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「どうしよう……」



辺りが暗くなり、月明かりを頼りに歩いていた私は流石にやばいと理解した。月明かりなど僅かなもので、真っ暗な空間であるこの場は、恐怖を感じざるを得ない状況だったのだ。


思っていた以上に暗すぎる。

確かこの世界は魔物も存在するし、もしかすると危ない状況なんじゃ……。



公爵家のすぐ裏という場所の為、危険な魔物が出るような場所ではないが、当の本人はそんな事まで知っているはずもなく。些細な音にも肩を揺らし、ほんのりと瞳に涙を浮かべる。



「……懐中電灯とか、スマホとか、あれば、明るくできたのに……」



小さな鞄が手に触れた時ふとそんな言葉が漏れる。文明の利器に頼りきって生活をしていた前世と比べこの世界の科学はあまりにも遅すぎる歩みを進めていた。


小さな鞄から取り出したクッキーを一口齧る。不安を感じているからか、あまり味が感じられない。それでも歩く為には食べておいた方がいいからともう一つを取り出した時…すぐ横の茂みが音を立て、思わず叫び声を上げた。





「キャァァァァ!ごめんなさい!私美味しくないです!食べないで……っ?」




突然の音に、大きな怪物を想像した私は大きな声を出す。

見てすらいないのにそんな考えになるのは、想像以上にこの状況に恐怖を感じていたからだろう。飛び上がりながら叫んだ私は音の方へ目をやると、何やら人影のような者が目に入った。



人……?誰か、迎えに来てくれたの?





暗すぎて顔までは見えなかったが、こんな場所にいるということはいなくなった自分を探しに来た誰かだと思い、アレクサンドラは瞳に涙を溜めながらその人物に駆け寄り強くしがみついた。



助かったと、心の底から安堵したのだ。





「怖かった……!ごめんなさい、本当に、ごめんなさい……っ!」




驚く程素直な言葉がこみ上げる。年齢で言えば大人な筈なのに、姿の通り子供になってしまったかのように溢れ出る涙が止まらない。手に握っていたクッキーごと相手を抱き締めてしまったが、それどころでは無いほどの安堵だった。



暫く涙が止まらないままでいたが、アレクサンドラはふと相手から返答がないことに気がつく。気が動転していた為気が付かなかったが、自分が抱きついている人物の身体がそこまで大きくない事に気がついたのは、その時だ。



……あれ、なんか、小さいような…。




恐る恐る顔をあげ、抱きついた相手の顔を見る。

その目にうつったのは、自分より少しだけ大きな子どもの姿で。




「……なんだ、お前」


「……え、誰ですか」


「俺が聞きたい」





ジッと、こちらを見下ろす赤色の瞳。涙に濡れる自分とは対照的に、あまりにも興味の欠片も無さそうな冷たさを感じる少年は、私の手を掴んだと同時に自分から引き剥がした。


突然の行動に驚き体制を崩すアレクサンドラだったが、掴んだ手を離さなかった少年のお陰で何とか持ち直す。




「こんな所で何をしてる。お前はなんだ」


「あ、えっと、迷って……私はアレクサンドラ。あなたは?」


「名前は聞いてない。何故迷った」


「え?家の外に出たら、帰り道がわからなく、なって……」




まっすぐこちらを見つめる少年に、問われるがまま答えていく。その間も少年は手を離すことなく、ただ私の目を見つめていた。


暗くて気づかなかったが、少年の赤色の瞳は実に特徴的で。闇に慣れた目が、姿を鮮明にしていく。

闇を感じさせる漆黒の黒髪に、赤い瞳。自分とそこまで歳が変わらなさそうな見た目ではあるが、恐ろしく綺麗な顔をしていた。少年は暫く私を見つめたあと、来いと短く言葉を発し、私の手を引き歩き出す。




「あ、え、何処へ行くの?私、帰り道がわからないの」


「うるさい。ついてこい」




うるさく声をあげた覚えは無い。だが着いて来いといいながら、勝手に手を引く少年の手を振り払う勇気は私にはなかった。こんな場所でただ一人でいるよりも、ずっと繋いでくれている手の方が暖かくて。ただ少年の背中を見つめながら、森の中を歩いていった。




しばらくしてついたのは、小さな小屋。

引かれるがまま中へ足を踏み入れると、そこは最低限の家具が置かれた場所だった。奥には沢山の本や器具などが見受けられるが、生活感はまるで感じられない。




「お前、地図は読めるか」


「地図?あ、はい。多分」


「……そうか」




小屋に入り手を離した少年は暖炉に火をつけながら問いかけてくる。この世界の地図は見たことがないが、多分大きく差がないだろうと思い答えた。少年は少し驚いたような顔をした後、奥の部屋から紙をいくつか持ってくる。



……明るい場所に来たからこそ、理解したが。

漆黒の黒髪に赤色の瞳。生活感のない小さな小屋。

他の人間の痕跡がないこの場所に住んでいるであろう少年は、もしかすると、ロイドなのではないだろうか。



気が動転していたとしても、脳内では既に結論が出てしまっている。それでも尚、若干そうでなければいいのにとも思ってしまう。あまりにも、出会い方が恥ずかしすぎる形だったからだ。自分としては、大人っぽく登場する予定で。それに加え興味のある話をし、自分の考えと同じく色んな発想について話せる人物として、出会う予定だった。



モゴモゴとそんな事を考えながら顎に手を置いていると、おい、と小さく声をかけられ私はハッとする。




「どこだ」


「え、何がですか?」


「お前の来た場所」


「……ああ、だから地図と」




あまりにも結論から話す少年に対し脳内で会話を繋げていく。つまり帰り道を探してやるから来た場所を教えろと言っているんだろう。


なんだそれ、めちゃめちゃ優しくない?




「じゃなくて。えっと…この地図だと大きすぎるけど。あ、こっちの地図ね。私ここから来たの」


「……何故迷った?」


「あ、はい、すみません。こんな近くで」





色々な地図を出してくれていた少年に対し、自分の家が分かるような地図を発見。ここだと指を指した瞬間、少年はおかしな者を見るかのような目でこちらを見ていた。この距離で迷うなんてどうかしているとでもいいたげだ。でも仕方がない。事実迷ってしまったのだから。



「……送る」





眉間に皺を寄せつつも、小さく息を吐いた少年は紙をしまい暖炉の火を消す。すぐにでも送り届けようとしてくれる彼に、もう少しでも話をしたい私は歩いている最中に色々話をしてみようと考えた。


支度をする彼を横目で見つめつつ、鞄の中から取りだした長い棒。何だこれはと思っていた瞬間、カチッという音とともに細い光が飛び出し……私は目を大きく見開く。




「懐中電灯!?あるの!?嘘でしょ!?」


「かいちゅうでんとう?これか?」


「それ!光るヤツ!なんで持ってるの?」


「作った」




訝しげな顔をしながら、指さされたそれに対し短く言葉を返す少年。想定外の言葉に私は大きく空を仰ぐ。

違う。この世界に既にあるのかと聞きたかったんだ。作ったという回答を得たかったわけではない。ないんだが……

既にこの様な物でさえ作ってしまっていたという事実に、アレクサンドラは感動と、興奮を隠せなかったのだ。


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