小さくて、おかしなやつ。(side.ロイド)
変な生き物だと思った。
色々な実験の為に素材を回収していた時、そいつはいた。
こちらの存在に気がついたと思ったら、次の瞬間には自分の胸の中にいて、宝石の様な大きな瞳から大粒の涙を流し喚いていた。
何が起こったか分からなかったが、道に迷ったらしいその生き物は俺の手を強く握り離さない。握っている間に涙が止まったのを理解して、そのまま繋いでいた。
泣いたり、よく喋ったり、笑ったりする。
話しかけるから返事をするだけなのに、そいつは俺を優しいと言い、俺の目をじっと見る。
俺の目は、怖いと良く言われた。
なのにそいつは俺の目を怖がらず、ただの暗闇を怖がった。不思議だった。俺の知らない単語を言い、知らない知識の話をする。興味深かった。知らないものを知るということは、何だか安心するものだったから。
人と関わることが少ない自分にとって、人と関わらずして学べば理解できるものが好きだったが、人との関わりを得て初めて知るものができた。
「ロイド!私のことはサーニャって呼んで」
そう言って笑う顔は、日に照らされて咲く花のようで。アレクサンドラと名乗った少女の家に着き、さっさと帰って話したものの素材を確認したかったが、少女の家もなんだか不思議な場所で。
「困ったことがあったらまず、私に言いなさい。必ず力になろう」
アレクサンドラの父だと言う大人に、見送りの際言われた言葉。普通の貴族なら、身元の分からない者など招き入れたくない存在のはずだ。裏があるだろうし、知らぬ間に調べられるだろう。そう分かっていても、その大人はずっと優しくて。
目線を合わせるように膝を落としたその人は、俺の肩に手を添えながら優しく口元に弧を描く。
「信用してくれとは言わない。君は聡い子だろう。不安もあるだろう。だが、私はただ娘を助けてくれ、見返りも求めぬ君を信用する。本当に、ありがとう」
そう言ったその人は、柔らかく目を細める。
自分の知っている大人とはかけ離れたその姿は、きっと俗に言う、家族を愛する父の姿なのだろうか。
それを知らない自分にとって、やはりまだ信用することは出来ないが、それでも……
「……ありがとう、ございます」
不思議とそんな言葉が漏れる。その言葉にその人は嬉しそうに笑みを浮かべ、俺の背中をポンと押した。
遠くなる屋敷の灯りを尻目に、俺は自分の家へと足を進める。着いてきた送りの人も、優しい雰囲気で終始話をしてくれるものだから、あまり話すことが好きではない筈なのに会話らしい会話ご出来る。
「……変な人達」
家に着き、やる事は沢山ある筈なのに。ロイドはベッドへそのまま横になる。見た事もないような物が沢山目に入り、気になることは沢山あるはずなのに…ロイドは先程までの出来事が頭から離れず、動けなくなっていた。
アレクサンドラ。
出会った中で、一番変わったやつ。
初めて自分から目を逸らすくらい、まっすぐ俺を見るやつだった。花のように笑い、宝石の様な大きな瞳で、躊躇いなく俺の手に触れる姿を思い出す。
温かく感じたそれはきっと、あの温かな場所で養われたもの。だからこそ、別世界のように感じられた。
「……また」
また、会える。
ロイドはそう呟き、ゆっくりと目を閉じた。
人に会うことは好きじゃない。接し方が分からないから。
間違えると怒られ、間違わなくてもあしらわれる。正解が分からないから、関わりたくないと思っていたのに。
ロイドは初めて、誰かに会える事に嬉しさを感じた。
だがロイド自身、それがどんな感情かは知らない。