10歳になりまして。
あれから月日が経ち、アレクサンドラは10歳になっていた。ふくふくの幼児体型から脱却した彼女は…庭園にてある人物を待っている。
長く伸ばされた白銀の髪は緩いウェーブがかかっており、光が反射してキラキラと輝く。傍から見たら妖精のようだと言われそうな美少女だと…アレクサンドラは自負していた。
それもそのはず、アレクサンドラは死ぬ気で努力をしたのだ。一番気合を入れたのは説明した通り髪である。将来誰がどう見ても分かりやすく、王道的な縦巻きロールになっている姿を思い出した事により、髪質改善を行ったのだ。もちろん、手紙でやり取りをしているロイド主導の元行われたそれは…しっかり要望が満たされていた為、そこら辺にいる美少女達に引けを取らない程美しい髪になった。
「はあ、髪が綺麗だと心なしか心も綺麗になった気がするわね」
そんな髪に触れながらも、人を待つ。
会いたい人には中々会えないけれど、会えない間にも成長したいと決意していたアレクサンドラは…今日も今日とて伝手を作る為に行動している。
「やあ、待たせて申し訳ない」
「あら、御機嫌ようアルフォンス殿下。今日はお早いご到着のようで」
「ははは、手厳しいな」
そう、待ち人とはアルフォンス…第一王子である。
あれからも何度か顔を合わせており、最近では月に一度はこうして会うような仲になっていた。何度も会えば互いの腹も痴れるというもので…今では公の場以外ではこの様な冗談すら言えるようになっていた。
彼はロイドが去って以降、私に良く顔を見せた。また会いたいと言われれば状況の報告は必要だったから伝えたが、彼は思いのほか私を心配してくれたらしい。
本来小説のキャラ像も、正義感に溢れた心優しき皇太子で、時として冷酷…所謂Sっ気があるというもので。アレクサンドラに対する対応は中々に冷たさを感じていたが、アレクサンドラさえ普通であれば、彼はただの心優しき少年だったのである。
「それで、君のその髪を見るからに…ロイドはまた実験成功ということか?」
「まあ、お気づきで?どうですこの美しい髪!サラッサラのフワッフワで物凄く良い香りでしょう!?」
「分かったから暴れるな、折角の髪が乱れるぞ」
気づいて貰えたことに喜びを感じ、ふわふわ感を演出する為にクルクルと回って見せれば彼は愉快そうに笑う。
お茶はあくまで名目で、彼はロイドについての話を聞く為だけに公爵家へと足を運んでくれていた。
私も殿下ももう10歳だ。婚約者ですらない私は、父の付き添いで王城に行くというのは流石に言い訳として使えなくなっている。
そもそもだが、最近巷では第一王子殿下が定期的に公爵家へ訪れているという噂もたち始めたようで。逢瀬だなんだと騒がれているらしいが、正直申し訳ない気持ちである。
「殿下、私が言うのもなんですがそろそろ婚約者候補を本格的に決められては如何です?噂程度ではありますが、先の事を考えると噂も馬鹿には出来ませんよ」
「本当に君にだけは言われたくないな。アレクサンドラ、君も話が出ているだろう?そこまで言うなら首を縦に振ったらどうだ。状況が解決するぞ」
「ええ…正直に、殿下はどうお考えですか?この状況を」
出されたお茶に口をつけながら目を伏せる殿下にそう言ってみる。首を縦に振るという話したが、結論から話すと王家からの婚約の打診についてである。流れに沿って、当然が如く送られてきた手紙だったが、否とは言わずとも私は結論を出していない。
それについて王家が強く言ってこないことには理由がある。それは、私にも功績というものがあるからだ。
一番最初に出た太陽光ライトは、私とロイドの共同制作として世に広まった。多くから驚きの声はあがったが、その際私への注目は高まったようで…ロイドがいなくなってからというものの、私自身が作成したりは出来ないが知識を絞ることは出来る為、その後も色々功績として与えられている。掃除機はまだ未完成なんだけどね。
それもあり、仕事忙しいと言う理由をたてれば特に結論を急がれることはなくなった。国としても、利益あるものはひとまず優先してくれるらしい。
会話に戻るが、殿下としても責務はあれど必ずしも私と婚約しなければいけないわけではない。友人として言うなれば非常に相性は良い方だと言えるが、仲良くなりすぎた故にそういう対象として見れないのではと思い聞いてみた。
「僕は構わないさ。君はいつも新しくて面白いし、取り繕わなくていいと言うのは互いにとって大きな利点だろう」
「うーん、何だか理屈っぽいですね。殿下らしいです」
「酷い言い草だな。君はどうなんだ?」
「私ですか?…義務などを抜きにして本音を言えば、私は互いの利益は関係なく、互いを尊重し思い合える人と結婚したいですかね」
「へえ、尊重ね」
聞いてきた割には興味が無さげだ。最近は会う度に婚約についての話を持ち出されるが、意外にも彼はそれを強要するような事は言わなかった。
それよりもと、カップを置いた殿下は頬杖をつきながら口角を上げてこちらを見る。護衛の人達から見えない位置だからといって、気を緩めすぎではないかと思えるが…ここだけの話私も肘をついているため何も言わないでおく。
「その内王城から手紙が届くだろう。同じ年頃の男女を誘ったお茶会の誘いだ。友達を作る良い機会だね」
「まあ、それは良いですね!実を言うと何人かは友達がいるんですが…どこまで送る予定が聞いても?」
「爵位のある家門は全てだろう。友人がいたとは驚きだが…エスコートする人がいなければ受けようか?」
「お気持ちだけで結構です」
手を前に突き出しノーと唱える。それを見てまたも愉快そうに笑う殿下は今日も楽しそうだ。
私は私でしっかり交友関係は広めつつある。まあ、殿下から聞いた仲良くなれそうな人達を招待してみたりした結果だが…やはり伝手を使うならば権力がある人の方が良かったなと。社会勉強として様々な家門との交流を図る殿下のお陰で、最低限の情報だけだがしれたことも大きいだろう。
お茶会の支度や好みのリサーチなどは自分で頑張った上で、仲良くしている人達がいるのだ。褒めて欲しいくらいである。
「エスコートは冗談だが、当日は宜しく頼むよ。互いに立場を理解した上で行動しよう」
「畏まりました。またその時、是非よろしくお願いいたしますわ」
そろそろ時間だ。それを伝える為にこちらへやってくる側仕えの者が目に入った為、互いに笑みを張りつけ上品に声を漏らした。
お茶会の情報が早めに入手出来たことには感謝しよう。
公爵家の人達は普段から、いかに私を着飾るかということに心血を注いでいるからだ。短期間となればこちらの身が持たないため、今日のうちに内々に報告をしようと考え…それ以降のことは、明日の自分に任せようと考えるのをやめたのだった。




