惜しみなく推しを見る。
その後、公爵家に無事帰宅をした私は本当に沢山怒られた。沢山の人達が私を探してくれていたらしく、もう少し遅ければ警備隊までもが動員されることになっていたようだ。
両親は酷く憔悴しており、侍女であるルネも自分が目を離したばかりにと、想像していた以上に心労をかけてしまった。
「本当にごめんなさい。お外に出てみたかったの」
そう、言うしか無かった。
あまりに自分勝手な行動が招いた結果ではあったが、迷惑をかけた私が泣くのはおかしいと思い、涙を堪えながらも出来る限り反省の姿勢を見せたからか、両親はそれ以上は何も言わず、ルネも大きな咎めはなく終えた。
「サーニャ、君が無事ならいいんだ。本当に…何も無くて良かった」
「はい。本当に、ごめんなさい。彼のお陰で、帰ることが出来ました」
「そうか、そうだったな。君がこの子を連れてきてくれたんだね。本当にありがとう」
私の肩を握る父は後ろに立って状況を見ていたロイドを目視し、深々と頭を下げて礼を言う。ロイドは頭を下げられたことに対しバツの悪そうな顔をしつつ、首を横に振った。
「たまたま見つけただけ、です。お礼は要りません」
「なんと…謙虚な子だ。だが父親としてしっかり礼をしたい。君のご両親にもそう伝えてくれ」
「両親はいません。なので、言葉だけで」
そう言い切ったロイドに対し、父は目を微かに細める。貴族としてではななく父親としての礼節をと口にした言葉だったが、自分の娘と同じ年頃の子にしてはあまりにも無欲で、かつ親もいないというロイドを不憫に思った様子だ。
外は暗いため、せめて今晩だけでもここで休んで行かないかと提案する父。ロイドはそれにも首を振った。
「これがあるから帰れる…です。したいこともある、から」
「それは……何だこれは。灯りか?どうなっているんだ?」
したいことと言うのは先程私と話したことだろうと考えていると、父は私同様にライトに興味を示す。ライトについて説明をするロイドの話をまじまじと聞く父を見た私は、今だと思い口を開いた。
ロイドの可能性を示すのは、ここだと。
「ロイドは色々出来るみたいなんです。地図も正確に把握してて、ここまで帰ってきたし。この灯りも自分で考えてて、必要な時だけ照らせるようになってるの」
「なんと。地図も読め正確に理解出来るのか?これも…確かに説明からして、自分で作ったというのも納得だ。」
「凄いですよね!あと、付与魔法も使えるみたいで」
「付与魔法を?君、歳はいくつなんだ」
「……」
私が説明するのを聞いた父は、想定通りロイドに興味を抱いた様子だ。ロイドはロイドで話を進める私をただじっと見つめている。言われたくないような話ではないはずだが、何か言いづらそうな表情だ。
まっすぐ私を見つめるその目に対し、私は笑顔を絶やさず見つめ続ける。ロイドは暫くして、バツの悪そうな顔をしながら私から視線を逸らした。
「……年齢は分からない。多分、6年か、7年くらい生きてる」
気まずそうな顔をしながらそう言う彼に、私と父は思わず言葉を飲み込んだ。自分の歳が分からないということは、それだけ長い間一人で過ごしていたということだ。
ふむ、と顎を撫でる父を見たロイドは少しだけ眉を下げ気まずそうに目線を落とす。私からしたら、そこまで悪いことでは無いはずなのに。答えられないという事実は思っていたよりもロイドにとって重いことなのだろうか。
「まあ!じゃあ私と歳が同じだと思えばいいわ!私も今6歳なの、同い年ね」
「え?」
「同い年!私と一緒ってことよ」
「……アレクサンドラと、一緒」
私はロイドの手を取るためかけだし、彼をまっすぐ見つめてそう言った。驚いた顔をするロイドだったが、暫く私を見つめたあとこくりと頷く。私に握られた手は微かに震えたが、離そうとはしなかった。
「お父様、私ロイドとまた色々お話をしたいの!次、また此処に来てもらってもいい?」
「ふむ……そうだな。此処で会うのなら良いだろう。ロイドと言ったね?君もまたここに来てくれるかい?」
握った手を離さないまま父を見上げて言えば、父も快く許可を出してくれた。それどころか視線を合わせるように膝を落とし、ロイドの肩に手をおき笑みを浮かべる。
ロイドは私から父へと視線を移し、ジッと顔を見つめた。
「また、此処に来てもいいの…ですか?」
「ああ、勿論だ。君はサーニャの恩人で、良き友として仲良くしてくれると有難い。同年代の話し相手がいる方が、この子も嬉しいだろう」
「……分かりました」
返事をするロイドを見た父は優しくその頭に触れる。一瞬肩を揺らした彼だったが、撫でられたと理解した時少しだけその頬を染めてみせる。
本来ならば、身元が分からぬ者を簡単に受け入れるという事は難しいのかもしれないが、父は恩人だからと良い優しく許してくれた。
ロイドはあまり人と関わることが好きではないという設定だった。だが、実際に彼と出会い感じたのは…人と接する機会がなかったからこそ、接し方が分からなかっただけなのではないだろうかと感じる。
「ロイド!約束だよ。次、また沢山お話しようね」
「…いつ?」
「え?いつがいいって話?ロイドが色々準備出来たらでいいけど、媒介?はどのくらいかかりそう?」
「明後日」
思わずはや、っと声が出た。短い時間に話した内容ではあったが、もう媒介にするものの算段がついているのか?と私は笑みを貼り付けながらも驚いた。早く会えるのなら私としては嬉しいが、無理はして欲しくない。
ロイドが大丈夫なら明後日会おうと伝えつつ、無理はしないでとも伝える。ロイドは不思議そうに首を傾げるため、怪我や体調を崩して欲しくないという意味だと伝えた。ロイドはしばらく考えたあと、わかったとまた頷く。
結局彼はそのまま公爵家を後にした。送りの者をつけはしたが、非常に嫌そうな顔をしつつも彼は拒まず受け入れたようだった。