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私達の行く末は、私達で決まる。


公爵家でのお祝いは盛り上がりを見せていた。


父の計らいで使用人達も参加できるパーティー形式。

仕事を終え各々が参加することもあり、楽な服装でいいと言うもの。私はドレスだが、皆私服や仕事着のまま探している。


簡易的なバイキング形式の立食で、本来であれば同じ席につくのは少し…と使用人達に遠慮される場面ではあるが、公爵の人柄のお陰か誰も気まずそうな顔はしない。



「お前の家は本当に凄いな。主従関係がある以上、主人も使用人も本来なら有り得ない光景だろ」


「そう?まあ確かに外では出来ないけど…うちは皆家族のように仲が良いって言うのもあるわね」


「そう言えるのがそもそも凄いんだ。公爵夫妻がそういう人だから…そうなるんだろうな」



ロイドはその光景に驚きを見せつつも納得している。

使用人に囲まれ、両親からも賞賛された彼は一段落し今は私の隣で盛り上がる皆を見つめていた。


出会いから八年が経つ。

そして衝撃の出来事となったあの日からも、彼との手紙は変わらず続いた。勝手に頭を抱えていたアレクサンドラだったが、ロイドは何も無かったかのようにいつも通りの態度を取るものだから…彼女はその優しさに甘えたのだ。


何も言われないし、何も聞かない。


だが確実に、よりこちらを慮るように、優しく宝物のように大切に扱われている自覚はあった。気持ちの否定をしないと、殿下に教わった教訓を胸に彼の想いは否定しないが……進展もしていない。




黒いジャケットに金の刺繍が施された上品な服装は、彼の美しい黒髪に映える。結われた長い髪の隙間から装飾がチラつき、夜空の星のように見えて、とても綺麗だ。


そんな彼を胸元には緑の刺繍が刺されたハンカチ。思い込みかもしれないが、自分の色であるそれを見つめながら飲み物を飲んでいれば、ふと彼の目がこちらに向く。




「……それ、初めて見た」


「え?あ、ドレスのことね?実は最近注文したものなの。贔屓にしているショップで……どうかな?」





彼の視線を受けながら、ドレスの裾を少し揺らす。

胸元の白が、腰から下にかけ赤へと変わるグラデーションドレス。胸元と裾にのみ細かな刺繍が施されたシンプルなデザインで、細かいスパンコールの様な石が散りばめられたそれは少し揺らすとキラキラ光って見える。


私の好きな色。

どうしても今日着てみたくて、これを見た彼がどう思ってくれるか知りたくて…彼からの言葉を待てば暫くロイドはこちらを見つめる。


ドレスと同じ色をするその瞳を向けられた私は、あまりにも分かりやすすぎたかと少し恥ずかしくなる。視線を落とし自分の指を弄れば、彼はその手を取り私をテラスへと誘った。



外は既に日が落ちており、鮮やかなライトに照らされた庭園が夜景のように広がる。彼は私の手を取ったまま向き直り……静かに口を開いた。




「似合ってる、けど。何でだ?」


「……その、何でと言うと?」


「何でその色を選んだのかって聞いてる」


「何でって……私の好きな色だから」



彼はまっすぐにこちらを見つめる。

嘘は言っていない、赤は私の好きな色だ。

細かく言えばロイドの瞳の色。彼を連想させる色だからこそ、私はこの色が好きなんだ。


本来相手の色を纏うというのは特別な意味にもなる。

だからこそ彼は、私の手を握りながら聞いてきた。



「俺の気持ちは、知ってるな」


「…ええ。理解しているつもりよ」


「その上でお前は、それを着るのか。それともこれは偶然か…俺を煽っているのか。どっちだ」


「偶然でも、煽っているわけでもない。私は…っ」




結論が出せたかと問われれば、答えは否だ。


彼が好きで、大切で、誰よりも幸せになってほしい。

それは今も昔もずっと変わらず心に在り続ける。

でも、まだ……答えを出すのは、口にするのは怖い。


己の行動により、何かを変えてしまうことや…誰かの人生を壊してしまう可能性がある事が怖いアレクサンドラは、自分の気持ちにおける面では決断するのを恐れるようになっていた。


これから起こり得る状況は、自分にとっても恐ろしく悲しい出来事もある。それでも変えてしまうのはいい事なのか、悪いことなのかは判断もつかない。


一人の人間として相手を見る気持ちは、しっかりと持つ。だがエンドロールが変わることにより、人の未来を傷つけるのを……彼女は恐れていた。


アレクサンドラが何かを言いかけた刹那、ロイドは彼女の手を引き強く抱き締め言葉を過ぎる。自分の肩に感じる彼の温もりは、少し震えているように思えた。




「……言うな、それ以上。俺は今、お前がその色を自分の意思で選んでくれただけで、今はもう十分だ」


「…ロイド……私…」


「静かにしてろ。聞きたくない」




彼が何を想像し、頑なになるのかはわからない。

だが…答えは出ているのに、口には出せないくせに、

彼の色を纏うことで悪戯に翻弄してしまう。


ただ、彼女は証明したかったのだ。


結論は出せずとも、決断が出来ずとも……

彼女にとっての唯一は、この色であるということを。





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