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想定通りの来訪と、想定外の出来事。


いつもより早い目覚めと共に、支度は始まった。

アレクサンドラが目覚めた時から既に公爵家はバタついており、昨日の宣告通りやってくるであろう殿下を迎えるため大忙しである。


一応お茶の名目ではあるが、しっかりと連絡が届いた為昼頃には到着する見込みだ。仕事がある父に変わり母が屋敷を取り仕切り、私も支度のためと使用人達に囲まれていた。



「お嬢様、こちらのドレスはいかがでしょう」




髪を整え、用意されたドレスを見る。

こちらに来て随分経つが、この瞬間はいつも楽しみであった。前世では着ることのなかったドレスを着れるというのもあるが、目で見るだけでも色鮮やかで心が踊るから。


用意されたドレス目を通す。それはいつもと違い淡い青を基調としたドレス達だ。普段のアレクサンドラであれば、進んでは袖を通さないであろう色。何となくだが、昨日あった殿下の瞳を連想させる。



「うーん…正直に答えて欲しいんだけど、この色は私に似合うと思う?」


「勿論です。お嬢様のお好きな色ですし、何より可愛らしいお嬢様はどんなドレスもお似合いですよ」


「そっか、じゃあ、私にいっちばん似合う色?」


「え?……そう、ですね」




私の言葉を聞いた使用人達は互いに目を合わせる。一番似合う色と言われ、各々が考えている様子だ。多分だが、一番似合うかと問われれば否である。聞いた話による憶測だけれど、殿下と会う時は殿下に合わせた色を纏っていたのだろう。私は帝国唯一の公爵家で、唯一の公爵令嬢という立場にある。その為か殿下とお会いする機会はより幼い頃からあり、最有力婚約者候補としてあげられていたようで。まあ、将来的に一応婚約者にはなるストーリーではあったしね……。


つまりだが、殿下を慕っていたのだ。



だが現在の私にはその記憶もなく。流れからしてそこを壊す訳にはいかないのだろうが…正直言ってそのドレスを着たいとは思わなかった。見た目からして似合わないことはないだろう。だが、一番似合う色ではない。白をベースに置いた淡い色合いの装いが似合うのではないだろうかと考え込んだ。


着れるなら、赤色を着たいんだけどね。



私の反応を見る使用人達は、記憶喪失ということは知ってくれている。それでも殿下を想う気持ちは変わらないという計らいでいつもの色を用意してくれたのだろう。どうしたものかと悩んでいると…一人の使用人が奥から一着のドレスを持ってきた。




「こちらはいかがでしょう。お嬢様は何色でもお似合いかと思いますが…いつもと違う形ではあるけど、こういうのもお似合いかと」


「わ……素敵なドレスね!」



提案されたのは白のドレスにモスグリーンのシフォンがあしらわれた可愛らしいドレス。銀色の装飾が所々施されており、シンプルに見えつつも上品な物だ。

確かに普段用意されるドレスとは、だいぶスタイルが異なるものだった。アレクサンドラは愛らしい顔立ちに合わせた、フリルが多い服を好んでいたようで。どのドレスも素敵だけど、正直子供用に作られた物が多かったのだ。


そんな中、初めて見るシンプルで素材を活かしたドレスに思わずパッと笑顔が浮かぶ。今まで出たことは無いものだったが、自分に合うというのは容易く想像出来た。


私がそのドレスにすると言えば、何名かの使用人は少し驚いた表情をしたが……特に何かを言う訳でもなくすぐさま支度に取り掛かった。




____________

________。




「帝国の星、第一王子殿下にご挨拶申し上げます」




そして時刻は昼前、予告通り殿下は訪れた。

母と使用人達とお出迎えをし、礼儀に則り挨拶をする。

殿下は暫く私を見つめた後、ニコリと笑みを浮かべた。



「急な誘いを受けてくれたこと、感謝します。アレクサンドラ嬢…今日は一際素敵な装いですね」


「ありがとうございます。こちらへどうぞ」




殿下は今日も今日とて輝かしいばかりの白を基調とした服装だ。明るい場所で見るからか、見た目も相まって神々しさが増して見える。私は笑みを崩さないまま殿下を案内し、何名かの使用人を残して母も席を外した。


私が好きなお茶を持ってきたと言う殿下から渡されたのは、ハイビスカスティーというもので。前世でも飲んだ事がないお茶のため、正直不安はありつつも有難く受けとった。




「それで、怪我はもう本当に大丈夫なんですか?」


「ええ、痛みもありません。馬に蹴られたという話は聞きましたが、有難いことにその時の記憶は無いので特に問題も」


「そんなに大変な事になっていたんだね。傷は残らないと良いが、もし何かあれば力になるよ」




お茶を淹れる間、そんな話をする。特に要件などは聞いていないが、お茶会というのはどう言った話をするべきなのか悩んでいた私にとって、話題をくれるのは有難い。

傷の心配をしてくれる殿下に対し、気にかけてくれているのだと良い印象を持った私は…感謝を述べつつ己の額を見せてみた。



「傷自体はゆっくり消えていくようなので大丈夫かと思います。前髪で隠れますしね」


「……そう。それにしても、今日はいつもと装いが違うようだが…そういったドレスを着る君を初めて見たよ。似合っているね」


「まあ、気づいて下さり嬉しいです!メイドが勧めてくれたんですが、とても気に入っています」



思ったよりもスムーズに会話が出来ているなと、割と上手く対応出来ている自分に何とかなるじゃんと内心考える。

笑顔の殿下を他所に、運ばれてきたお茶へ手を伸ばした。

見た目は普通のお茶であるが、名前通りに少し酸味のある花のような香りが鼻をくすぐる。一口含んでみればそれは鼻をぬけていき、頭の中に花畑が連想された。


美味しい、そう口した私を見た殿下は変わらぬ笑みを浮かべたまま…使用人の方へ目を向けた。



「失礼。少し二人で話をしたいんだが、席を外してもらえるだろうか」




殿下の口から出た言葉に私は思わず飲み込んだお茶を出しそうになる。突然の二人きり宣言だ、仕方ない。笑みを張りつけつつも目に入ったルネに断って欲しいという念を送るが、殿下相手に断れるはずもなく…使用人達は何かあればと言葉を残して部屋を後にした。



暫しの沈黙。

笑みを浮かべたままこちらを見る殿下を、私も同じような笑みで見つめ返す。何となく気まずい空気に耐えかねた私はもう一口とハイビスカスティーに口をつけたが、その時殿下は口を開けた。




「それで。君は本当に僕の知るアレクサンドラ嬢か?」


「っ……え、っと?それは、どういうことでしょう」




今度はしっかりと噎せ返った。それ程の衝撃がある一言だったからだ。あまりにも突然告げられたその言葉の意味が分からず問いかけてしまう私だったが、殿下は息を吐きながら足を組みこちらを見る。


先程のお上品な空気感は残したまま、どこか違う空気を纏って。



「傷から見るに頭を怪我したのだろう。まさかとは思うが記憶でも飛んだか?それとも気を引く為に敢えてお淑やかにしてるのか?」


「は、い?気を引くというのは、つまり?」



笑みを浮かべつつも此方を全く見ていないように見受けられる雰囲気の殿下は、私の反応に対し遂にその笑みを消す。椅子の背にもたれかかりこちらを見る様子は、先程とあまりにも違うため、アレクサンドラは思わず瞬きを繰り返した。


びっくりした。人間こんな一瞬で変わるものなのね。



「殿下の仰るお言葉の意味がわかりません。私は別に気を引くような真似をした覚えはありませんし…」


「そうか?いつもなら此方にお構いなしでずっと張り付いる癖に、昨日もそうだが君は僕に寄ってこなかった。茶に誘えば大喜びで王城へ足を運ぶ癖に、わざわざ来てやった僕に対してあまりにも他人行儀で興味が無い。それに加えてドレス……ドレスだが、何故今日は青ではないんだ?全部が全部君らしく無さすぎて、違和感しか覚えないよ」





バレた訳では無いのかと安堵したのも束の間、驚く程のセリフ量に圧倒されてしまう。つまりいつもとあまりにも違いすぎる私に対し、疑問しか生まれなかったということだ。

殿下から見た私は相当面倒臭い相手だったんだろうなと、自分が言われているくせに他人事の様に憐れむ。アレクサンドラの幼少期は知らないが、大人になってからはそこまで迷惑をかけているようには見えなかった。ここから成長したのだろうか。


とりあえず。自分がしたことでは無いが、自分のことでもあるためと…私は殿下に頭を下げてみる。



「ええと、ひとまず。普段ご迷惑ばかりおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。以後気をつけます」


「……君、謝罪の存在を知っていたんだな」


「流石に私への評価低すぎません?」




迷惑をかけたことに対しての謝罪を述べただけなのに、一際驚いたように言う殿下は初めて感情を顕にした顔をした。言葉で表すとお化けでも見たかのような顔である。



思わずツッコミせざるを得ない状況だった為声を漏らしてしまったが、私は何事も無かったかのように姿勢を戻しお茶に口をつけ一息ついた。

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