続く女子会と、突然の。
それからも私達は会話を楽しんだ。
殿下の話題はそこそこに、各々の恋バナで盛り上がりを見せ始めた場は、愛らしく色づいている。
「まあ、モカ嬢はあれからドリスト伯爵令息とずっと手紙のやり取りを?あの時の彼からは想像も出来ませんわ」
「ええ…とても優しくて、定期的に花も添えられているのです。アレクサンドラ様にも改めてまたお話をしたいと仰ってました」
「まあ!ロマンティックね!私も恋がしたいですわ~。出来れば屈強な筋肉のある方がいいですわね」
「ふふ、レティシア様のお家は屈強な騎士たちが多いですものね。やはりそういった方がお好きなのですね」
「筋肉はいいですわよ!大胸筋は勿論ですけど腹直筋、腹斜筋、腹横筋がかんっっっぺきなラインの方がもう素晴らしいですのよ!」
「お、お詳しいですわね……」
愛らしく色づきつつ、予想だにしない筋肉語りが始まり思わず苦笑いもこぼれた。愛らしく花のような見た目に相反し、レティシアはとても活発だ。可愛らしい見た目だからこそ屈強な騎士達に囲まれ育ったレティシアだが、両親の大誤算は筋肉フェチが限界突破してしまったことだと言う。
レティシア本人が楽しそうなので、何も言わないが。
モカはモカでお茶会の日に一悶着あった伯爵令息と、今は仲良く出来ているらしい。隣同士ということもあり、顔を合わせる機会もあるだろうからいい事だ。
リリスはリリスで頬は染めるも、特に話はしなかった。
「それにしても…アレクサンドラ様が幸せにしたいと思う人がいるなんて知りませんでした。そう思われる時点で幸せでしょうね」
「そんなことは無いわ。私の方が幸せばかり貰ってしまっているもの。暫く会えていないけれど、手紙でずっとやり取りをしているのよ」
「そうなんですね!会える予定はおありなの?いつかご紹介していただきたいですわ!」
「予定は…未定ですね。もう四年は経っていますし、五年を超える前には会えたらいいのだけど」
「「「四年!?」」」
三人の声が揃う。
私ですら長く会えていないとは思っているが、それは皆同じ感覚だったようで安心した。彼について話しをしていけば、皆優しく…それでいて興味津々な様子で聞いてくれた。
両親やルネ、殿下以外で、ロイドの話ができるのは新鮮で楽しいと思える。
「このブレスレットも彼がくれたものなんです。とても大切なので、肌身離さずつけているの」
「……まあ、そう、なのね。アレクサンドラ、その…念の為に聞くけれど、本当に恋心はないんですの?」
「ええ、ただ大切な人です。誰よりも幸せに、誰よりも自由に生きて欲しいと、心からそう思うだけですので」
本来推しとはそういうものだろう。
それこそ恋い慕う人もいるのは確かだが、私はあくまで人として幸せになって欲しいと思っているだけ。推しが健やかに生きていてくれるだけで幸せだと思える。
その人がこの世に存在し、苦もなく、幸せであってくれればそれが生き甲斐になるタイプのオタクだ。
三人は何とも言えない顔をしながら目を合わせつつも、それ以上アレクサンドラに対してとやかくは言わない。
恋心との違いがまだ分からない少女達にとって、それは恋心なのではないのか?と思いつつも…それを指摘するだけの知識や経験がないからだった。
「それにしても……四年もアレクサンドラを待たせるなんて中々凄い人ですわね。放っておいたら連れ去られるという危機感がないですわ!」
「連れ去られるなんて事はこの場で起こりえないと思っているけど?」
「比喩でしょう。現に殿下からの打診はあった訳ですし、この間のお茶会でも何名かの令息はアレクサンドラ様を気にされていましたもの」
「あ、私も伯爵令息から聞きました。アレクサンドラ様とその後何かないのかと言われたり、各所でアレクサンドラ様の話をされるみたいで」
「そうですわよ!魔塔?にはそう言った情報が入りませんの?モタモタしていないですぐにでも会えたらいいのに!」
レティシアはプンプンと音を立て頬を膨らす。
私の話が魔塔に入るなんてことはないだろうし、そもそもあったことは手紙で伝えているつもりだ。勿論色々省いたりしつつ話してはいるが、噂など聞かずとも誰より私の話について詳しいだろう。
まあ、逢瀬の件などは何となく耳にしないでほしいが。
皆がワイワイと盛り上がりを見せるのを尻目に、私はブレスレットに手を添える。丁寧に管理されたブレスレットは未だ新品のように美しいままで、嵌められた赤い石も色褪せることなく輝いている。
彼の瞳の色だ。
愛おしさを覚えるそれを優しく撫でながら眺めていると…突然、赤色のそれは揺らりと光を纏って見えた。
その瞬間、突如目の前を覆うのは漆黒の闇。
突然の出来事に息を呑む。
その場にいた三人は驚いたような声を上げるが、外に控えている護衛たちは何も見えないかのような様子で。彼女達が立ち上がるよりも先に私は…その名を呼ぶ。
視界を覆う漆黒は黒く長い髪で。
その間を縫い、私を真っ直ぐ見つめる赤。
「…ロイド、なの……?」
「……すまない、タイミングを間違えたようだ…っ」
彼の名を呼べば、目の前の赤色は小さく揺れる。
状況に気がついた様子の彼は決まりの悪そうな顔をしたが、私は構わず彼を抱きしめてしまう。
リリス達は驚きの声を上げてはいたが、彼が誰なのか理解したようで…ただ静かに見守ってくれていた。
私は状況に甘えるようにただ彼を抱きしめ、その胸に顔を埋め、自分の目に熱がこもる感覚を覚える。
「ロイド……なんで?どうして…私、ずっと……今会えて、でも……なんで……っ」
「…ごめん。色々説明もあるけど、俺も、会いたかった」
そう言って私の背に片手を回した彼は、いつの間にか私よりも背が伸びていて。上手く言葉が出ないのに、会いたかったという私の思いを汲んでくれ返事をした。顔を上げられないほどに瞳に涙が浮かんでしまう。それ程嬉しい筈なのに、この状況を放置するわけにはいかない。
私は涙を拭い顔を上げ、リリス達に目をやる。
三人は心配そうな顔をしつつも、配慮してくれた。
先程まで話をしていた人物が突然やってきたことにより、私は勿論だが皆も驚きつつロイドを観察するように見ている。紹介はした方がいいだろうと、軽く紹介をすませれば…ロイドも言葉を発した。
「皆様の時間を割いてしまい申し訳ありませんでした。一番に駆けつけると約束をしていたとはいい…女性の園に立ち入った無礼をお許しください」
「いえ、私達は……驚きはしましたけれど、話には聞いていましたので。」
「流石の私も驚きましたわ。約束は大事ですけど、次からは予定を伺うのが女性に対するマナーですわよ!」
「私はアレクサンドラ様が嬉しければ、それで。それにしても…」
三人は各々言葉を返しながらもロイドへ視線を向ける。
これは私の憶測だが、多分彼の容姿についてだろう。
ローブに身を包み、夜空が如く漆黒の長い黒髪と…ルビーのような赤い瞳。彫刻の様に整った顔立ちだが、年相応な幼さも感じさせる。アルフォンス殿下も美しく整った容姿ではあるが、別次元であまり見ないタイプの容姿に、三人は色々言いたげであるのだろう。推しを欲目で見た憶測だが。
容姿を言及するのは余り良くないことではあるが、レティシアだけはしっかりと「ものすんごく整った容姿ですわね!彫刻かと思いましたわ!」と発言をして、筋肉が足りないけれどと付け加えられたことにより場は少し緩やかになった。彼女は凄い子だ。
その間もずっと私の手を握っていてくれた彼は、私と一緒に三人を見送ったあと…あまり時間がないと言いながらも、話をしようと言うので。私達は再び庭園へと訪れた。




