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状況の整理を致します。


あの後、すぐにお医者様が駆けつけ私の様子を見てくれた。異常という異常は頭部への衝撃のみということで、それにより記憶が無くなったのだと診断付けられた。


戻る戻らないの話を父親がしていたが、お医者様の何ともいない反応を見た父は項垂れている。私としてはここから知っていければ問題ないと言えるが、親からしたらショックなのには変わりないだろう。



「サーニャ…。私が不甲斐ないばかりに苦労をさせてすまない。」


「あ、いえ…迷惑をかけてごめんなさい」


「謝らないでくれ!それに私は君の父親なんだ。記憶はないかもしれないが、お父様と呼んでくれると嬉しいよ」




ベッドに座り私の頭を撫でてそういった父は、眉を下げながらそう言って笑った。言われてみると髪色は違うが、自分と同じエメラルドの様な瞳は血の繋がりを感じさせる。


私は言われた通りお父様と呼んでみたが、父親はとても嬉しそうな顔をするので…何だか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。



……本当の少女は、何処に行ってしまったのだろう。



記憶になく、前世の情報のみが脳を支配する。

少女に関する記憶が無いということは、もしかすると頭の傷によりいなくなってしまったのではないだろうか。

そこにたまたま自分が当てはまっただけどなれば、この愛は正当な権利を持って受け止めるべきものではない。



だが、それでも私は言えなかった。

あまりにも暖かく、愛されていると理解出来てしまうほどに優しいこの人達に、私は言えなかったのだ。



____________

________

____。




「さて。状況の整理だ!」




夜、皆が寝静まった頃私はベッドから這い出て意気込む。

ある程度の話は日中確認している為、状況を整理するために私は紙を取りだし知り得た事を書き出していった。


アレクサンドラ・ルカリア。これが私の名だ。

サーニャと呼ばれていた為気が付かなかったが、ここは私が前世でよく読んでいたシリーズ小説と酷似している。

詰まるところ、言った通りの異世界転生だ。


アレクサンドラ・ルカリアという名で、白銀緑目。

現在6歳で、トゥルスト帝国の公爵家生まれ。

帝国唯一の公爵令嬢として有名らしい。



ここまで出揃った辺りで私は気がついてしまった。

酷似どころではない。そのままであると。

前世死ぬ程読んだ小説『傾国の聖女~5人のKnight~』の世界である。略して「聖ナイ」。タイトルに関しては多々思うことはあるが、内容としてはかなり王道的恋愛小説だったのだ。


平民出身のヒロインが聖女としての力を宿し、貴族たちが通う学園で様々なことを学び、最終的に世界を救う話だ。乙女ゲームまで発展しかなり人気を博していた。


そして私、アレクサンドラだが悪役令嬢である。

正しく王道的展開すぎて驚きを隠せないが、一旦それは置いておくとします。何故かと言うと、それよりも大切なことがあるからだ。




「聖ナイのキャラクターってことは、つまり推しのロイド様がいる世界ってこと……だよね?」




そう、推しである。

小説の内容としては王道的展開の為予想しやすいものが多かった。そこに対して色々な感想は勿論あったが、それでも尚人気が高かった理由……それはビジュアルである。

聖女は勿論のこと、出てくる人物全てのビジュアルが驚く程に良いのだ。そして私の推しであるロイド様だが、勢揃いのビジュアルの中唯一挿絵やゲーム内で顔を見せることがないキャラクター。


本来ビジュ最強軍団の話の中でそこがわからないとなると何故推しなのだ?と言われる部分。だがしかし、そこが良いと私は思ってしまった。心を閉ざし、人との関わりを避け、好きなことだけをして生きるという、自由なキャラクターに私は強く惹かれてしまった。好きなことだけをして生きるというのは、それだけ努力と才能が伴わなければできることではないということを私は知っているから。



ロイドという人物は基本的に主要メンバーではない為かあまり表に出ることはなかったが、この世界の中で割と重要な役割を果たしていた。生活必需品やより生活が豊かになる為の発明など、定期的に小説内で出てくる物の製作者が彼であるという情報はあったから。




そうと決まれば。私はパンと音を立て本を閉じる。


「ロイド様に関する情報なら誰にも負けない。私は、ロイド様を誰よりも幸せにしたい」



綺麗な言葉を並べはしたが、簡潔に言うと推し活だ。

ロイドという人物は表立ったことは無いが、かなり苦労の多い人生を歩んでいる。それは読んでいくうちに知り得たことだ。


推しであるロイド様に、辛い思いはさせたくない。

ただそれだけの決意を固めた私は、早速行動を起こすため…本日は就寝した。


まずは英気を養わなければ、と。



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