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長くて短い夜


感動と驚きを他所に、反応を見せなかった少年は外へ出ていってしまった。少年が出た直後一瞬で暗くなる室内に身体を震わせたアレクサンドラは、後を追うようにして小屋から飛び出す。


「行くぞ」


「あ、はい!」




こちらを見てそう言う少年に対し元気よく返事をしてみせる。第一印象はあまり良くなかったかもしれないが、ここから挽回できるかもしれない為、気を抜かないように気をつけようと考えていた。


……大泣きして、服も汚したけど、挽回出来るはず。


元気よく返事をしつつそう考える私に対し、少年はこちらを見たまま動かないでいる。帰るのではないのか?と考えつつも少年を見つめた私は、ふと目線を下に落とす。少年の手は何故かこちらへ差し出されていた。



えっと、つまりこれは、手を取れということだろうか。



何も言わない少年に対し、恐る恐るその手に自分の手を重ねてみる。少年は遅いと言わんばかりにその手を握り、即座に前を向いて歩き出した。



「……あの、手、ありがとう」


「泣かれたら困る」


「あ、なるほど。優しいんですね」


「優しい?」



先程泣いていた私の手を掴んで離さないでいたのは、私が泣いていたからという事だろう。手を繋いでからは涙が引いた為、不安にならないようにと言うことだろう。そう思い口にした言葉だったが、少年はピタリと足を止め私の顔を見下ろした。


怪訝そうな顔だ。幼い顔つきではあるが、似つかわしくない程に眉間に皺を寄せ、目を細めている。




「お前、変だな」


「変ですか!?あ、私アレクサンドラって言うの。あなたの名前を教えてください」


「聞いてない。必要もない」


「助けてくれたお礼もしたいんです」


「いらない」



再度背を向けて歩き出す少年に対し、私はしつこく食い下がった。少年はため息を吐きながら、遂に返事すらしてくれなくなったが、私は少しだけ早足で歩き隣へ並ぶ。


そもそも人とあまり関わりたくないという話は事実のようだ。だが、想像していた以上に優しい人物であるということも知れた。現状は無言になってしまったが、意外にも会話を繋いでくれたのを見るに、そこまで印象は悪くないのではと、何処か感じてしまう。




「ねえ、それどうやって作ったの?電池……では無いか。どうやって明かりがついているの?」


「……陽の光を蓄える性質を持った石がある。日中外に出しておいたそれをいれて、ガラスの反射でまっすぐ出るようにした」


「そんな石があるんだ。さっきのカチッて音は?」


「中に板が入っていて、使う時にボタンを押すと外れる仕組みだ。ずっと眩しいのは困るから」




想像以上に色々考えられている懐中電灯……らしきもの。無言からの脱却は成功したと思わず口元が弧を描く。やはり興味分野に対する話題は間違っていないようだ。


ここからは家に着くまで、様々な話を振り興味を持ってもらおうと思考するアレクサンドラ。だが、ピタリと足を止めた彼。彼女は同じように足を止め少年を見たが、彼からの質問に対し頭を抱えることになる。




「デンチってなんだ?」


「え」


「デンチというのも、光を蓄積する性質を持っているのか?」


「あ、いえ。電池って言うのは電気を蓄えて使うもので。うーん…所謂動力の一種ではあるんだけど」


「動力?水力や風力と同じ?雷魔法とどう違う」



おお、と思わず後退る。想定外の質問、基興味に私は顔を引き攣らせた。私がしようとしていたのはもっと簡単で、科学とまでは言わないが文明の利器を現代に合わせた便利道具位にしよう程度のものだった。

今興味を持たれている部分についての詳細を説明するのは、私の知能レベルではあまりにも無謀すぎる。



「雷魔法…は魔力放出による攻撃が一般的だけど、あれを蓄えて攻撃以外の物に使ったり出来る、かも」


「どう使う」


「灯りをともしたり、道具を動かしたり。でも蓄えたとしてそれを受けたり流したりするものが必要で。それがないと難しい」


「仕組みはわかる?」


「ごめんなさい。ものは分かるけど仕組みの説明は出来ないです」


「そうか」




今までの表情とは打って変わり、その瞳には興味の色が浮かんでいる。答えられない私に対し暫く考える様子を見せた彼だが、特に落胆する様子は見受けられない。ただ私から聞いた言葉を整理しているのか、顎に手を置いている。

学生の頃にやった実験がこの世界でも適用出来れば、人工的に電気を作ることも出来ないことはないかもしれない。だがそれには私の知識が足りない。必要なものの作り方すらわからない。頑張ったとして静電気を起こせるが、原理の説明は無理だろう。


私は繋がれた手をグッと握り、こちらを見る少年に申し訳なさげな顔をする。だが少年は考えるように黙ったあと、私の方へ目を向けた。



「ものが分かるなら出来るんじゃないか」


「え?」


「要は蓄える媒介と受け流す媒介があればいい。術式付与で対応できる可能性がある」


「術式を……え、あなた付与魔法が使えるの?」


「使える。でも今は媒介がない。用意するから、今度教えて」




そうして私は、また会うという言質をとった。まさか彼から今度という言葉が出てくるとは思わなかった事と、想定外ではあるが少なからず彼の興味を引けたという嬉しさが募る。同時に押し寄せる不安。試してみなければわからないが、絶対に成功させなければならないとも心に決める。


そもそも術式を付与するって何だ。

エンチャントのことを言っているんだろうが、付与魔法を習うのはもっと大きくなってからが普通ではないか?

聞きたいことは山ほどあるが、次があると知れた以上今すぐ聞くことでもない。アレクサンドラはグッと言葉を飲み込んだ。


遠くに明かりが見えてきた為、もうすぐそこに公爵家があるということがわかったから。






「ねえ、次会う約束をしたわけだし、あなたの名前を教えてよ」




まもなく家に着く。つまり最後のチャンスだ。

彼の口からしっかりと、確信を得たいと思っている。


少年は歩みをとめないまま、暫く無言で考え込んだあと……小さな声で返事をした。




「……ロイド。」


「っ……ロイド様ね!」


「様はいらない」




そう呟かれた声と共に、私の手を握る彼の手に力が込められる。私は確信に変わった喜びを噛み締めるように、その手を優しく握り返す。



こちらに目を向けた彼の瞳は、ただじっとこちらを見つめていて。私はちゃんと可愛く笑えているか分からなかったが、喜びをそのままに、思い切りの笑顔で彼の名を呼んでみた。



「ロイド!私のことはサーニャって呼んで!」


「アレクサンドラって呼ぶ」


「あ、はい」




出来る限りの渾身の笑顔で放った願いはあっさりと弾かれてしまったが、ほんの一瞬だけ見えた彼の優しい目に、私は心から、嬉しい気持ちを噛み締めた。





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