揺しています。


「こうすればいいんだな…」


姫はつぶやきました。

弟王子を追いかけてもまた強い言葉を使ってしまうかもしれません。

ここは一旦落ち着かなくては!姫は思わず口にしました。


「長期的に混乱しなくては!」


そして状況を理解し終えると弟王子が魔導書を置いていっているのが目に入ります。

そして折り目がついているページを開けると


『一晩絶倫になる魔法』


の欄に二重丸が書かれています。

そう言えば飼っている山羊が腹を空かしていたので一枚破って食べさせます。

お父様め、変なものを弟王子に渡さなように後で言っておかなければ。


気を取り直して折り目がついているページを開けると『花冠の魔法』が載っています。

その上の欄に 『思っている事とは反対の事を喋ってしまう魔法』 が載っています。

なるほど、一つ言葉を間違えたんだな。弟王子の優しさに嬉しく思いながらも、解呪方法を見ると、かすれていて読めません。

(どうしよう、明日は結婚式なのに。)


魔導士の先生に解呪をお願いするにしても、隣国へ出張していて帰ってくるのは2日後です。困ったと思いつつも、思った事と反対の事を喋ってしまうのなら、それを見越して逆の事を考えれば良いのでは?

さっそく先ほど弟王子に言ってしまった強い言葉を思い浮かべながら声を発します。


「気にしなくて良いのよ、そんなに謝らないで」


と喋る事が出来ました。

おお!やってやれない事はない。

その日は朝まで会話の練習に明け暮れました。


そして朝、弟王子を尋ねると、涙目で


「ごめんなさい」


と謝るので


「いいのよ、もう治ったから大丈夫、気にしないで」


と返し


「こちらこそ、昨日はきつい事を言ってしまってごめんなさいね」


と言ってクッキーを渡します。

すると弟王子は、ぱあっと表情が明るくなりこう言いました。


「ありがとう姫姉様!今日は結婚式楽しみにしています」


弟王子が元気を取り戻してくれて一安心ですが、普段通りに喋るため頭の中では弟王子にきつい事を言っているので、あまり気分は良くありません。

そうこうしてる間に、式の準備が始まります。


ウエディングドレスを見に纏うと侍女が


「姫様美しいですわ」


と言うので、昨日練習した悪態を頭の中でつくと


「ありがとう、嬉しいわ」


と答えます。そして (悪態ついてごめんなさい) 頭の中で謝るのでした。

無駄に悪態をつかないといけないので、なるべく会話したくないなーと思っていると

父と母と弟がやって来ます。


「おお」

「まあ」

「わあ」


昨日ばっちり練習した暴言を思い浮かべて挨拶します。


「お父様、お母様、弟王子、ご機嫌よう」


「とても美しいぞ娘よ」

「素敵よ」

「綺麗です」


「あのお転婆だった娘が…」


父は今にも泣きそうです。


「王様ったら、まだ早いですわよ。姫、では先に行っているわね」

「姫姉様また後で」


笑顔で手を振り見送ります。

そうか笑顔で手を振っていればあまり会話しなくて済むかも!

そう思った姫様は良きにはからえと言わんばかりに笑顔で手を振りまくるのでした。


式は進み、神の前で愛を誓う瞬間が訪れました。

神父の誓いの言葉の問いかけに


「誓います」


と答える声が隣から聞こえます。

姫は青ざめました。魔法のことでいっぱいで、この事を忘れていました。

後日、魔導士の先生に解呪してもらえばいいと簡単に考えていましたが

この言葉で嘘をついてしまって良いのでしょうか?


「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることを誓いますか?」


今日一日、祝福してくれている人に対して、頭の中とはいえ暴言を吐き続けました。

その報いでしょうか?

隣には、引っ込み思案で外の世界へ出られなかった姫を、強引に連れ出してくれた幼馴染が立っています。姫様は彼の事を愛していました。

姫様はこの言葉だけは嘘をつきたくないと思い、なんとかしようと考えるのですが、どうしていいかわかりません。

そして、困り果てた末にポロポロと泣き出してしまうのでした。


会場は騒然となります。誓いの言葉の問いかけに、泣いていて答えないとなれば

結婚するのが嫌だと思われてしまいます。でもどうしていいかわからないのです。

すると幼馴染が、スっと姫に口付けをしたのでした。

神父が続けて 「誓いますか?」 と聞くと

姫様は口付けされたことにびっくりして


(誓います!)


と思いながら言葉を発してしまいます。

しまった!しかし後の祭りです。

泣いた挙句 「誓わない!」 などと言えば破談間違いなしです。


「誓います!」


あれ?なんとそのままを口にしていました。

会場は拍手喝采、楽団が演奏を始めます。

びっくりしつつも笑顔になった姫様は、もう一度誓いの口付けをするのでした。

こうして無事に結婚式は終わりました。


後日、魔導士の先生聞いたところ、魔法の解除方法は『愛する人の口付け』だったのだそう。

弟王子は、魔導士の先生に注意を受け、正式に魔法学校に通う様になりました。

そしてしばらくして


「もう一度チャンスを下さい、どうしてもプレゼントしたいのです」


と、弟王子が言うのでお願いすると、今度は


『寝ても寝ても、まだ寝れる様になる魔法』


をかけられてしまうのでした。

おしまい。


五幕構成というのを勉強したので挑戦してみましたが、出来ているでしょうか。

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